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書評:ソクラテスの弁明・クリトン



書評:ソクラテスの弁明・クリトン
プラトン 著、 講談社学術文庫
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■「悪法も法なり」なのか?

 ソクラテスは無実の罪(不敬神)で、邪悪なアテナイ市民から訴えられ、アテナイ市民の多数を占める「心無い」人々によって死刑を宣告されました。ソクラテスはこの判決が「無実の者を罰する誤ったもの」であると確信しており、ソクラテスの親しい友人であるクリトンたちも、ソクラテスの助命に奔走し脱獄の準備もしていました。しかし、ソクラテスはその誘いを拒否し、神の意志の表れとして死刑を受け入れました。

 この逸話から「悪法も法なり」という言葉が生まれましたが、ソクラテス自身はそのようなことは述べていません。しかし、ソクラテスが「誤った判決」を静かに受け入れ死刑となった背景には「国家の判断と個人の判断がぶつかった時には国家の判断が優先する」という哲学があったのは間違いないと考えます。

 この考え方は、現代のように「個人」の意思が尊ばれる時代においては「専制的な国家の暴政も受け入れなければならないのか!?」と糾弾されそうですが、本当にそうでしょうか?


■封建制度を経験しなければ民主社会は生まれ無い

 歴史的に見ると、絶対王政から民主主義は一足飛びに生まれていません。基本的には封建社会を経験する必要があります(詳しくは、人間経済科学所研究論文「中国はなぜ民主主義を受け入れないのか」<藤原相禅>を参照)(https://j-kk.org/

 簡単に言えば、封建制度とは「御恩」と「奉公」の関係であり、領主が武士たちの所領を「安堵」する代わりに武士たちが領主に「奉公」するという「ギブ・アンド・テイク」の関係なのです。これこそが「契約」という概念の本質であり、<国民と政府との間の契約>という概念が発達しなければ民主主義は永遠に生まれないのです。

 絶対王政の王や帝国の皇帝はもちろんのこと、ファシズム、軍事政権、共産主義のように党や軍部が絶対権力を持つ<独裁政治>の元で民主主義は生まれませんし、そのような独裁政治から一気に民主主義社会へ移行することはまずなく、封建制度のような<中間的形態>を経る必要があるのです。

 欧米諸国は、後進国(発展途上国)の経済を豊かにすれば民主化されると信じて経済援助を続けてきましたが、それが完全な誤りであったことは現状を見ればすぐにわかることであり、共産主義中国はその典型例でしょう。

 結局、民主社会を実現できるのは欧米や日本などの(封建主義を経験した)限られた国々だけであり、そのような「政府と国民の契約が成り立つ社会」では、個人は政府との契約にしたがって命令に服従しなければならないというのがソクラテスの主張です。

 したがって、共産主義(ファシズム)が支配する中国のような国では、国家の命令に従う必要はないということです。

 例えば、ソクラテスは当時多数の都市(国家)の集合であったギリシャの中で、自分が望めばアテナイ以外の都市へいつでも自由に移動(移住)できたこと(ほとんどの独裁国家では自由にできません)をあげて、自分の意志で国家との契約を行ったのだと主張しています。

 もちろん、現在の日本をはじめとする先進国でも、他国への出国、移住の自由は基本的に保証されています。


■法律こそが自由の基礎である

 もう一つ重要な点は、「法律こそが<自由>の基礎であり、法律に従うことこそが自由への近道である」ということです。

 一般的に法律と自由は反対の概念と思われがちですが、法律がまったく無い状況を想像してみてください。例えばアフリカのソマリアは無政府状態で法律による統治がまったく行われていませんが、人々は恐怖におびえながら暮らしていて「自由」はほぼ存在しません。ただ一つ存在するといえるのは「他人を殺す自由」だけです。

 西部開拓時代も同様です。保安官が撃ち殺されれば(存在しない場合も多かった)、盗賊集団が町を支配し、「呼吸する自由」さえ奪われかねないような状況でした。

 実は無政府というのは、究極の不自由であり、政府と法律が自由に不可欠であることは、「自由主義」の急先鋒であり、ノーベル経済学賞受賞者である、オーストリア学派のフリードリヒ・ハイエクも認めるところです。

 ですから、ソクラテスは「自由」を手に入れるために、間違った死刑判決を受け入れたとも言えます。


■良き人生を生きる

 死刑判決当時ソクラテスは70歳でした。70年間アテナイという都市(国家)に守られて暮らせたことを感謝しており、それも彼の判断に影響を与えたようです。

 「たとえ他国へ亡命したとしても「脱獄」したという汚名は消えず、人々が自分(ソクラテス)の話を聞くときにそのことを考えすにはいられないだろう。おいしい料理を食べたりする以外に何ができるのか?」と述べています。

