最新グローバル投資 個人投資家が新興国投資で陥りがちな罠

 このコラムでは、最新グローバル投資ということで、グローバル投資の最前線についてのシリーズです。本日は4回目で、個人投資家が新興国投資で陥りがちな罠について書かせていただきます。

 本日Moody’sによる日本格下げのニュースがありました。日本の信用不安から生じるインフレリスクより資産を守るために、海外投資は有効な手段になります。また、日本国内に投資するより、より高いリターンが見込め、海外にバランスよく分散投資をすることで、リスクも軽減できます。

 私たちは、証券会社や証券取引所、大学やセミナー運営会社による講演や雑誌への寄稿という形で海外投資を中心とした投資についての解説をしておりますが、日本の個人投資家の海外投資への関心が高まってきたと実感しています。しかし同時に懸念される個人投資家の新興国投資の傾向があります。それは、メディアなどで取り上げられている個別市場・個別株への関心が非常に高いことです。

 1月11日に、ラオスの株式市場がスタートしましたが、早速、ラオス市場に投資をするにはどうしたらいいでしょうか?と質問を受けました。ラオス市場にはまだ2銘柄しか上場しておらず、日々の売買量も少ないので、投資初心者にはお勧めできません。

 また、過去ドバイやベトナムなどが国内メディアでもクローズアップされ、多くの個人投資家も関連商品に殺到し、しかしそのときにはすでに市場が過熱しており、直後におとずれた暴落により大きな損失を出したことは記憶に新しいところです。このように個人投資家が、熱した、しかも時価総額の小さい個別市場・個別株に参入するのは非常に危険です。個人投資家が新興国投資を始める際に、簡単に危険を回避できる2つの方法を紹介します。「株式時価総額」と「一人あたりのGDP」を確認することです。

 グローバルで最もメジャーな株式指数であるMSCIによる分類によると、グローバルの市場を3つのカテゴリに分けています。注目していただきたいのは、日本では新興国としてひとくくりにされている国々が、エマージングとフロンティアの2つに分けられていることです。フロンティア市場は、エマージングカテゴリの時価総額の10分の1程度しかないことがわかります。過去のリターンをみると、時価総額の小さな市場、特にフロンティアの市場のボラティリティが高く、リスクが高くなっていることがわかります。

先進国:
 アメリカ、日本、イギリス、香港、フランス、ドイツ、カナダ、スペイン、シンガポール、イスラエル、ギリシャなど

新興国(エマージング):
 中国、インド、ブラジル、ロシア、韓国、南アフリカ、メキシコ、トルコ、インドネシア、タイ、エジプトなど

フロンティア市場:
 UAE、カタール、アルゼンチン、ナイジェリア、ヨルダン、ベトナム、レバノン、ケニア、バングラディッシュなど

 この株式市場に合わせて、一人当たりのGDPもみることが大切かと思います。例えば、2009年の一人当たりのGDPをみると、ベトナムは市場規模も小さく(フロンティア市場)、かつ一人当たりのGDPも1,000ドルと非常に低いのでリスクも高いといえます。エジプトは、一人当たりのGDPは2,450ドルとインドより高く、エマージング市場に属するのでベトナムよりはリスクも低いと思われます。

 個人投資家が新興国投資を検討される際には、先進国市場もしくはBRICsに代表される新興国でも時価総額の大きな市場に注目するとよいと思います。ほかに、各カテゴリ全体をカバーしたMSCIコクサイ指数や、MSCIエマージング指数に連動して値動きする国内ETFもありますので、そうした手数料が安く幅広い市場をカバーできる商品を使って投資をすることをおすすめします。

(岡村さとみ)

■プロフィール
 早稲田大学理工学部卒、早稲田大学大学院理工学部経営システム工学科卒。
外資系証券会社の自己勘定部門&ヘッジファンドにおいて、5年半日本株の運用に携わる。計量的分析を用いて、マーケットに左右されない絶対的リターンを追求したトレードを行う。

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)

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最新グローバル投資 グローバルでみた業界再編

 このコラムでは、最新グローバル投資ということで、グローバル投資の最前線についてのシリーズです。本日は3回目で、グローバルでみた業界再編について書かせていただきます。

 先日、新日本製鉄と住友金属工業の合併が発表されました。鉄鋼メーカーの粗鋼生産量を比較すると、合併前の新日本製鉄は約2,800万トンで、グローバルで6位、住友金属工業は約1,100万トンで23位です。合併後は両社合計で約4,800万トンとなり、アセロール・ミタルに続きグローバルで2位に上昇します。
 このように、今回の合併は、グローバルトップから大きく引き離された国内トップ企業が、グローバルでの生き残りをかけて、規模拡大を図ったと見ることができます。

