書評:トコトンやさしい 配管の本



トコトンやさしい 配管の本
西野悠司 著、日刊工業新聞社
 https://amzn.to/2ueL5qS


 ウォーレン・E・バフェットは「投資の成功のための本質」を「安く買って売ることである」と看破しています。

 「なんだ、当たり前のことじゃないか!」と思われる方が多いかもしれませんが、バフェットに言わせれば「世の中のほとんどの投資家は、この<安く買って高くる>という簡単なことができていないからうまくいかないのです。

 バフェットが師匠ベンジャミン・グレアムから教わった二つの重要事項の一つは「ミスター・マーケットと名付けられた、日々の躁うつ病にも似たマーケットの不安定な動きに左右されないこと」ですが、もう一つがこの「安く買って高く売る」ことです。

 ただし、「安く買う」と言っても「昨日あるいは去年よりも株価が安い」というような意味では決してありません。バフェットは市場の日々の動きはまったくと言っていいほど見ていません。


 彼が常に注目するのは「本質的価値」と「(市場の)株価」の関係です。
 バフェットが「安く買う」という意味は、<市場価格が「本質的価値」よりかなり安くなった時に買う>ということなのです。

 したがって投資先(企業)の本質的価値が分からない人は、(市場の)株価が安いか高いか(バフェット流において)さえ分からないのです。

 「本質的価値」については有名な「バフェットからの手紙」で毎年のように論じられているので(2003年版、2004年版でも触れている)ここでは述べませんが、私も当然のごとく投資先(企業)の「本質的価値」の研究を日夜行っています。


 そのためには各企業はもちろんのこと、業界の研究も欠かせません。
 しかし、産業の数は無数にあり、そのすべてを深く研究するのは困難です。
 そこで私の不得意分野(特に工学系)の知識を補うときに重宝しているのがこの「トコトンやさしい」シリーズです。

 別に工学博士や工場技術者になるわけでは無いですから、私のような投資家は企業のHPなどを読んで、その会社の強み(バフェットの表現で言えば【堀】)が分かるようになればいいわけです。

 その点で、本シリーズは執筆者にかかわらず内容がコンパクトにまとまっていてとても読みやすい本です。


 「配管」については、石油プラント、パイプライン、ガス、水道はもちろんのこと、半導体工場やオフィスの空調など産業と切り離せない存在です。

 特に電子製品の高度化によって、半導体などで使用される純水や室内の温度や環境を一定に保つため、あるいは化学薬品などの循環など、極めて高い精度の配管の設置が求められるようになってきています・


(大原浩)


★6月25日(月)発売の夕刊フジ(産経新聞社)に筆者の執筆記事<緊急寄稿>「日経平均10万円その根拠」が掲載されました。
 夕刊フジに掲載された全文はこちら
 https://www.zakzak.co.jp/eco/news/180626/eco1806260006-n1.html


【大原浩の書籍】

★夕刊フジ(産経新聞社)にて「バフェットの先を行く投資術」)」
 <毎週木曜日掲載>
 月刊「産業新新潮」(産業新潮社:http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
 にて「ドラッカー18の教え」を長期連載中。

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 昇龍社、アマゾン・キンドル版<上・下巻>2016年度版
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★『投資の神様』(バフェット流投資で、勝ち組投資家になる)<総合法令>
  http://goo.gl/MKtnf6

★「客家大富豪の教え」18の金言」に学ぶ、真の幸せをつかむ方法
 著者:甘粕正 <アマゾンキンドル版>
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★「賢人バフェットに学ぶ・投資と経営の成功法則」
 昇龍社(アマゾン・キンドル版)
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★「バフェットからの手紙」に学ぶ(2014)大原浩著 昇龍社<Kindle版>
 http://goo.gl/Blo6KT

★「バフェットからの手紙」に学ぶ(2013)大原浩著 昇龍社<Kindle版>
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ドラッカー18の教え 第16回



