書評:歴史の方程式 科学は大事件を予知できるか



書評:歴史の方程式 科学は大事件を予知できるか
マーク・ブキャナン著、早川書房
 https://amzn.to/2HJR4cM


 マーク・ブキャナンは、この本の出版後「複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線」という本も書いていますが、こちらのほうがより「本質」に鋭く迫った内容です。

 タイトルでは「歴史」となっていますが、物理的な「時間軸」を人間社会に当てはめると「歴史」になるわけです。

 現在の科学(物理学)の基礎は、アルバート・アインシュタインの相対性理論と量子論の二つの方程式にあります。今のところ、この二つを組み合わせると矛盾が生まれますが、この世は11(または10)次元であるという前提(第一線級の多くの物理学者が受け入れつつある考え)などによってこの問題が解決され、この世の中のすべてをたった一つで表す「神の方程式」の完成が近いとも言われます。

 しかし、本書で触れられているように、相対性理論や量子論においては「時間軸」というものが考慮されていません(念のため、相対性理論において時間と空間は同じものだとされますが、現実の世界を理解するためには「時間軸」が不可欠だと著者は主張し、私もそのように考えます)。

 つまりこの世(広大な宇宙や量子などの極少の世界・・・)の一瞬を切り取り、その一瞬について研究するのが現在の科学の基本です。

 ですから、その理論は1枚の写真のようなもので動きがありません。しかし、本当の世の中は「動画」のように常に動いて止まらないのは明らかです。 スナップ写真1枚だけでは、現実は理解できないというわけです。

 「時間軸」が重要になるのは、「積み重ね」にかかわる事象です。「進化」が典型的な事例ですが、進化は単細胞生物から始まって多細胞生物、腔腸類、脊椎動物・・・などと段階を経ます。「時間軸」が必ず必要であり、「時間軸」の中には必ず「偶然」が現れます。

 進化論が狂信的キリスト教徒から執拗に攻撃されるのは、「時間軸」=「偶然の要素」という考えが、この世は「神の方程式」で成り立っているという一神教(ユダヤ教もイスラムも)の考えに反するからでしょう。

 典型的なのは「アダムとイブが楽園から追放された」という逸話です。この世の中には唯一の「正しい状態」が存在し、その「正しい状態」へ近づかなければならないという思想がその背景にあります。

 現代人はこの思想に強く洗脳されていて「地球温暖化教」や「環境保護教」などをはじめとして、この世の中をあらかじめ決められた「正しい状態」に戻さなければならないという愚かしい考えが蔓延しています。

 しかし、世の中には「時間軸」というものがあるのですから、二つとして同じ瞬間はありません。ですから、この世を写真のようなあらかじめ決められた「一瞬の正しい状態」に固定するなどということはできません。

 いみじくも「赤の女王」(不思議の国のアリスの登場人物)が言ったように、この世の中は懸命に走らなければ止まっていられないのです。

 その前提をわきまえながら、本書では「臨界」というものについて懇切丁寧に解説しています。「臨界」は原子力発電などでよく耳にしますが、ある一定以上の刺激(エネルギー)を加えると、自然に(自ら)核分裂を起こすぎりぎりのポイントです。

 この臨界は、地震(プレート同士のぶつかり合いの圧力が地震になるぎりぎりのポイント)や雪崩(落下する雪・土や振動が雪崩を起こすぎりぎりのポイント)など自然界に多数ありますが、人間の営みにも「臨界」が存在するというのが著者の主張です。

 ある映画が突然ヒットしたり、地味なインタ−ネットサイトのアクセス数が急増したりということは、よく見られますが、これも臨界で説明できます。

 また、世界大戦がごく小さな原因から始まることもこの臨界で理解できます。
 しかし、残念ながらこの臨界は複雑系における「蝶の羽ばたき」と同じで、
 どの羽ばたきが臨界状態を破るのかは予想できません。

 ただ言えるのは、大概の社会現象、特に金融市場で起こる大事件は、臨界状態が一線を越えることによって発生するので、その大事件に理由など無いということです。複雑系の蝶の羽ばたきに例えれば、どこかのサラリーマンが手持ちの株式の半分を売却することが、リーマンショック級の大暴落を起こすきっかけになり得るということです。

 もちろん、市場では膨大な数の売買が行われていますから、どの売買が大事件を起こすのか事前に予想することは事実上不可能ですし、事後でさえそれは大変な作業でしょう。

 例えば、金融市場で研究を重ねれば「今臨界状態であるかどうか」はおおむね推測できるかもしれません。しかしその臨界状態がいつ崩れるのか、あるいはどのくらいの変動になるのかは全く予想できません。

 ピーター・ドラッカーやウォーレン・バフェットが「未来は予想できない」と繰り返し述べるのも当然でしょう。

 しかしバフェットは「いつどのような災難が起こるかを予想することはできないが、いつか災難が降りかかるであろうことはわかる」とも述べ、危機に対する準備を怠らないよう教えます。

 また、ドラッカーは人口動態のように「すでに起こった未来」を注視する重要性を語っています。


(大原浩)


*2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
 (JKK)を設立しました。HPはこちら https://j-kk.org/


【大原浩の書籍】

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ドラッカー18の教え 第14回

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産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
5月号連載記事
■大きければいいというわけではない


●大きいことはいいことだ?


 私と同世代かそれ以上の方なら、山本直純氏が出演したエール・チョコレート(森永製菓)の「大きいことはいいことだ!」というコマーシャルをご記憶のことでしょう。当時はまだ高度経済成長時代で、規模さえ拡大すれば、業績(利益)は後からついてくると思われており(実際かなりの部分においてそうだったのですが・・・)、「大きさ」を追求する世相をうまくとらえて、このCMは爆発的にヒットし、おかげでエールチョコレートもかなり売れました。

 今では、やたら規模だけ大きくても仕方がないということは、大手金融機関・企業の破たんによって、世の中に知られるようになりましたが、それでも企業経営者の報酬は、会社の業績やクオリティよりも、規模によって大きく影響されます(儲かっている町工場の社長よりも、赤字経営のグローバル国際大手企業の経営者の方がたくさんの報酬をもらうのが普通です)。


●「目的のある組織」


 ドラッカーはGMなどの米国大手企業のコンサルティングで有名ですが、実際のところは、いわゆる中小企業のコンサルティングもかなり行っており、病院などの非営利法人の運営にもかなり深くかかわっています。