 下記に、ブルームバーグの業界定義による主要20業界の、株式時価総額で見た上位5社、合計100社のうち、各国の企業が何社あるか示しました。

1.米国 43社
2.英国 11社
3.中国  9社
4 ドイツ 7社
5.フランス 5社
5.日本 5社
7.スイス 4社
7.スペイン 4社
9.カナダ 2社

すべて1社
 サウジアラビア,イタリア,インド,オランダ,カタール,韓国,スウェーデン,ブラジル,ベルギー,ロシア

 これをみると、米国が断トツ1位の43社で、鉱業、ユーティリティ、不動産業界以外すべての業種にランクインをしており、幅広い業界に強いことが分かります。2位は英国の11社で、植民地時代に築いた鉱業業界に4社が入っております。続いて、3位は中国の9社で、香港最大級の不動産会社であるサンフンカイ・プロパティーズを筆頭に、不動産業界に3社が入っており、通信業界1位のチャイナモバイル、銀行業界1位の中国建設銀行などがみられました。

 一方、日本の企業は、証券・その他金融業界の4位に野村ホールディングスが入っており、野村ホールディングスは、リーマン・ブラザーズ のアジア・パシフィックと欧州・中東部門を買収をしたことで、グローバルの中で存在感が増しました。他には、不動産業界の3位に三菱地所、自動車業界の1位にトヨタ自動車、2位に本田技研工業、5位に日産自動車の5社が入っているのみです。

 コンピュータ業界の5位にインドのタタ・コンサルタンシー・サービス、6位インフォシス・テクノロジーズが入ったことや、サムソン電子がインテルを抜いて半導体/電子業界最大手になったことなどは、20年前では想像もつかないことでした。まだそれぞれの業界の上位5社にほとんど入っていない、BRICsを中心とする新興国も、グローバルでの競争が今後ますます激しくになるにつれ、まさに生き残りをかけて規模を拡大していくことでしょう。

 国内の企業も、業界再編により収益力を高め、グローバルトップに立つ国内企業が複数出てくることを期待したいと思います。

(岡村さとみ)

■プロフィール
 早稲田大学理工学部卒、早稲田大学大学院理工学部経営システム工学科卒。
外資系証券会社の自己勘定部門&ヘッジファンドにおいて、5年半日本株の運用に携わる。計量的分析を用いて、マーケットに左右されない絶対的リターンを追求したトレードを行う。

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最新グローバル投資 コモディティの長期的展望

 このコラムでは、最新グローバル投資ということで、グローバル投資の最前線についてのシリーズです。本日は、前回のBRICs最前線に続き2回目で、グローバル投資において非常に重要となるインフレとコモディティ価格の推移について書かせていただきます。

 金の価格は史上最高レベルにあり、原油価格もWTIが1バレル90ドルを越えて推移するなど、コモディティ価格が上昇しています。要因としては、新興国経済の急成長に加え、米国・EU・日本など先進国がリーマンショック後の経済を支える為に、未曾有の金融緩和をおこなっていることにあります。
 ここ1−2年は、上記の2つの要因がどのように推移するかがコモディティ価格、ひいてはグローバルでのインフレ傾向を左右すると思います。

 では、もう少し長い目線、5−10年のコモディティ価格はどのように推移するでしょうか。より長期では、コモディティの価格要因として、新興国経済の成長の方がより重要になってくると考えられます。

 一般的に、1人あたりのGDPが3,000ドルを突破すると、住宅・車など耐久消費財の売れ行きが爆発的に伸びると言われています。中国は最近このレベルを突破し、インドも現在の成長率を維持すると10年内にこのラインを突破すると考えられます。現在、地球上には10億台の自動車が走っていますが、中国・インド両国が本格的なモータリゼーションに入るとこの台数が2倍になります。買換え需要も含めて、現在約5,000万台の乗用車出荷が倍以上の1−2億台にまで増えることも十分考えられます。

 このような事態になれば、エネルギーを中心としたコモディティの価格急上昇が起きることはだれしも容易に想像できると思います。さらに、この価格上昇を煽りかねないのが供給サイドの問題です。中東地域を除く、全世界の原油や天然ガスの埋蔵量と生産量の予測は詳細なデータが開示されています。それによると、2010年代から生産量の減少が始まるようです。