産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
7月号連載記事


■失敗のない人間は何もしてこなかったのである


●過去を変えることはできる



 最先端のタイムマシンの研究(ほんの数十年前までは、タイムマシンの研究をしている科学者はマッド・サイエンティスト扱いでしたが、素粒子レベルでの研究は現在学問として認められつつあります)によれば、少なくとも素粒子レベルにおいては「現在から未来への移動」は実現可能とされていますが、「過去への移動」は、「タイムマシンが実際に制作されたときが限界」であるとされます。つまり、まだタイムマシンが制作されていない現在より過去への移動はできないとされています。


 また「おじいさんのパラドックス」と呼ばれる問題もあります。
 例えば読者の一人が過去にさかのぼって、自分のおじいさんを撃ち殺したとします。するとおじいさんの子孫であるその読者も現在存在しないことになってしまいます・・・もし、最近多くの科学者が主張するような多元宇宙論が正しいとすれば、読者の住んでいる宇宙と撃ち殺したおじいさんの宇宙が異なるということで矛盾が解消されるのですが・・・


 いずれにせよ、アインシュタインの相対性理論に基づく「時間と空間」の概念にまで踏み込まないと、「物理的な過去」を変えることはできませんから、現実には不可能です。しかし、我々が通常「過去」と呼んでいるものは「記憶している過去」であり、この過去は我々が思っているほど強固なものでは無く、意外に簡単に変えられるものです。


●過去とは脳の記憶である



 一般に記憶というものは、コンピュータに登録した情報のように永遠不変のものだと思われていますが、最近の脳科学の研究では「記憶は呼び出されるたびに、変化していく」ことが明らかになっています。記憶を呼び出したときの状況に対応して、脳の記憶が書き換えられそれが(新たな)過去の記憶として残されるのです。もちろん、意図的に自分の都合のいいように記憶を改ざんするということではなく、脳が(限られた記憶容量を効率的に使用するため)その機能として、過去の記憶と現在の状況を照らし合わせて無意識に「整理統合」を行うことから起こる現象です。


 これを確かめるために大規模に行われたのが「9・11テロの記憶の追跡」です。
 まず、テロ直後の関係者の証言をビデオに収めます。その後、半年後・1年後・2年後というように、同じ事柄に対する証言を同じ人物に同じ場所でしてもらいます。その証言を時系列に並べると本当に驚くのですが、証言内容が毎回異なるだけではなく、だんだん自分自身が体験しているはずが無いことまで自身の体験として証言するようになるのです。もちろん、証言者が嘘をつく動機はありませんから、テレビや新聞で繰り返し報道する内容などが、事件当時の記憶と融合して自分自身の体験のように感じられるようになったのだと考えられます。


●失敗は失敗ではない


 「成功には1000人の父親がいるが、失敗は孤児である」。現実とは厳しいものです・・・私も「俺の人生はもう終わりだ!」と思うような失敗を何回かしましたが、おかげさまで私の人生は(今のところ)終わっていません。

 例えば、A君とB君という何から何まで同じのクロ―ン人間のような若者がいたとします。そして同じ会社に同期で入社し、同じ部署に配属され、同じ大失敗をやらかし、同じタイミングで会社を首になります。
 ここから二人の人生がわかれます。
 A君は一念発起して、ベンチャー企業を起こし、紆余曲折はあったものの一部上場企業にまで上り詰めます。A君の会社紹介では、必ず入社早々の大失敗のことに触れ「あの失敗があったからこそ、今の当社がある」と繰り返し「賞賛」されます。
 それに対してB君は、失意のままとりあえず転職したものの、「あの失敗さえなければ」と悶々として仕事に対する情熱も生まれず、転職を繰り返し、晩年には生活保護を受けながら「あの失敗さえなければ」とつぶやき亡くなります・・・。

 「過去を書き換える」とはこのようなことなのです。
 繰り返しますが、「過去」とは、繰り返し書き換えられる人間の記憶の中に存在するものなのです。


続きは「産業新潮」
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
7月号をご参照ください。


(大原浩)


★6月25日(月)発売の夕刊フジ(産経新聞社)に筆者の執筆記事
 <緊急寄稿>「日経平均10万円その根拠」が掲載されました。
[サブタイトル]
・24年前ITバブルに似た状況
・創造性ない中国は永遠に先進国になれない
 夕刊フジに掲載された全文はこちら
 https://www.zakzak.co.jp/eco/news/180626/eco1806260006-n1.html


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日経平均が10万円を突破するのはいつか?