 そして、ドラッカーにとっては病院も、軍隊も、教会も、企業も「組織の形態の一つ」であり、「組織の根本原理」は、形態が変わっても同じだと述べています。ただし、組織には「目的がある組織」と「目的が無い組織」があり、企業は前者に入ります。企業の目的はそれぞれ違うでしょうが、企業ホームページを開けば、目的と書いては無くても、その企業がどのような理念で設立され、何を目指し、何を成し遂げてきたのかが必ず書かれています。

 そして、企業の最大の特徴は、「決算書という通信簿で評価される」ということです。経営者は「口先だけではなく、実績を上げなければ評価されない」のは当たり前のことのように思えますが、他の組織には見られない特質なのです。そのため、企業というのは「実績を上げる」のに極めて適した組織であり、近代になってから、企業の勢力範囲が急拡大したのも納得できることです。

 企業においては、実績を上げなければなりませんから、必要以上の人員を抱えることもできませんし、身動きが取れないほど肥大化することも最終的にはできません。もし、必要以上に肥大化してしまったら、結局のところ目的を達することができずに自滅します。

 要するに、企業のような目的のある組織は、「目的を達成してしまう」か、「目的を達成することができなくなる」状況になったら、解散・消滅する運命にあるのです。


●「目的の無い組織」

 「目的の無い組織」といわれてもピンと来ない方が多いと思いますが、世の中には「目的の無い組織」があふれています。典型的なのは、家族(家庭)や町内会でしょう。家族や家庭は、何かの目的の(何かを成し遂げる)ために結成されたわけではありません。「存在することそのものに意義がある」組織なのです。ですから、「目的を達成したから解散する」とか、「目的を達成できなくなったから消滅する」ということはありません。子供が勉強ができないからと言って、家族を解散させてしまう親は(たぶん・・・)いないでしょうし、町内会の野球チームの足を引っ張るからと言って、誰かを町内会からリストラすることも現代では(昔は村八分というものがありましたが・・・)考えられません。

 そして、目的の無い組織の中で最も巨大なものが国家と言えるでしょう。帝国主義時代の欧米の国々(政府)のように、他国を侵略蹂躙し領土を拡大することが目的であった時代もありますし、多くの(共産主義)独裁国家(政府)の目的は独裁者(共産党員)の私腹を肥やすことにあるのは確かです。しかし、すくなくとも日本を含む先進国においては、「国民の生活基盤としての国家」を安定的に持続することが「存在意義」です。つまり、日本という国家で何かを達成するのではなく、国家が永続し国民が幸せであることが「存在意義」なのです。

 これは(共産主義)独裁国家やかつての欧米帝国主義国家に比べれば、はるかに素晴らしいことです。しかし、大きな問題も抱えています。

(なお、国家は「政府」とは異なります。国家は家族のような国民の集合体ですが、「政府」は国民から委託を受けその目的を達成するための組織です。共産主義独裁政府などは、国家という組織から委託を受けた目的から逸脱した行動をとっているということです)


●予算主義の弊害

 最近はましになりましたが、それでも3月末が近づくと、あちこちで道路を掘り返し渋滞を引き起こします。もちろん、余った予算を消化するためです。これこそが「目的の無い組織」の最大の問題点です(本来政府や行政は目的があるのですが、その目的の「達成」を事実上誰も監視していません)。達成すべき目的が無いから、一生懸命努力して、費用を安くしても、予算が余ってしまえば「予算が余っているなら他に回そう」ということで、翌年から自分の部署の予算を減らされてしまうだけです。これでは、仕事を合理化したり、コストを削減するインセンティブが働きません。少しでも知恵の働く人間なら、「仕事そっちのけで何の役にも立たない予算獲得のプランを次々と考えて、獲得できる予算を最大化するよう必死の努力をし、とにかく組織を拡大(肥大)させることに奔走する」はずです。我々がイメージする官僚・役人のイメージはこのようなものですが、彼らが悪人というわけではありません。目的の無い組織では、「組織の存続そのものが存在意義」ですから、むしろ彼らの行動は理にかなっているのです。

 問題は人間の資質ではなく、組織の在り方です。国家そのものに目的は無くても、国家を構成する政府の個々の組織には、本当は明確な目的があります。必ず、なんらかの目的を持って政府組織が発足しているはずです。ところが、多くの政府組織が「目的が無い組織」であるがごとく振る舞うのは、目的はあっても「評価」が無いからです。例えばある政府組織が、「国民の幸福度を向上する」ために結成されたとします。しかし、国民の幸福度は簡単に数値化できませんから、世の中の人々から「俺(私)はまだ十分幸福じゃない」と、常にクレームを受け、その政府組織の予算も人員もどんどん肥大します。これがまさに、日本をはじめとする先進国の医療、年金をはじめとする社会福祉が破たんしつつある原因です。

 「目的のある組織」の特徴である「数値による評価」の手法を取り入れ、「費用対効果」の概念を導入しなければ、この問題は絶対に解決できません。


●企業の中の「目的の無い組織」


 残念なことに、「目的のある組織」であるはずの企業の中にも「目的の無い組織」があります。それがいわゆる間接部門と呼ばれる部署です。この間接部門と呼ばれる部署は、企業の運営にとって重要であるにもかかわらず、目的の達成度合いの評価を数値化するのが困難であるがために、政府組織と同様の問題を抱える場合が非常に多いのです。ここでも、「明確な目標の設定と評価の数値化」が極めて重要なわけですが、そうはいっても、例えば人事や経理の仕事が会社の業績にどのように貢献したのかを数値化するのはとても困難です。

(続く)


続きは「産業新潮」
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
5月号をご参照ください。


(大原浩)


*2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」(JKK)を設立しました。HPはこちら https://j-kk.org/


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書評:複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線



複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線
マーク・ブキャナン 著、 草思社
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●世間は狭い

 街角でばったり知人に会った時などに、「Its a small world!」(世間は狭いね)と言います。この「街角で知人にばったり現象」は、「確率論」の観点から考えれば実はそれほど珍しいことではありません。

 例えば私がある友人の娘に銀座の街角でばったり会う確率は確かに低いのですが、私が多数の友人のうちのさらに何人かいる娘のだれか・・・さらには、すべての知り合いのうちの誰かの家族、親せき、友人の一人などと範囲を広げ、そのうえ場所も銀座だけではなく、青山、新宿などと広げるとばったり出会う確率はかなり高まります。