 また、中東の原油・天然ガスの生産量が想定以上に伸び、シェールガスなど非在来型のエネルギーの開発が進んでも、2020年以降は高い確率で化石燃料の生産減少が始まるようです。原子力や再生可能エネルギーで代替可能だと思う人もいるかもしれませんが、化石燃料のエネルギー量は莫大で、2020年以降に予測される、毎年2%の減産を補うためには、現在世界全体に存在する原子力発電所500基を、毎年500基ずつ増やしていかなければなりません。

 ご存知の通り、原子力発電所の製造には長期間かかるため、毎年、今世界に存在する原子力発電所の数と同じだけ増設することは不可能です。風力や太陽光で補う場合でも、かなり前倒しで大規模な建設を始めなければ間に合いません。エネルギーへの需要増加と供給減少が起きれば、コモディティ価格は急上昇し、世界経済は大打撃を受けます。

 前回のコラムで、エネルギーの制約を考えると、今と同じペースの成長を維持することができる地域は、中東と南米のみであると書きました。グローバルにこのエネルギー制約という差し迫った危機が共有され、大規模な再生可能エネルギーの投資が行われることが期待されます。

 その意味では、日本の産官学が一体となって、サウジアラビアなど中東に太陽光発電所を敷設するプロジェクトが進んでいますが、こちらは要注目です。

(岡村さとみ)

■プロフィール
 早稲田大学理工学部卒、早稲田大学大学院理工学部経営システム工学科卒。
外資系証券会社の自己勘定部門&ヘッジファンドにおいて、5年半日本株の運用に携わる。計量的分析を用いて、マーケットに左右されない絶対的リターンを追求したトレードを行う。

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最新グローバル投資 2011年BRICs最新情報

明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 ゴールドマンサックスは、BRICs4ヵ国のGDP総額が向こう30年以内に先進主要6か国を上回ると予想しています。今回は、引き続き高い経済成長が期待できるBRICsの2011年経済成長率と利上げ対策について書きます。

・中国
 昨年は日本を抜いて株価が不調で、約15%の下落でした。IMFによると、今年の経済成長率は、BRICs中一番高い9.6%が見込まれています。2009年前半は、小売販売が前年同期比18%という高い伸びを記録し、国内の需要が中国の成長を支えています。中国のGDPに占める個人消費の割合はまだ4割程度であり、インド、日本の6割に比べて低いウエイトになっていますので、今後もGDPの伸び率(経済成長率)が期待できそうです。今年は、インフレ、バブルリスク抑制のため、3〜4回の利上げ継続が予想されています。また、人民元の切り上げも注目です。

・インド
 昨年の株価は13%増と堅調だったインドです。今年は、昨年に引き続き8.4%の高い経済成長率が見込まれています。インドの政策金利は、リーマンショック後4.75%に抑えられていましたが、2010年で6回の利上げを行い、現在6.25%です。昨年の12月に一度金利の据え置きをしましたが、今月の利上げも予想されています。こうした高い消費需要や強い産業の成長は、BRICs諸国全般に見られるように、需要インフレを招き、昨年の物価上昇率は BRICsの中で一番高い8.6%でした。食糧、エネルギー、資源などの受給率が低いことが高い物価上昇の一要因であり、抜本的な改善が求められます。

・ブラジル
 2011 年の元旦にDilma新大統領が就任したブラジルは、昨年の株価は思うように伸びず横ばいでした。今年の経済成長率は4.1%が見込まれています。過去にハイパーインフレで苦しんだブラジルは、インフレを極度に警戒し、高い金利を維持しています。ブラジルの政策金利は、1月に利上げに踏み切る見方が有力です。金利は現在10.75%ですが、これが年末まで12.25%に上昇すると予想されています。金利の水準も相対的に高い状況が続くと見られており、レアル高基調は変わらないと思われます。ブラジルは、自給自足率が非常に高いことが魅力であり、また実質金利とレアル高で世界から資金が集まっています。金利、為替の動向には引き続き注意が必要です。

・ロシア
 昨年は天災やヨーロッパの金融危機の影響があったロシアですが、株価は、11%増と堅調でした。今年の経済成長率は4.3%が見込まれています。ロシアは、豊富な資源輸出、特に原油需要拡大が経済成長を後押ししてきました。中国と並んで、高い貿易黒字国です。現在、ロシアの物価上昇率は7%程度であり、ロシア政府もインフレ懸念は認めながらも、個人消費落ち込みによる経済成長の減速を懸念し、利上げに慎重な姿勢を見せています。ロシアは、通貨、株価指数ともに非常に動きが激しく、海外投資家の資本の流入・流出には注意が必要です。

