産業新潮
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8月号連載記事
■その24 目の前の100万円と将来の1億円
●慌てる乞食は貰いが少ない
「慌てる乞食は貰いが少ない」という言葉がある。慌てて何かを手に入れようとしてももらえるものは少なく、多くのものを手に入れようとするのであれば、忍耐強く「その時」を待たなければならないという教えである。
ほとんどの読者がこの教えに共感すると思うが「言うは易し、行うは難し」である。
例えば、企業の決算。年次決算どころか、上場企業では四半期決算の開示がごく普通になっているが、膨大な費用と手間をかけて四半期ごとの決算を集計・発表し、社長以下役員がIR説明会のために多くの時間を費やすことは壮大な無駄に思える。さらに、長期的な企業の成長よりも目先の決算の利益に経営陣の意識が集中するという点は大いにマイナスである。
投資の神様ウォーレン・バフェットは、例外的な場合を除き「年次決算を確認すれば十分」であると考える。数年、数十年単位での投資が基本の彼にとっては、四半期決算ごとの数字の動きなど「数字の揺らぎ」にしかすぎず、その企業の「本質的成長力」には影響を与えないと考えるのである。
投資において、「(将来への)長期投資の方が大きな果実を得ることができることはバフェットが見事に実証している。そして、バフェットは「企業の長期的成長力」に賭けて投資をして成功したのだから、企業経営のあるべき姿もおのずと導かれる。
しかし、それではなぜ経営者を含む人々は「目先の利益」に執着しがちなのであろうか?
●目の前のものをすぐに欲しがるのは動物の本能
面白い実験がある。実験用のラットに、3種類の色違いのレバーの使い方を教える。例えば青のレバーを押すと即座に餌が一個出てくる、黄色のレバーを押すと10秒後に3個の餌が出てくる、赤のレバーを押すと1分後に10個の餌が出てくる。一度どれかのレバーを押すと、10分間はどのレバーを押しても次の餌は出てこない。
読者であれば迷わず「1分間待って10個の餌を手に入れる」であろう。すぐに出てくるからといって、1個のえさしかもらえないのでは大損だ。
ところがラットたちにいくら教えても、必ず青のレバーを押して1個のえさをすぐにもらうことで満足する。このシステムの仕組みが分からないわけでは無い。しかし、たくさん報酬をもらえると分かっていても1分間待てないのだ。
よく考えてみれば、これは当たり前のことかもしれない。自然界で目の前に餌があったらすぐに食べてしまわないと、ハイエナや猛獣など他の動物、あるいは自分の仲間に食べられてしまう。だから、一瞬でも待つということは大変大きなリスクであり、そのような「馬鹿げた」ことはしないように動物は進化したのである。人間も文明が誕生する前はそのような状態であったから、「目の前のものがすぐに欲しい」本能が強く備わっているのだ。
●「信頼」とは先送りできることである
コインはサルでも使える。サルにコインの使い方を教えるとすぐに覚える。
研究者がコイン1個とバナナ5本をいつでも交換してくれることが分かると、オスザルたちは、メスザルたちにコインと引き換えに交尾を行うよう要求する。よく売春は世界最古の職業だと言われるが、本当かもしれない・・・
しかし、このサルたちが行うのはあくまで目の前で行う「物々交換スタイル」の取引である。コインを受け取ったメスザルはすぐにバナナと交換し、将来のために貯蓄をするなどということは行わない。
「交換の先送り」が人間独自の行為であり、これが貨幣経済を発展させ文明の基礎を築いたと言われる由縁だ。
たとえば、山の村と海の村がそれぞれの産物を目の前で物々交換しようとしたときに、海の村が持参した魚の数が、山の村が持参した山菜の量に見合わなかったとする。海の村の人々が、貝殻を相手に渡して「将来の好きな時にこの貝殻を持って来れば足りない数の魚といつでも交換する」と約束して取引を成立させるのが「交換の先送り」だ。
<続く>
続きは「産業新潮」
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7月号をご参照ください。
(大原 浩)
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