 また、例えば同じ誕生日の人がいる確率も同じです。
 例えば、ある場所に「あなたと同じ誕生日の人が50%」いるようにするには、1年の半分の日数(183)と同じだけの人を集めなければなりません。しかし、「同じ誕生日の人が50%」いるようにするためには23人いれば十分です。あなたと他の人との組み合わせはワンパターンしかありませんが、他の人と他の人との誕生日の組み合わせは多数あるからです。

 本書の主要テーマである「スモール・ワールド」は、前記の「世間は狭いね」という意味に近い概念であり、「組み合わせ=ネットワークに着目するとこの世の中は狭い」という意味では同じフィールドでの議論ということになります。

 よく、「世界中のどんな人とも6人(または7人)の知り合いを介してつながっている」と言われます。その話のもととなっているのが、スタンレー・ミルグラムが1960年代にハーバード大学で行った実験です。
 ミルグラムは、160通の手紙を出した(知り合いの誰かで、その人に一番近そうな人に手紙を送るよう依頼する)のですが、すべての手紙が6段階(6人)を経て届いたのです。
 ちなみに1970年に彼自身による補強実験が行われ、ランダムに選んだロサンゼルス在住のピンク人(白人)からニューヨーク在住のブラウン人(黒人)に向けての手紙でも同じ結果が得られました(米国には激しい人種差別がありますが、それは結果に影響を及ぼしませんでした)。

 その他にもWEBページでの「ケビン・ベーコン指数」を取り上げています。共演した俳優つながりで、ケビン・ベーコンンまで何人経由すればつながるかというゲームですが、平均するとすべての俳優からケビン・ベーコンまでは2.896人(約3人)でつながります。ちなみに、これはケビン・ベーコンだけに限った現象ではなく、例えばキアヌ・リーブスとアーノルド・パーマーも3人でつながります。

 なぜ、「世間はこんなにも狭いのか」という理由を数学的検証も含めながら本書は解き明かしていくのですが、そのキーワードは「クラスター」と「リンク」です。隣り合った存在と密に結びついた「クラスター」と、超特急のようなスピードで離れた存在まで飛んでいく「リンク」とが、丁度よく配置されることによって「スモール・ワールド」が形成されるわけです。

 このスモール・ワールドは河川の分布をはじめとする自然現象にも多数見られます(フラクタルもその一つといえます)がその典型は人間社会であり、インターネットがまさに縮図です。

 この分野の研究が、(壮大な実験・検証を行える)インターネットの普及と、繁雑な計算を行うコンピュータの性能の向上と絡み合って発展してきたのは偶然ではありません。


●8割の富が2割の金持ちに集中する

 後半では、<8割の富が2割の金持ちに集中する現象>とスモール・ワールドとの関係に言及します。発展途上国では9割が1割に集中するかもしれませんし、口先で平等を唱えるチャイナやロシアなどの共産主義国家ではもっとひどい状況でしょう。

 しかし、先進国においても一部に富が集中するのは明らかであり、歴史的にもそれが当然のこととされてきました。著者はこの現象は、<王様が強欲だからではなく、企業家が悪徳だからでもない>とし、それは「スモール・ワールド」の科学的・数学的必然であるとしますが、私も同感です。

 また、通常のビジネスの基本である<交換」においての貧富の差の広がりよりも「投資」のリターンによる貧富の差の広がりのほうが遥かに加速度的であるという視点も興味深いものです。

 もちろん、個々の投資においては損をすることも得をすることもありますし、特に先物・オプション・FXなどのギャンブル的な取引では統計的に判断して、ほとんどの投資家は損をしています。

 しかし、(現物の)株式市場や事業などでは歴史的に見て(数十年単位)、必ずパイが増えています。先物などのゼロサム市場と違って、(パイそのものが増える)<プラスサム市場>なのです。

 ですから、長期間にわたって多額の余裕資金を株式市場(事業)などの成長市場に投資できる金持ちは益々金持ちになりますし、金持ちによって安定的な資金を供給された企業は(数十年単位)、大概価値が増大しています。ですから、長期間にわたって多額の余裕資金を株式市場(事業)などの成長市場に投資できる金持ちは益々金持ちになりますし、金持ちによって安定的な資金を供給された企業は繁栄し、雇用されている従業員たちも恩恵を受けるのです。

 「金持ちを貧乏人にしても、貧乏人が豊かにになるわけでは無い」というのはマーガレット・サッチャーの有名な言葉ですが、自然の摂理に反しても物事はうまくいきません。

 不平等の緩和ということであれば「課税」による調整が最も有効であり、著者も同様の考えです。しかし、この手法も世界的に「課税」をしないのに「ばら撒き」を行う(民主主義では政治家はそのようにする圧力を常に受けている)ことがはびこり、財政赤字が膨らみ続けています。

 しばしば、「お金は寂しがり屋だから、仲間のお金が集まっているところに行きたがる」と言われますが、スモール・ワールドの理論で、この現象も明快に説明できます。


●氷はいつから水になるのか?

 最近、宇宙の「真空崩壊」−つまり宇宙の破滅はそれなり(といっても小数点以下かなりゼロが並びますが・・・)の確率で起こりえる−という議論が盛んになってきたこともあって「相転移」という現象が注目されています。

 簡単に言えば、同じ水分子なのに0度で氷から水になり、100度で水蒸気(気圧によって異なる)になり、さらにはるか高温にまで熱するとプラズマになることです。

 この現象においては、水の分子やそれを構成する原子そのものは全く変化しません。それぞれの粒子(分子・原子)のつながり方(リンク)に変化が生じるだけなのです。変化する際の温度は違いますが、この相転移はこの世の中の物質すべてに当てはまる現象です。

 実は、この「相転移」は人間社会、市場やインターネットでも頻繁に起こっているのです。例えばある歌手が全く同じ歌を歌い続けているとある日突然世界的にブレイクしたり、インターネットの何気ない記事がある日を境にアクセス数が急増するという現象も「相転移」を用いて説明することができます。

 これは蝶の羽ばたきの連鎖がある一定のポイントを超えると台風になるという「複雑系」の話にもつながりますが、問題はそのポイントをどのように見つけるかということです。

 本書ではその具体的な方法に言及していませんし、現状でそれを見つけ出すのは大変困難な作業です。また、万が一見つけ出すことができたとしても、世の中は常に変化していますから、次はまた一からやり直さなければならないでしょう。

 それでも、人間社会、市場、インターネット等においては、ある一定のポイントを超えると「相転移」を起こし、構成要素(例えば市場の参加者)が何も変わらないのに性質が全く変わってしまうということは、投資家、経営者、ビジネスマンなどが必ず理解しておかなければならないことであるといえます。