 東京大学工学部の茂木研究室によると、GDP当たりのエネルギーと資源の使用量がこのまま改善しなければ、2020年以降、経済成長率が2%まで下がるリスクがあるそうです。既存のエネルギー、資源使用量で現在の経済成長率を持続できる地域は、中東と南米のみという研究結果も出ています。10年という長期的に見た場合、BRICsの中でもブラジルが、一番経済成長が期待でき、魅力であると思われます。

(岡村さとみ)

■プロフィール
 早稲田大学理工学部卒、早稲田大学大学院理工学部経営システム工学科卒。
外資系証券会社の自己勘定部門&ヘッジファンドにおいて、5年半日本株の運用に携わる。計量的分析を用いて、マーケットに左右されない絶対的リターンを追求したトレードを行う。

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)

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日本の年金運用VS 海外の年金運用

 日本の年金は、GPIF年金積立管理運用独立行政法人という厚生労働省所管の独立行政法人で運用されており、運用資産は117兆円で世界最大です。予定運用利回り4.1%と公表されているポートフォリオを調べてみたところ、国内債券が7割を占め、国内株式が10.7%、外国株式9.7%、外国債券8.2%と世界的に見て保守的なアロケーションです。国内債券を7割も入れていて、運用利回りを4%以上も出せるのか難しいと感じましたが、実際、直近9年の利回りは、年率平均約2.2%でした。

 続いて、運用資産2000億ドル(17兆円)の米国最大の公的年金であるカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)の運用ポートフォリオに目を向けると、グローバル株式49.8%、オータナティブ14.5%、グローバル債券24.3%、不動産7.3%、インフレ連動債3%というアセットアロケーションになっております。株式が半分を占め、債券が25%、残り25%をオータナティブ、不動産などで運用をしております。
 カルパースは、年金基金としては、その運用方法はかなり積極的だといわれており、プライベートエクイティファンド、ヘッジファンド等へも投資を行っているのですが、2008年のリーマンショックでは、その積極的な運用が裏目に出て、年率マイナス27.8%になりました。それでも、過去20年は年率平均8.68%、日本と同じ直近9年間は、年率平均4.7%という成績でした。

 続いて、ソブリンウエルスファンド(Sovereign Wealth Fund、SW)と呼ばれる政府系ファンドで有名なアブダビ投資庁(ADIA)とシンガポール政府投資公社(GIC)を見てみましょう。

 アブダビ投資庁(ADIA)は、運用総額が5000億ドル(43兆円)、過去20年のリターンが年率平均6.5%といわれています。詳細な情報開示を行っていませんが、資産の80%を外部のファンドマネージャーが運用し、60%をパッシブ運用で行っているようです。公表しているポートフォリオは、最大、最少の場合のアロケーションで表示されているので平均でみたところ、先進国株式40%、新興国株式15%、小型株3%、国債15%、クレジット7.5%、オータナティブ7.5%、不動産7.5%、プライベートエクイティ5%でした。株式だけで、6割を占め、オータナティブ、プライベートエクイティ、不動産と色々な商品に幅広い投資を行っているのが分かります。

 シンガポール政府投資公社(GIC)は、日本の不動産やプライベートエクイティファンドにも積極的に投資をしております。運用資産は、3300億ドル(28兆円)といわれており、その1割を日本に投資しているようです。過去20年のリターンは、年率平均5.7%です。先進国株式28%、新興国株式10%、債券24%(うちインフレ連動債5%)、不動産12%、プライベートエクイティ11%で、オータナティブ、不動産への割合が高いのが特徴です。

 一時、日本版政府系ファンド設立の話も出ましたが、世界に目を向けると、日本の公的年金運用が非常に保守的かつリターンが低いことが分かります。

 最後に、私たちもその運用手法を参考にしているハーバード大学とイエール大学の基金運用について見てみましょう。
 初めにびっくりするのが、ハーバード大学基金運用は、過去20年で年率平均11.9%、イエール大学は年率平均13.4%という非常に素晴らしい運用成績を叩き出していることでしょう。全米トップのハーバード大学の資金は、276億ドル(2.3兆円)、イエール大学の資金は163億ドル(1.4兆円)と、年金運用と比べるとその金額は小さいのですが、腕の良いファンドマネージャーを雇い、報酬も高額だそうです。
 ハーバード大学のアセットアロケーションは、株式46%(国内株式11%、先進国株式11%、新興国株式11%、プライベートエクイティ13%)、コモディティ14%、不動産9%、債券13%となっております。一方、イエール大学は、株式17%(国内株式7.5%、外国株式9.8%)、ヘッジファンド24.3%、プライベートエクイティ24.3% 、不動産32%、債券4%とヘッジファンドとプライベートエクイティでポートフォリオの半分を占めているアグレッシブな運用が分かります。特にイエール大学は、その運用方針を書いた本も出版されており、20年で16.1%という驚異的な運用成績を残したファンドマネージャーは、大学で経済学とファイナンスのクラスも受け持っているそうです。