 「2012年に日経平均が2万円を超える15の理由」という本を講談社から出版したのは、2010年5月ですからかなり昔のことになります。

 当時はリーマンショックの生々しい記憶がまだ冷めやらぬ時期で世の中の反応は「2万円?夢物語でしょ!そうなったらうれしいでけど・・・」というものでした。人々は2万円どころか、日経平均が4000円まで急落するのではないかとびくびくしていたのです。

 その後、2012年3月に「銀座の投資家が『日本は大丈夫』と断言する理由」をPHP研究所から出版したときには、2011年3月の東日本大震災・福島原発事故の直後で世の中を沈滞ムードが覆っていました。

 確かに私は、<3.11>という大事件を事前に予想できなかったため、日経平均が2万円に到達する時期を読み間違えました。これは否定できない事実です。しかし、この2冊の本を今読み返しても、日本経済の先行きや株価の大きなトレンドに対する考察は間違ってはいません。

 『日本という国が力強い成長』を今後とも続けていくことに疑いはなく、当然(平均)株価も完全にパラレルでは無いにしても関連性を持って上昇します。

 前回の思わぬ事件による失敗やバフェットの「何がいつ起こるか予想することはできない・・・・」という金言を考慮して、時期の特定については今回行いませんが、少なくとも私が生きている間(私は間もなく還暦)には日経平均が10万円に到達すると考えます。


 なぜ、「日本経済や株価に対してそれほど強気なのか」については、これまで色々なところでコメントしてきましたし、今後もいろいろな解説を行いますが、直近の市場のムードが「株価が上昇しているのにもかかわらず弱気」であることも、私の考えを後押ししています。

 有名な相場格言に「大相場は悲嘆の中で始まり、懐疑の中で育ち、熱狂とともに終わる」というものがあります。つまり、大きな上昇相場というのはリーマンショックのような大暴落で人々がおびえている中で始まり、その後株価が上昇しても人々が懐疑的な気分の中でびくびくしている中で育つということです。そして、世の中の懐疑的気分が無くなり、人々がバブルで熱狂する中でリーマンショックのような暴落で大相場は一瞬にして終わるわけです。

 8000円近辺から考えれば、現在の株価は3倍水準であり、すでにバブル水準と考えて多くの(特にベテランの)投資家が積極的にカラ売りをしかけていることは大いに理解できます。

 しかし、私は今回の上昇相場は並みのスケールではないと考えます。3倍に株価が上昇しているのにもかかわらず、世の中のムードがまだまだ懐疑的でバブルとは程問い状態です。「株を買わないやつは馬鹿だ」という評論家も現れていませんし、むしろ「リ―マンショックから10年目だからまた大暴落がやってくる」というような話を素人のコメンテーターまでが口にするような状況です。

 現在の状況は1994年頃の米国市場に非常によく似ていると思います。
 1994年のダウ平均は、4000ドル近辺でした。1980年代においては1000ドル程度でしたから、この水準はとてつもなく高く思われ、私の周辺のプロフェッショナルのディーラたちは大規模なカラ売りを仕掛けました。

 しかし、結果は皆さんのご存じのとおりです。その直後からIT・インターネットバブルが始まり、2000年頃には1万ドルを超える水準に到達しました。その後ITバブルの崩壊によって一時的に値を下げましたが、現在のダウ平均は2万5000ドル近辺、すなわち1994年の水準の6倍以上にもなるのです。4000ドルが日経平均2万円と換算すれば約25年間で12万円以上に上昇したことになります。

 また、1980年代の1000ドルを、日経平均の安値水準8000円と考えれば、現在のダウ平均は約25倍。日経平均に換算すれば20万円。

 今後の日本の株式市場はそのぐらい大きな上昇相場を経験すると考えます。

夕刊フジに掲載された全文はこちら
 https://www.zakzak.co.jp/eco/news/180626/eco1806260006-n1.html


(大原浩)


*2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
 (JKK)を設立しました。HPはこちら https://j-kk.org/