(大原浩)


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書評:確率とデタラメの世界 偶然の数学はどのように進化したか



確率とデタラメの世界 偶然の数学はどのように進化したか
デボラ・J・ベネット 著、白揚社
 https://amzn.to/2v5j8FG


 「杞憂」という言葉があります。
 中国古代の杞の人が天が崩れ落ちてきはしないかと心配したという、「列子」天瑞の故事から生まれました。心配する必要のないことをあれこれ心配することを意味しますが、「天が崩れ落ちてくる確率」=世界・人類が滅亡する確率は、実のところ全くゼロではないのです。

 ですから、人間は「世界滅亡」と聞くと恐怖を感じ、キリスト教をはじめとする多くの宗教.が「世界の終わりがやってくるから神(実のところ教会の怪しげな人々)のいうことを聞きなさい」というプロパガンダで多くの信者を集めてきました。

 しかし、ノストラダムスやマヤの暦を含む「世界滅亡の予想」は、少なくともこれまでのところ100%外れてきました。その中には、教祖の終末予想が当たらないからといって集団自殺(実のところ殺人だともいわれていますが…)した教団も少なくありません。

 確かにこの世が明日滅亡する確率はゼロではありません。
 例えば最近話題になっている「真空崩壊」。要するに宇宙でも「相転移(同じ水が温度によって、氷から水、水から水蒸気、水蒸気からプラズマに変化するようなこと)が起こるのではないかという話です。

 実際、ビッグバンの際には相転移が起こっていたと考えられる(そのおかげで、素粒子や原子が生まれ、四つの力なども形成されたと考えられる)ので、再び起こる可能性があり、その確率は数百億年に1回とも、数千億年に一回ともいわれますが正確に確率を計算するのは現在のところ難しそうです。
 しかし、宇宙の年齢は138億年前後といわれますので、「真空崩壊」が起こる確率を全く無視することはできないでしょう。

 また、彗星が地球に衝突して滅亡する可能性も無視できません。オールトの雲をはじめとして、小惑星や彗星などの供給源が、地球の比較的そば(宇宙の感覚で)にあるわけです。

 しかし、そんなことをいつも考えながら暮らしていてはまさしく「杞憂」になってしまいます。地球温暖化教の信者が「二酸化炭素の排出を止めないと地球が大変なことになる」という話も一種の「地球滅亡論」の杞憂です。
 そもそも、地球の気温は基本的に太陽活動と地軸の傾きによって決まるので、太陽の黒点活動と地軸の傾きの今後の見込みをまず考えるべきなのです。二酸化炭素の排出量は地球の気温決定の2次的、3次的要素にすぎません。

 その基本的な科学的事実を無視して、大騒ぎする科学的センスがない人々が多いことには驚かされます。二酸化炭素の排出によって「地球が大変なことになる」可能性はゼロではありませんが、その可能性はほかの地球滅亡論と大差ないということです。


 さて、本書にもあるように、確率の研究が本格化したのは、せいぜい17世紀ごろからです。ギリシャ、ローマで開花した高度な文明・文化が、その長い間キリスト教によって破壊しつくされたことも大きな原因の一つです。キリスト教が欧州にはびこり、人々を蹂躙している間、ギリシャ・ローマの伝統を受け継いで科学や文化を発展させたのはイスラム圏です。

 実際、現在でも科学用語のアルカリ、アルコール、アルゴリズムなどアラビア語に期限を持つ言葉は多く、科学に不可欠な数字そのものが「アラビア数字」(インドで発案されアラブ世界を通じて世界に広まった)です。

 キリスト教が支配する世界では、この世の中のすべてのことは「神」が決めるのだから、「偶然などということはあり得ない」というわけです。この「世の中で起こる出来事はすべてあらかじめ決められている」(決定論)と「偶然あるいは自由意思を認める」考えとは現在でも対立しています。

 決定論では、人間の自由意思は存在しないはずですので奇妙に思うのかもしれませんが、脳生理学における実験では、人間の脳が判断(例えば手を伸ばしてコーヒーカップをとる)する前に手の神経が反応しているということが明らかになっているのです。

 もちろん本書では「偶然は存在する」との仮定の上で議論が進められています。特に偶然「ランダムネス」とは何かについての議論に多くのページを割いています。

 例えば<乱数>を作成するのに、コンピュータで数式を計算するというやり方は一般的ですが、数式によって導かれた数字は事前に予測できるわけですから、それが本当に<乱数>=<偶然>なのかという議論などです。

 もちろん、堅苦しい議論ばかりが展開されているわけではなく、全10章のほとんどがモンティホール問題などを含む、楽しい確率のエピーソードで占められています。

 文章が平易で、この手の本としては短めの200ページ強なので、すいすいと読み進めます。確率を学びたい初心者にはうってつけの本だと思います。


(大原浩)


*2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
 (JKK)を設立しました。HPはこちら https://j-kk.org/


【大原浩の書籍】

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"地球温暖化教"と"地球寒冷化問題"



Newton(ニュートン) 2018年5月号
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 Newtonは毎月欠かさず読んでいますが、毎号とても興味深い記事にあふれています。特に、5月号の「ゼロからわかる量子論」の「量子コンピュータ」に関する話は、量子コンピュータとは何か(ジョージ・ジョンソン著 早川書房)の内容を圧縮して整理したような内容でわかりやすいです。

 しかし今回注目したいのは、「太陽の異変と宇宙からの災害:太陽に異変がおきている?「スーパーフレア」の脅威と弱まる太陽活動」です。

 現在、地球温暖化騒動が始まってからずいぶん時間が経過し、今やそれがカルト宗教のようになっています。

 もちろん、ジーザス(イエス・キリスト)が処女から生まれたとか、水の上を歩いたとか、はたまたゾンビのように生き返ったということを100%否定することはできません。

 また、「宇宙人に拉致された」とか「宇宙人に人体実験された」とかいう人々の話を100%否定することも困難です。この世の中(宇宙)で「ありえることは無限に存在」するので「絶対にありえない」証明は「悪魔の証明」とも呼ばれ現実には不可能です。

 「二酸化炭素排出による地球温暖化による危機」という話を否定するには、上記のように「悪魔の証明」を行わなければなりません。しかし、重要な論点は「国民に多大な負担をかけて地球温暖化対策を強制するのなら、負担を強いる側が因果関係を明確に示すべき」ということです。我々の血税を投入するということだけではなく、企業が対策を講じる費用も最終的には消費者である国民が負担します。