 市場に打ち勝つアクティブ運用は、類まれなスキルが必要となってくると思いますが、私たちもこういった世界的な運用方法というのを学んでいきたいと思います。

(岡村さとみ)

■プロフィール
 早稲田大学理工学部卒、早稲田大学大学院理工学部経営システム工学科卒。
外資系証券会社の自己勘定部門&ヘッジファンドにおいて、5年半日本株の運用に携わる。計量的分析を用いて、マーケットに左右されない絶対的リターンを追求したトレードを行う。

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)

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ますます増える中国人投資

 世界の株式指数の中で、10年のワースト・パフォーマーの一つに上海総合指数がなりそうです。その下落率は13%でした。日本人の方で中国に投資をされていた方は、厳しい1年だったように思います。一方、中国の元はこの1年でさらに強くなりました。本日は、中国への投資意欲について書きたいと思います。

 世界のプライベートエクイティファンドは、中国へ積極的に投資を行いました。プライベートエクイティファンド業界については、08年の金融危機の影響がまだ残っていると言われていますが、中国人投資家を対象にした元建てのファンドは、今年91億ドルと昨年の77%増で、かつ史上最高の金額を集めたようです。そして、買収案件も拡大しており、09年のはじめから、少なくとも36億ドルのディールが完了したそうです。

 また、こうした中国元建てファンドへ投資したいという中国人富裕層も増えてきているようです。中国政府も、銀行や市場からの資金調達に苦労する、中小企業の資金調達手段として、プライベートエクイティファンドを重視しているようです。

 北京に本社があるCITICは、90億元(約1,100億円)と、単体では中国最大となるプライベートエクイティファンドを立ち上げました。また、米国は積極的に中国市場で利益をあげており、世界的なファンドであるTPGは、50億元規模の元建てファンドを2つも立ち上げ、Blackstoneも、50億元規模の元建てファンドを新規に立ち上げました。Carlyleも、今年の7月に50億ドルのファンドを立上げましたが、うち3.5億ドルは元建てのファンドだったようです。

 次に、香港の人たちの中国本土への投資について見てみましょう。香港の人たちも、元がこれからも上昇していくことに期待しており、元建ての金融商品について非常に興味があるようです。CITICの調査によると、香港に住む人の内、40%が中国元建ての商品に興味があり、向こう2年は、中国元の上昇に明るい見通しを持っているようです。

 今年の8月には、元建てのマクドナルドの社債が香港で発行されました。外国企業の、元建ての社債は初めてのようですが、2億ドル分の社債がわずか2時間で完売したそうです。このマクドナルドの起債は、10年2月に海外企業が元建て債券を発行する際の規制を緩和したことが、契機となったようです。しかし、中国本土と香港の規制徳局の承認を得るのに、8ヶ月もかかったようです。このように、中国で起債にはまだまだ厳しい環境ではありますが、今後、案件の数が増えてくるにつれて、こうした手続きも早くなっていくことが想定され、国内企業の利用も進むと予想されています。

(岡村知美)

■プロフィール
 早稲田大学理工学部卒、早稲田大学大学院理工学部経営システム工学科卒。
外資系証券会社の自己勘定部門&ヘッジファンドにおいて、5年半日本株の運用に携わる。計量的分析を用いて、マーケットに左右されない絶対的リターンを追求したトレードを行う。2009年10月に娘を出産。

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)

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機関投資家とETF

 機関投資家が自分達のポートフォリオを運用する上で、ETFの利用を拡大しているようです。特に、長期運用を行っている年金基金は、コストの重要性が高く、ETFを重視しています。年金基金は、多数の現物株を組み合わせてインデックス運用を行うことが多いですが、指数がリバランスされる際には、個別銘柄の売買の手間が膨大になります。また、持っている銘柄が上場廃止になった場合も、事前に情報をキャッチし、売却する必要もあります。銘柄入れ替えといった煩雑な手間を、運用会社が代わりに機械的に行ってくれ、しかも低コストで運用することが可能になるETFは、機関投資家にも多くのメリットをもたらします。