 しかし、それでも生きていた方がいいじゃないかと思う人が大半でしょう。ソクラテスはそのことをよく理解して「我々(クリトンなどの支援者)の考えをわかる人々は極めて少ないだろう」とも発言しています。

 つまりソクラテスは、「良き人生」を送ることが人生の主要な目的であるということは真理であるが、「良き人生」の概念は人によってさまざまであるということも認めているのです。

 自由に良き人生を生きたいからこそ「誤った死刑判決を受け入れる」というのは矛盾のようにも思われますが、それこそが「自由=良き人生」に関する最大のメッセージなのです。


■モリカケ問題とソクラテス

 国民の血税を使って、野党やマスコミが国会で無実(少なくとも細かい議論は別にして本筋において)の安倍首相を捏造証拠や嘘で糾弾しました。ソクラテスを無実の罪で裁判にかけた卑劣なアテナイ市民にも劣りますが、幸運なことに安倍首相は死刑に処されていません。

 ソクラテスは、「<真実>を追求し続けながら、公職につくことは自滅行為である」と、あくまで人々との対話によって真実を伝えてきた理由を説明しています。確かに、卑劣な人間は、その卑劣さを指摘されると激怒します。ソクラテスのような、妥協の無い姿勢で野党やマスコミの卑劣さを次々と指摘していたら、ケネディ大統領のように今頃暗殺されていたかもしれません・・・・。

 民主主義政治とは「寛容と忍耐」を必要とします。安倍首相は、はらわたが煮えくり返るような思いであったかもしれませんが、堪忍袋のひもをしっかりと締めたまま、卑劣な糾弾者と忍耐強く対峙しました。良くも悪くも。民主主義社会では、連続殺人鬼や幼児レイプ班員であっても、一定の人権は保障されるのです。

 ソクラテスのように自らの死によって、自らの哲学を貫徹させる賢人もいれば、安倍首相のように、国民の現実の幸福のために自らを投げ出す宰相もいるということです。


■備忘録

 書ききれなかった重要なポイントを箇条書きにします

◎真実は相手を傷つける。頭頂部の毛髪の生育力が弱まっている人に「禿」と言ったり、エコノミー座席が二つは必要な体型の人に「デブ」と言うのは<真実>ではあるが、「正しい」こととは言えない。一方で、汚職をしている政治家・官僚、記事を捏造しているマスコミに<真実>をつき出すのは絶対に必要なことである。

◎ソクラテスは、普遍的に<真実>を追求したため、<真実>を暴かれた人々から大きな恨みを買った。

◎人間は、夜眠っているときには意識が無い。もし、死がそのようなものであれば「永遠に熟睡できる」のは決して悪いことでは無い。

◎当時のアテナイでは検察制度が無く、誰もが訴訟を起こすことができ、示談金をせしめるために冤罪とわかりながら訴訟を起こして金をせしめる輩も少なく無かったが、ソクラテスはそのような示談を行うことなく、法廷で正々堂々と弁論を行った。

◎ソクラテスは、「冤罪で死刑にされる」よりも「冤罪で死刑にする」人々のほうが不幸だと考えていた。

◎大衆の多数意見に価値は無い。重要なのは思慮のある人の意見である。

◎医療に関しては専門家である医師の意見に従う。大多数の無知な大衆の意見に従うのは危険な行為である。言論、政治においても同様である。

◎大衆が自分をどのように評価しようが関係が無い。大事なのは知識と教養を備えた人が自分をどのように評価するかである。

◎国家を父親のようなものと考えたら、「ぶたれたからといってやり返すのが正しい行い」なのだろうか?

◎民主国家では政府を説得するか、それとも政府に従うかの二者択一を国民に与えている。共産主義やファシズムでは与えられていない権利である。

◎国家と政府とは違う。政府とは、国民一体の概念上の存在である国家から実務を運営するために仕事を任命された存在である。

 国家と政府の「二権分立」が確立した日本の制度を見るとよくわかる。
 国家とは、国民統合の象徴である天皇制で表されるが実務は行わない。実務を行うのは国家の象徴である天皇から任命を受けた内閣(昔は征夷大将軍)である。したがって、政府が何回変わっても「日本」という国家の永続性は保たれる。


(大原浩)


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 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56970
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★大原浩の執筆記事<「衝撃分析:中国崩壊でも心配無用 世界経済好転」>
 が8月20日(月)午後発売の夕刊フジ1面に掲載されました。
 ZAKZAK (夕刊フジネット版)
 https://www.zakzak.co.jp/soc/news/180821/soc1808210003-n3.html

★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
 (JKK)を設立します。HPは< https://j-kk.org/ >です。

★夕刊フジにて「バフェットの次を行く投資術」が連載されています。
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