 私が知りうる限り「地球温暖化論」の根拠は薄弱です。科学雑誌や科学ドキュメンタリーにおいても、「二酸化炭素による地球温暖化」の因果関係を科学的にキチンと説明したものは見たことがありません。私に言わせれば、彼らの主張は「風が吹けば桶屋が儲かる」的なもの以上ではありません。

 そもそも、地球の気温は長い歴史の中で大きく変化しています。現在のごく狭い範囲の気温が「正しい」とする根拠はどこにもありません。それは「人類がエデンの園にいたのに追い出されたから、エデンの園の状態(気温)に戻らないといけない」というような思考方法と変わりません。地球の気温にも環境にも「正しい状態」などありません。
 もちろん、北京のような<毒ガスシティ>で暮らしたいとは思いません。しかし、地球の広大な環境をちっぽけな人類がコントロールしようとすること自体傲慢で思い上がった発想です。

 あと数度気地球の気温が高いほうが人類にとって都合がよいのかもしれませんし、それはだれにもわかりません。少なくとも寒冷地の人々にとって温暖化はむしろ歓迎される現象といえるでしょう。

 さらに、地球の気温は二酸化炭素以外に「太陽」の動向に大きく左右されます。地球の地軸の傾きや公転も重要な要素です。二酸化炭素は地球の気温に影響を与える要素のごく一部にしかすぎないのです。

 歴史を振り返れば、人類の「歴史」は、氷河期が終わって「温暖化」したからこそ始まったのです。現在は氷河期と氷河期の間の間氷期であるからこそ、人類は生存できているのです。もし再び氷河期がやってきたら人類の文明はたぶん崩壊するでしょう。

 もちろん、今後寒冷化するかどうかはわかりませんが、その因果関係に関する研究は温暖化に関するものよりも、きちんと科学的に行われ、それなりに説得力もあります。

 太陽黒点の活動の低下はこれまでにもたびたび指摘されており、1600年代半ばから黒点が約70年間にわたって姿を消していた「マウンダー極少期」と呼ばれる時期には地球の平均気温が他の時期に比べて低く寒冷であったことが分かっています。
 18世紀以前には温度計による記録などありませんが(「温暖化論」においても同じ)、木の年輪の幅やサンゴ成分、文献に記録された花の開花日などから推定されています。現在は凍ることが無いロンドンのテムズ川が完全に凍り付く様子も絵に描かれています。

 そして、現在明らかに太陽黒点の活動が衰えてきています。

 寒冷化と太陽黒点の活動が関連するメカニズムは必ずしも明らかになっていませんが、推論がこの特集に述べられています。

 少なくとも、その関連性をうかがわせる歴史的記録が「太陽黒点と寒冷化」にはあっても、「(人類が排出する)二酸化炭素と温暖化」にはありません。詳細は、ぜひ特集を読んでいただきたいのですが(非常にコンパクトにまとまっています)、少なくとも温暖化と同等には寒冷化問題を心配すべきでしょう。

 そして、それ以上に心配なのは「スーパーフレア」です。
 1989年3月にカナダのケベック州で起きた9時間にわたる停電は大規模な太陽フレアが原因ですが、これは本ほんの序の口です。19世紀以前にもさらに大規模な太陽フレアが起こっているのですが、当時は現在のように通信網や電力網が発達していなかったので影響があまりなかっただけです。

 現在のように電力、通信、それにコンピュータが発達した社会では24時間太陽のフレアの影響を受けただけで、映画のような大パニックになります。
 24時間停電するだけでなく、電話もインターネットもコンピュータもエレベータも電車も使えない状況を想像すればすぐにわかります。

 二酸化炭素以上に心配すべきことは、この世の中に掃いて捨てるほどあるのです。

 念のため申し添えると、「地球温暖化対策」に熱心な企業はホームページや会社案内などでその努力を自慢していますが、この主張の欺瞞が明らかになれば、当然マイナスに評価されます。


(大原浩)

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ドラッカー18の教え 第13回



産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
4月号連載記事


■長期と短期は両立しない

●日銭を稼ぐことと、将来の大きな果実


 毎日の暮らしを成り立たせるために、定期的で確実な収入があるのが望ましいのは、いうまでもありません。しかし、その収入から将来への投資としてある程度の資金を振り分けることも必要でしょう。

 例えば、個人でいえば、次のようなことです。
 まず、自分や家族の生活を成り立たせるために会社で働き月給を受け取ります。この月給は、会社に問題が無いかぎり安定的にもらえるものですから、そのために一生懸命働くのは当然です。しかし、さらに自分自身を成長させ、より良い地位や給与を得るためには、自己研さんが必要です。
 社内外の資格の取得のための試験勉強や、英会話能力を高めるために学校に通ったり、人脈・ネットワークを広げるためにビジネス交流会に積極的に参加することなどがあげられるでしょう。
 このような(会社の指示によらない)将来のへの投資は、当然のことながら無給ですし、費用も自腹です。

 しかし、多くの人々が、無給で自腹で、勤務外の貴重なプライベート時間を使って、「将来への投資=自己研さん」にいそしんでいます。もちろん、自腹の費用は、生活費、住宅ローンの返済、生命保険料などの支払いの源泉である給与の一部を削って払わなければなりません。
 また、プライベートな時間といっても、1日は王様にも乞食にも24時間しかありませんから、仕事の時間を圧縮したり、家族と過ごす時間を削ってねん出するしかありません。

 つまり、基本的に、現在の生活を維持するために行うべきことと、将来の成功(幸せ)を手に入れるために行うべきことは、「限られたパイの奪い合い」という形になるということです。


●日銭部門と投資部門は分離すべき

 企業経営においても、「現在」と「将来」の利益相反は存在します。親方日の丸で殆ど何もしないで給料をもらえる国営企業や準国営企業は別にして、一般の民間企業では、それぞれの役職員が一生懸命働かなければこなしきれない分量の仕事が与えられるのが普通です。
 実際、ライバル企業同士の争いはし烈ですから、ちょっと気を抜いた間にシェアを奪われてしまいます。「現状維持」することでさえ多くの費用と労力を必要とします。