 運用規模で世界最大のハーバード大学基金が、ETFを積極的に活用している事は有名です。ハーバード基金は、国内外の株や債券のみならず、コモディティや不動産、インフレ連動債など様々なアセットクラスに投資をしています。10年6月末の時点で、上位15のポジションの中には、多くのETFが含まれています。Market Vectors Indonesia index(IDX)、Wisdom Tree India(EPI)、i Shares MSCI Emerging Markets Index Fund(EEM)、iShares MSCI Chile Index Fund(ECH)、Market Vectors Russia ETF Trust(RSX)等です。ハーバード大学基金は、金額全体の11%を新興国に投資していますが、新興国投資にETFを積極的に活用しています。

 より短期的にポジションを変化させるヘッジファンドは、ETFの透明性、流動性の高さ、が魅力のようです。ヘッジファンドのお家芸である空売りもETFにより行えます。先日、今まで投資をすることが難しかった中東にも投資が出来るETF、Middle East Dividend ETFやMENA Frontier CountriesなどのETFも上場したそうです。これからぐんぐんと経済成長が期待出来る新興国市場に、コストが安く投資が出来るETFは非常に注目です。

 興味深いのは、そういった機関投資家がリバースETFやレベレッジETFのような複雑な商品ではなく、株式指数に連動するシンプルなETFを好むということです。年初には、著名ヘッジファンドマネージャーであるジョン・ポールソンやジョージ・ソロスが、金のETF「SPDR ゴールド・シェア」を大量に保有していることが分かりました。金の先物でレベレッジをかけて投資をするのではなく、発行元が実際に金を購入し、そこからETFを発行してもらうという投資手段に、転換していることは非常に興味深いです。このゴールド・シェアは、資産残高を順調に伸ばしており、全てのETFの中で2番目に大きな資産残高にまでに成長しています。現在では、個人投資家から年金基金、政府系ファンド、ヘッジファンドなどがETFを通じて金に投資をしており、こういったETFを通じた金投資が、金、引いてはコモディティへの投資家層を拡大することに繋がっています。

 最後に、ヘッジファンドのパフォーマンスを模倣するETF、Hedge Fund ETF(QAI)もあります。このETFは実際にヘッジファンドには投資をしていませんが、ファクターモデルを使ってヘッジファンドのパフォーマンスを分析し、投資をしているそうです。色々なETFがあり、ETF業界はまだまだ目が離せません。

(岡村知美)

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 早稲田大学理工学部卒、早稲田大学大学院理工学部経営システム工学科卒。
外資系証券会社の自己勘定部門&ヘッジファンドにおいて、5年半日本株の運用に携わる。計量的分析を用いて、マーケットに左右されない絶対的リターンを追求したトレードを行う。2009年10月に娘を出産。

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)

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後継者選び

 先日、運用資産9兆円という世界最大級の運用会社バークシャー・ハサウェイを率いるウォーレン・バフェットの後継者が発表されました。39歳のトッド・コームズという人物ですが、運用歴は5年程度しかなく、コームズが運用するヘッジファンドの規模も約320億円とバフェットの資産10兆円に比べると、300分の1程度ということで関係者は誰もが驚いているようです。

 バフェットは、自らの後を最高経営責任者(CEO)職と投資管理職(CIO)の2つに分割すると周囲に話しており、コームズ氏がCIOの職につくことになります。コームズ氏のファンドのリターンは、2007年はプラス19%、2009年はプラス6%、金融危機の2008年も手堅くマイナス6%で乗り切ったことも評価されているそうです。コームズ氏の持ち株とバフェット氏の持ち株は、USバンコープやゴールドマンサックスなどバフェットの投資対象と重なる銘柄もあります。目のつけどころが似ていると言われているそうです。

 ウォーレン・バフェットのように、運用資産額が大きくなってくると、後継者を選ぶのも大変です。コームズ氏に決める前には、すでに2人の候補者に断られたそうです。バフェットはバークシャーの株式を保有していたため大富豪になりましたが、ファンドマネージャーが多額の給与を得ることを好まず、自身も約800万円/年しか報酬を受け取っていません。また、GSの優先株のようなバフェットの名声により投資機会を得ることが出来る機会もなくなることでしょう。バフェットの投資哲学、運用手腕を、コームズに受け継ぐことができるか注目です。

 このように、ファンドの投資手法というのは、後継者達に受け継がれていくのですが、一つのヘッジファンドから沢山の弟子達に、その運用方法が引き継がれた例があります。
 1990年代の後半に世界最大級のヘッジファンドであったタイガー・マネジメントを創設したジュリアン・ロバートソンです。48歳でタイガー・マネジメントを創業し、自己資金800万ドル(約7.2億円)でスタートしたファームは、ファンドを解散した2000年には220億ドル(約2兆円)にまで成長しました。新規投入資金によるファンド規模の増加や様々な諸経費を除いた後のタイガー・マネジメントの平均リターンは31.7%と素晴らしいパフォーマンスでした。