 ところが、多くの企業では、そのような「現在の収益を稼ぐ部門」の中に、「将来の成功を期待する部門」を設立し、「将来の成功を期待する部門」の費用や人員を「現在の収益を稼ぐ部門」に負担させようとします。
 確かに、「将来の成功を期待する部門」は、最初収入がゼロであるのが普通ですから、どこかがその費用を負担しなければなりません。赤字部門では、どうしようもありませんから、稼ぐ部門が標的になるのはある意味自然かもしれません。しかし、ドラッカーは「今稼いでいる部門に、将来の成長を担う赤ん坊(部門)をゆだねてはならない」と忠告します。

 多くの人々が実感するように「子育て」は大変な作業です。まだほとんど何の経験も無く肉体的にも脆弱な赤ん坊は、四六時中面倒を見なければなりません。しかも、1円も稼ぐわけではありませんから、子育ての費用は両親の稼ぎに頼るしかありません。
 しかし、お父さん(お母さん)が、早朝から深夜まで働き詰めだったらどうでしょうか?十分な子育てができないかもしれません。


続きは「産業新潮」
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
4月号をご参照ください。


(大原浩)

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書評:たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する



書評:たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する
レナード・ムロディナウ 著、ダイヤモンド社
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 「偶然」にまつわるエピソードを、世の中の幅広い範囲にわたって歴史的に深く洞察した良書です。特に歴史的なエピソードには興味深いものが多く、カルダーノの半生は注目されます。

 そもそも、「確率論」や「統計学」は、古代ギリシャから続く幾何学などの偉大な「正統派数学」とは違って、その理論を確立したのがギャンブラーやアマチュア数学者であることから(しかも歴史が新しい)、軽く見られがちですが、少なくとも人間社会との関係に関する限り「確率論」や「統計学」のほうがはるかに重要であることは明らかです。

 サー・アイザック・ニュートンが錬金術に熱中していたのは有名な話ですが、「科学」そのものの出自が、結構怪しいところにあるのも事実です。ただし、だからといって「科学」の素晴らしさが否定されるわけではありません。

 「確率論」や「統計学」の成立が遅れたのは、その内容が人間の直感に反するという点も大きく影響しています。本書でも取り上げられている有名なモンティー・ホール問題に関する世間の反応を見てもわかります。

 これは米国の人気クイズ番組で、三つのドアのうちの一つの後ろにマセラティ(高級スポーツカー)のような高価なものが、残り二つの扉の後ろには例えばシェークスピア全集のような面白味の無いものが置かれています。

 そして、解答者がその中の一つを選ぶと、司会者は残った二つのうちの一つの扉を開けます(残った扉は二つになる)。その時に解答者は最初に選んだ扉をやめて新しい扉にすべきか、それともそのまま最初の扉を維持すべきかというのが問題です。

 「残った二つの扉のうちのどちらかを選ぶのだから、50%対50%でどちらでも一緒」というのが、大半の方の直感的な答えではないでしょうか?

 高名な数学者を含むほとんどの米国人の考えも同じでした。ですから、1990年の9月の日曜日に「パレード」というニュース雑誌のコラムで「答えを変えた方が有利である」と解答したマリリン・ヴォス・サヴァントのもとには「ばかげている」といった非難や中傷の手紙が前記の高名な数学者を含む人々から殺到したのも当然かもしれません。

 しかし、現在では彼女が正しかったことが明らかになっています。なぜ彼女が正しいのかを説明するのは、それが人間の直感に反するだけにかなり難しいのですが、本書では見事に説明しています。たぶんこれまで読んだ類書の中で、最も上手に説明していると思います。

 また、ベルカーブと「パスカルの三角形」についての解説もよくできていて、ベルカーブそのものに対する理解も深まりました。その他の解説も非常に理解しやすく参考になるのですが、ここでは紹介する余裕がありませんので、ぜひ本書を読んでみてください。


 また、「確率論」、「統計学」、「行動経済学」の本に頻繁に登場する「投資」に関する話もすっきりと書かれています。これらの学問がもともとギャンブルと深い縁を持っているため、投資(少なくとも大半の人が行っている手法)が研究対象になるのは自然なことです。

 第7章ではベルカーブや標準偏差をもとに、ファンドマネージャーたちが「コイン投げ」以上の成績を残せないことを明らかにしています。

 ちなみに、ベルカーブや標準偏差はスポーツの対戦において結果がランダムではない(つまり不正が行われている)ことを発見するのに活用され、本書でもいくつかン事例が掲載されています。「やばい経済学」で有名なスティーヴン・D・レヴィット&スティーヴン・J・ダブナーの著書でも大相撲の取り組みの分析が登場します。もちろん、統計学的に「八百長が行われていることは99.9%確か」だとしていますが、この業界では「何人も死人が出ているのでこれ以上は言えない・・・」と口をつぐんでいます。

 第10章ではドランカーズ(ランダム)ウォークの解説の中で、全部で800の投資ファンドの過去5年間の成績とその後の5年間の成績を比較しています。読者の予想通り、両者には何の関連性もありません。

 バフェットも助っ人(銀行、証券、アナリスト、評論家等)のアドバイスに金を払う価値はないと言っていますし、「ファンドに投資すべきではなく、唯一投資する価値があるのは手数料が安い(本書でもその重要性を指摘しています)インデックスファンドだ」と述べています。

 科学的な裏付けがあり「世界一の投資家」が太鼓判を押す事実に、世間の大半の人々が無反応なのは残念なことです。


(大原浩)

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書評:種の起源(下)



書評:種の起源(下)
チャールズ・ダーウィン 箸、光文社文庫
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●人間の脳は最近ほとんど進化していない

 下巻では進化(種)の中間的存在の生物が、化石として見つかるケースが少ないという批判に対して、<地層堆積の膨大な時間の中で生物が化石として保存されるケース(可能性)が少ない>ことなどを、地質学の深い知識から論じています。
 当時はまだ大陸移動説(ドイツの気象学者アルフレート・ヴェーゲナーが1912年に提唱した説がはじめとされる)は登場していませんでしたが、地形の変化によって生物の分布や化石の見つかる範囲が大きく変わるということにはすでに気付いていました。

 この議論の中で感じるのは、生物の進化というのは数百万年、数千万年、数億年、数十億年(ダーウィンの時代にわかっていたのは4億年〜5億年前のシルル紀のあたりまでです)の悠久の時間を味方にしているということです。

 ですから生物の進化にはかなりの時間がかかるということです。確かに家畜や農作物の品種改良というものは短期間で行えますが、見た目の違いはかなりあっても(多様な犬の祖先はすべて同じ一種類のオオカミの種と考えられている)、遺伝的な特質は実のところそれほど変わっていません。