 ロバートソンは、企業のファンダメンタルズを重視したバリュー投資(割安株をロングし割高株をショートする手法)によって大きな利益を上げ続けたことで知られています。
 2000年のITバブルの頂点のときに、もはや掘り出し物の株を探すバリュースタイルの投資は古いと多くの投資家に見限られ、タイガー・マネジメントは解散することになりましたが、オフィスやシステムを引き継いだ弟子達のファンドへの投資や、自己資金投資を果敢に行い資産を増やしているようです。サブプライムローンの崩壊も的確に予測し、2003年には3億ドル(約270億円)だった彼の自己資産は2009年で22億ドル(約2,000億円)まで増えているようです。

 運用手法を引き継いだヘッジファンド、タイガーの子供たち(Tiger Cubs)は、2009年に32もあったそうです。ロバートソンは非常に短気だったため、投資会議で彼を怒らせずに説得する為に、みんな必至で準備をしたそうです。また、Tigerは採用方針も独特で、他のファンドで優秀な成績を上げているようなトレーダーを雇い入れるのではなく、投資銀行などでトレーニングを受けた若手で、投資経験のない人間を雇って、自分の投資スタイルを徹底的に教え込んだと言われています。厳しいロバートソンの元で鍛えられ、頭角を表わした人も多くいたそうです。

 ヘッジファンドは一匹狼的な人物が多いために、なかなか引き継ぎに苦労しているファームが多いようですが、ロバートソンは稀有な成功例と言えるでしょう。

(岡村知美)

■プロフィール
 早稲田大学理工学部卒、早稲田大学大学院理工学部経営システム工学科卒。
外資系証券会社の自己勘定部門&ヘッジファンドにおいて、5年半日本株の運用に携わる。計量的分析を用いて、マーケットに左右されない絶対的リターンを追求したトレードを行う。2009年10月に娘を出産。

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)

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ブラックマンデー

 1987年の10月19日、ちょうど23年前の今日、ブラックマンデーが起きました。ダウ工業株30種が1日で23%値下がりをし、過去最大の下げ幅と下げ率を記録しました。この株安は世界中に広がり、次の日の1987年10月20日の日経平均は15%下落しました。この記録が未だに日経平均株価の1日での下落記録1位となっています。

 1929年の大恐慌では、ダウが3年弱での下落率が89%に達し、下落前のピークを回復するまでに22年2ヶ月もかかるという、100年に1度の大暴落でした。ブラックマンデーは対照的に、1年も経たない1989年8月には最高値を更新しました。この違いは、当時のFRB議長であるグリーンスパン議長が強い姿勢を発表して、信用不安の打ち消しにつとめ、大量の資金供給を断行したからと言われています。

 ブラックマンデーでは、ニュージランドの株式は、40%近く下落し、香港では暴落で市場が閉鎖され、欧州の国々でも後遺症に悩んだこの大暴落の中、世界で一番早く回復を見せたのは日本でした。
 次の日1987年10月21日、日経平均は9.3%も上昇します。その後日経平均株価は、回復を見せ、1988年4月には暴落前の高値を上回り、バブルへと突入します。そして、1989年12月29日には3万8915円の未だ破られることがなく、おそらく今後も破られない日経平均の最高値を更新します。

 ブラックマンデーの下げの原因は、プログラム売りと言われています。ブラックマンデーの日、ニューヨーク証券取引所の売買高は過去最高を記録しました。大口投資家がコンピューターで取引を開始しており、価格が下落をした結果、損切りプログラムが一斉に稼働しました。多くのトレーダーや投資家が先物を売ろうとしましたが、まったく買い手がつかず、流動性は枯渇しました。売りが売りを呼ぶ状態になり、一気に大暴落を起こしました。

 こういったプログラムトレード、アルゴリズムトレーディングは、より高速に、より頻繁に取引されるようになり、ヘッジファンドや年金基金など、多くの機関投資家で広く行われるようになりました。売買執行を人の手が介在することなく、コンピューターソフトウエアによる自動売買は、誤発注を招くこともあり、その危険性に厳しい批判の声も上がっています。