 現生人類がチンパンジーと分岐して他のサルから完全に独立した存在になったのが約700万年前だと考えられています(念のため、「サルが進化して人になった」という考えは全く間違いで、あくまで祖先が同じであるだけです。ダーウィンもそのような話は一切していないのですが、進化論を攻撃するキリスト教関係者などが話を捏造しました)。

 実は、このことが現代の経済や投資における人間の行動を解き明かすために極めて重要なのです。

 例えば、タイムマシンで古代エジプト文明成立以前に飛び、1万年前の生後間もない赤ん坊を連れ去ってくるとします。その赤ん坊を現代社会で育てれば、何ら現代人と変わらず、場合によってはアインシュタインのような天才になるかもしれません。

 つまり、人間の脳そのものはここ1万年ほどほとんど進化していないのです。

 ところが、1万年前よりも新しい古代エジプト文明でさえ、自動車やコンピュータなど思いも及びませんでした。

 実際、産業革命以降、「人間社会」は驚くほど「進化」します。交通網の発達によって、世界中の誰とでも会えるようになりましたし、通信網は伝書鳩、電信・電話を経て、インターネット、携帯電話(スマホ)の時代に突入しています。

 現代社会は古代人が思いもつかないような、複雑かつ高度に「進化」した文明社会に生きていますが、その脳が1万年前から進化していないことが色々な問題を引き起こしています。

 そのギャップを埋める研究を行うのが「人間経済科学」や「行動経済学」ですが、特に人間の脳が苦手とするのが、現代のビジネスや投資に不可欠な「確率」や「統計」に基づく判断です。統計や確率の正しい答えは、大概人間の直感に反するので、経営者や投資家がほぼいつも、経営や投資の判断を間違えるのは、自分自身の脳のせいであると言えるかもしれません(人間が「確率」や「統計」においてどのように判断を間違えるのかは、「確率」や「統計」に関する書籍のコメントで今後解説していきます)。


●自然淘汰は何と闘った結果なのか

 自然淘汰は<環境の変化に適応できたものが生き残り、そうでは無かったものが滅びる>と解説されます。ただ「環境」というものが誤解されがちです。

 例えば太陽光線の強い地域に住む人々は肌の色が黒くなり、北極のような寒冷地に住むペンギンのような生物は皮下脂肪が厚くなります。そのように環境に適応した生物は生き残る確率が高く、そうではない生物は消え去っていく傾向にあるのは事実です。

 しかし、ダーウィンが主張するのは「環境」の最大の要因は、「他の生物、特に自分と同じ種か、近い種」であるということです。

 つまり、自分の周りにいる仲間の生物が最大の敵であり、その仲間内の闘争に勝ったものが、生き残るというのが「自然淘汰」の最大の原因なのです。

 確かに、よく考えてみれば全くその通りです。例えばライオンなどの肉食獣は同じ仲間の中では常に縄張り争いをしていますが、カラスとサメが生存において競い合うことはありません。

 これを人間社会に置き換えると非常に興味深いことがわかります。もちろん、大型で凶暴な哺乳類の頂点にいる人類に勝てる生物はいませんから、人類の最大の敵は同じ人類です。

 人間が戦争をいつも行っている理由もはっきりとわかります。それは「自然淘汰」であり、仲間内との競争に敗れた人類(民族)は絶滅します。

 さらに、強力な敵は同じ組織に所属する同僚たちです。自分が成功するためには、他者と闘い追い落としていくことが必要です。これは会社(企業)、キリスト教会のような宗教団体、公益法人、病院、共産党等々すべての組織に共通してみられます。

 したがって、このような組織の頂点に立つ人々は、「仲間との闘争に勝利した自然淘汰の勝者」です。念のため申し添えれば、人気の闘争においては「親切」「寛容」「人気」も大きな武器になり、人間同士の闘争の勝者はたいていこのような要素も保有しています。

 そして、もうひとつ付け加えたいのが「痕跡器官」。例えば、人間を含む雄の哺乳類の乳首は現在無用の長物ですが存在し続けています。つまり、無用になっても進化的に残される場合もあるということです。

 人間組織にも同じような「痕跡器官」がよく見られます。無用になってもその存在を消さない部署(組織の一部)の取り扱いはなかなか難しい問題の一つです。その組織の中の個体(人間)は、自身の生存をかけて「痕跡器官」を何とか残そうと「自然淘汰」の中で懸命に闘うからです。


(大原浩)

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バフェットからの手紙(2018)



 今年も2月24日(土)に、バフェットからバークシャー・ハサウェイ株主へのメッセージ、いわゆる「バフェットからの手紙」が公開されました。
(ちなみに、バークシャー・ハサウェイからの情報の公開は、市場がオープンするまで投資家が十分考慮・分析するために週末に行うのが基本です)

 元々は、日本でも多くの上場企業が発行している株主通信の「社長メッセージ」のようなもので、あくまで株主にしか発送されなかったものですが、その優れた内容から大評判となり、今日ではバークシャー・ハサウェイのHPでだれもが読めるようになったわけです。リンクは下記です。

 http://www.berkshirehathaway.com/letters/letters.html


 しかしながら、バークシャー・ハサウェイの経営権を取得してから53年目の今回は「禅譲」を意識してか、かなりあっさりしたものであり、これまで恒例であった「保険以外の事業の業況解説」が省略され、バークシャーの事業報告書等のページを見てくれということになっています。
 また、全体のページ数も例年(最近)に比べて短めで表紙を含めても17ページです。

 バフェットの署名の前の文末では、保険部門をAjit Jain が、それ以外の事業部門をGreg Abel が率いる体制が固まったことを報告しています。運用部門に関しては、これまで後任選びに何回も失敗してきたバフェットですが、Todd CombsとTed Weschlerの2名にそれなりに任せています。しかし、まだ一任というわけにはいかないようです。


 バークシャー・ハサウェイの企業文化、すなわち「バフェット精神」は長男が受け継ぐことが確実視されているので、これでおおむね「トラック問題」は解決に向かっているということでしょう。

 「トラック問題」とは、バフェットが60代になった20年以上前から「もし私がある日突然トラックに轢かれたらどうするか」と、冗談めかして「バフェットからの手紙」の中で繰り返し取り上げてきた後継者問題です。
 投資の神様であるバフェットも、この問題については相当苦労しましたが、今年88歳(1930年生まれ)を迎えるにあたって、何とか滑り込みセーフというところでしょうか?