 こうしたプログラムトレードはどこの市場で最も活発に行われているのでしょうか?ここ数年、ダークプール(DarkPool)と呼ばれる非公開の取引所での取引が広がってきています。ダークプールに参加できるのは機関投資家など大口の投資家だけで、取引相手へ取引内容を公開する必要がなく、普通の市場よりもはるかに高速で巨額な取引が可能なシステムです。
 普通の取引所では、どれだけの取引量がどの価格で行われたかの情報が公開されるので、どの機関投資家がどのような取引方針をとっているか分かってしまいますが、ダークプールではすべてが匿名で、取引内容は一切表に出てきません。アメリカではダークプールでの取引が、ニューヨークやナスダック、シカゴなど一般の取引所での取引量を上回る勢いのようです。
 ヘッジファンドは、こういった金融当局の目の届かない非公開の取引の中で、より強力で高速なアルゴリズムを使い収益をあげていっているようです。

(岡村知美)

■プロフィール
 早稲田大学理工学部卒、早稲田大学大学院理工学部経営システム工学科卒。
外資系証券会社の自己勘定部門&ヘッジファンドにおいて、5年半日本株の運用に携わる。計量的分析を用いて、マーケットに左右されない絶対的リターンを追求したトレードを行う。2009年10月に娘を出産。

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空売り

 投資信託とヘッジファンドの投資手法で大きく異なる点は、売りから入る投資である「空売り」にあります。ヘッジファンドは、株式市場が年間を通じてマイナスの時にも、プラスの運用実績を目指すことを目標としているので、空売りを積極的に利用します。
 そうすると、株価が上昇局面の時だけでなく、値下がり局面の時でも利益を得られます。

 しかしリスクも当然存在し、買いポジションの場合は、最大の損失は価格がゼロになる時に自分の投資金額が全て失われることですが、空売りをしかけた場合の最大損失は、投資金額を越えて無限大に膨らんでいく可能性があります。

 私は、ロングショートと呼ばれる戦略をよく利用し、割安な株を買い、割高な株を売るポジションを取っておりました。その売り買いの判断は、ファンダメンタルズ分析からのボトムアップアプローチによるものでした。個々の財務諸表を目で丹念に読むのではなく、独自の分析ツールを作成することでリストから銘柄の選別をし、同じくコンピュータツールでリスクも同時に調整しながら、投資内容を決めていました。また常に、買いと売りのポジションの大きさを同じにするのではなく、上昇局面ではロングのポジションを増やし、下降局面では逆にショートのポジションを大きくすることで、市場平均を上回る超過リターンを追求していました。

 また、業績の発表が悪いと予想される銘柄をニュースが発表される前に売ることもしておりましたが、想定外の良いニュース、例えば自社株買ニュースが発表され、ロスカットをするはめになることもありました。空売りは、厳格なリスク管理のスキルに加え、胆力がいる戦略であると感じました。

 私達が行っているセミナーの中で、例えばマーケットバブルの天井を予測し、そこから空売りをしかけて儲けることが出来ないかとよく聞かれます。
 上昇局面の上がり方に対して、下落時は崖から飛び降りるような急激な動きをするので、うまくそれをとらえることが出来れば、短期間で大きな儲けを得ることが出来ます。もちろん、理論的には可能であると思いますが、実際にそれをすることはウォール街のプロでも難しいと思います。

 それは、緩やかな上昇相場は何年にも渡り非常に長く続きますが、下落相場は数日から数ヶ月で急展開することに、主な要因があります。
 実際に、サブプライム危機の際も、ほとんどの国で2002年から08年前半まで5年以上にも渡り上昇相場が続きましたが、リーマンショック後の数ヶ月で数十%下落するなど、下降スピードは非常に急速でした。

 05年頃から多くの投資家が相場の過熱を懸念して、空売りポジションにより儲けようとしましたが、その後、2−3年も上昇相場が続いたことから、ほとんどの投資家は空売りポジションから出続ける損失に耐えきれず、ポジションを解消してしまいました。サブプライム危機の暴落により巨額のリターンをあげた人物は、ウォール街広しとは言え、多くても数十人のようです。

 サブプライム関連商品の下落に賭けることで、2007年の1年間で、ファンド全体で200億ドル(約1.7兆円)を儲けたジョンポールソンは、その下落に賭けた2年間、世界中から「好景気に乗ることのできない大バカ者」とののしられ続け、そのプレッシャーを一時でも忘れる為にセントラルパークを毎日マラソンしていたそうです。

 このように、空売りで成功するには、並大抵の精神力では困難と言わざるを得ません。

 このメルマガをお読みの個人投資家の方は、株式や債券など金融商品のほとんどは長期で見れば安定したリターンで上昇する性質を持っていることから、長期投資/積立投資を中心とされることがおすすめです。多大なリスクを取ってまで、空売り戦略を行う必要は個人投資家にとって乏しいのではないでしょうか。

(岡村知美)

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 早稲田大学理工学部卒、早稲田大学大学院理工学部経営システム工学科卒。
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