 1924年生まれで94歳になる盟友(バークシャーの副会長でもある)チャーリーマンガーともども、まだまだ矍鑠(かくしゃく)としていますが、我々投資家も<バフェット後>を真剣に考えなければならない時期に来ているかもしれません。


 長年にわたって書き続けられてきた「バフェットからの手紙」はどの年も学ぶべきことは多いのですが、特に50周年を迎えるにあたって「バフェット流」を集大成した49年目(2014年)のものが最も内容が濃いと思います。
 すべてを出し切った感じがあります。また、それ以前の数年間もかなり充実しています。

 50周年目も含めたそれ以降は「引退」へ向かってスローダウンという感じが伝わってきますが、それはある意味当然でしょう。


 かなり簡略化された今年の「バフェットからの手紙」で、どうしても投資家に伝えたいことが二つ述べられています。

1)短期の株価の動きに一喜一憂しないこと

 バークシャー・ハサウェイそのものの株価を事例として取り上げています。

 1973年3月から1975年1月まで        59.1%の下落
 1987年10月2日から1987年10月27日まで 37.1%の下落
 1998年6月19日から2000年3月10日    48.9%の下落
 2008年9月19日から2009年3月5日     50.7%の下落

 最後のデータはリーマン・ショックのころですが、この時にはバークシャーに限らず大概の企業の株式が大特価で売られていました。

 また、1970年ごろからバークシャーの株式を保有していた人々はみんな大富豪です。

2)助っ人(銀行・証券、評論家、アナリストなどの「外野」たち)の助言に金を払う価値はない。投資信託(ファンド)は購入すべきではない。どうしても買いたければ手数料が安いインデックス・ファンドを購入すべき。

 昨年の「バフェットからの手紙」でも紹介した、某ファンドの経営者との賭けについて数少ないページの中であえて再び取り上げています。

 この賭けは2007年に某ファンドの経営者と100万ドル(実際には途中からいろいろな事情でこの賭け金をバークシャーの株式で運用したため222万ドル)をかけた真剣勝負(バフェットにははした金ですが・・・)です。

 某ファンドが選りすぐった5本の個別ファンド(ファンド・オブ・ファンド)が、S&P500の成績を上回るかどうかに賭けたのです。

 結果は明らかでした。10年間でS&Pが125.8%(約2.3倍)上昇したのに対して、5本のうち最も成績の良いものでも87.7%しか増えず、最悪の場合たった2.8%(途中で解散したので9年で!)の増加でした。もし、バークシャーの運用成績と比較したら目も当てられません・・・

 バフェットは、この結果からも、ファンド(「投資信託」)は投資家が資産を増やすために存在するのではなく、ファンド・マネージャーや運営会社などが運用成績にかかわらず自分の懐に札束を詰め込むために存在するのだとばっさり切り捨てています。

 もちろん、助っ人たちの「助言」も同じで、彼らに高い報酬を払っても投資家が得をすることはありません。

 ちなみに、過去の「バフェットからの手紙」では、奥様への遺言(遺産相続)にも触れていますが、現金や米国債以外は、手数料の安いインデックス・ファンドで運用するよう指示されています。


(大原浩)

*2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」(JKK)を設立します。HPはこちら https://j-kk.org/


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ドラッカー18の教え 第12回



産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
3月号連載記事


■組織は凡人を非凡にすることができる

●一+一=三になる


 数学の公式で「一+一=二」は誰でも知っています。そしてこの公式は普遍的であり、変わることがありません。また、現実の世界でも、佐藤浩市が某社のコマーシャルで語っていたように「力を合わせれば一+一=三になるというのは幻想であり、一+一はあくまで二にしかならない」と考える人々も多いようです。しかし、それは間違いです。

 そもそも、一+一が二以上にならないのであれば、それぞれ一のままでいた方がましです。例えば、自営業者・フリーランスは一です。その一が集まって組織を作ってもメリットが無いのであれば、一億総フリーランスになった方が、国民にとって良いということになります。なぜなら組織に属すれば、当然のことながら組織のルールに拘束され、個人の自由が多少なりとも束縛されるからである。逆に言えば、組織の目的は、一+一=二以上のものを生み出すことであるともいえます。


●組織人が独立してうまくいかない理由

 もちろん、大企業などの組織を飛び出して大成功したベンチャー起業家は数え切れないほどいますし、私の知人・友人にもそのような成功者は多数存在します。だから、例外が存在することを否定しませんが、一般的に言えば、組織人が独立して成功する可能性は高くありません。成功者は、メディアなどで繰り返し取り上げられるから目立ち、失敗したものは世の中から忘れ去られるから目立たないだけのことなのです。

 「大企業を飛び出して独立したのはいいが、世間の誰も相手にしてくれない」というのはよく聞く話です。大企業の看板を背にしていた時には、その影響力に期待してもみ手ですり寄ってきた人々も、その看板が無いただの人は無視するというわけです。
 確かに企業(組織)の看板(ブランド)は、一+一=三になる好例でしょう。よほどずば抜けた才能を持つ人物でなければ、一のままで強力な看板(ブランド)を築くのは困難なのです。

 しかし、問題は看板(ブランド)だけではありません。ドラッカーが常々主張するように組織では「強みを生かす」ことができます。よく、大きな組織の中では埋没して個人の特質が生かされないという人がいますが、それは全く逆です。

 組織の中では、基本的に不得手なことはする必要がありません。例えば、営業担当者が会社の経理や税務申告を担当することや、経理担当が重要クライアントとの交渉を行うことは滅多にありません。それぞれの長所が生かされた部署に配属されていれば、得意分野だけに特化するわけですから一+一=三になるのも当然です(ただし、配属=人事には最新の注意を払わなければなりません。長所どころか短所である分野に配属してしまえば、一以下の仕事しかできませんし、全体としても一+一=二以下の成果しか上げられない可能性も出てきます)。

 それに対して、独立すれば基本的にすべての作業を一人でこなさなければなりません。税理士の協力を仰ぐにせよ、営業担当者時代には見たことも無い決算書を作成し、税務申告をしたうえでその結果に対する最終責任も負わなければなりません。また、逆に経理担当者時代には、業者に命令していたのが、個人事業ともなればすべての人に頭を下げて機嫌よく仕事をしてもらわなければなりません。


続きは「産業新潮」
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
3月号をご参照ください。


(大原浩)

★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏とシンクタンク「人間経済科学研究所」(JKK)を設立予定です。HPはこちら https://j-kk.org/


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