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書評:量子コンピュータとは何か



書評:量子コンピュータとは何か
 ジョージ・ジョンソン 著 早川書房
 https://amzn.to/2M57UVn


 これまで株式市場などで「革新的技術」だとの評判を得て、「今すぐにも実用化」されそうな話をマスコミがたれ流した事例は数え切れません。

 「(常温)超電導」、「(常温)核融合」、「人工知能(AI)」などいくらでもあげることができます。「(完全)自動運転」もたぶんその一つになるでしょう(その理由の詳細は述べませんが、はるかに簡単な飛行機でさえいまだに「完全自動運転」が実現していません)。

 特に「AI」は過去何度目かのブームがやってきていますが、今回もそれは実現できないと思います。簡略に述べれば、「人間の脳が電気で動いているというのは間違った考えであり、実際には生体の化学反応の結果電気が生じている」と考えるべきだからです。

 また、人間の脳はあくまで体の一部であり、人間の脳の情報(ソフト)だけを移し替えるということも(SFではよくある設定ですが・・・)できません。例えば人間の脳はコンピュータの世界で言えば「IoT」のように体の各部分と情報交換を行っており、脳が各部分に指令を出すだけではなく、各部分が脳
に情報を送り影響を与えます。

 「臓器移植」をしたら「食べ物や娯楽の趣味が変わり」<調べてみるとその臓器の持ち主の嗜好と同じであった>という話があります。十分あり得ることで、脳が人間の体の各パーツとつながっているからには、むしろ必然といえます。

 人間の脳はウィンドウズのようにソフトとハードが分離しているのではなく、MAC以上にOSとハードが一体化しているといえます。

 さらに、本書でも簡単に触れられていますが、人間の脳細胞どころかその細胞を構成するたんぱく質などの分子、さらにはその分子を構成する原子(核や電子)が、「計算」=「思考」している可能性があります。

 限られた条件下の限られた内容の計算ですが、実際に量子(原子・光子・イオン・電子など)による計算が成功しているので、人間の脳細胞を構成する量子が「思考(計算)」していて、それが人間の「意識」を生み出している可能性は否定できません。しかし、数百年、数千年後(人類が滅亡していなければ・・・・)に解明するかも知れない事実でも、現状は雲をつかむような状況です。

 量子そのものの性質がまだ未解明なわけですから、量子の不思議な性質は実は(現在物理学会では常識となりつつある)多元宇宙(宇宙は一つではない!)の証明だと説明されることになったら、現在の量子論は大幅な修正を迫られます。

 もっとも、原理が分からなくても、ニュートン以前から人類はいろいろなエネルギーを活用する道具を生み出してきましたし、蒸気機関が発明された時もその動作の原理の詳細は未解明でした。

 ですから、原理が完全に解明されなくても(実用的)量子コンピュータが完成しないわけではありません。

 しかし、本書のオリジナル(英文)が執筆された2000年頃と、量子コンピュータ開発の現状を比べるとあまり進歩していないことが気になります。

 確かに初期の(古典的)コンピュータは真空管を使用していて、ビル一つほどのサイズで電卓以下の性能でした。当時の人々が現在のIT化を予想できなかったのも当然です。トランジスタが登場しなければ、現在のモバイル端末やインターネットに通じる大ブレイクは無かったかもしれません。

 しかし、量子コンピュータにおいてトランジスタに匹敵するブレイクがおこるのかどうかもわかりませんし、もし起こるにしても今すぐでは無いようです。


(大原浩)


*2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
 (JKK)を設立しました。HPはこちら https://j-kk.org/


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書評:大収縮 1929−1933



書評:大収縮 1929−1933 「米国金融史」第7章
ミルトン・フリードマン+アンナ・シュウォーツ 著、日経BP社
 https://amzn.to/2LK2zCu


 米国の金融に関する歴史を詳細に論じた「米国金融史」の中で、いわゆる「大恐慌」に関する部分をピックアップした書籍です。

 今からは考えられないことですが、この時期にFRBが行った「金融引き締め」的政策についても詳細に論じられています。歴史の「たら・れば」は意味が無い議論だとは思いますが、フリードマンは、当時発足したばかりの連邦準備制度(それまではNY連銀が事実上その機能を果たしていた)が円滑に機能していれば、過去の大型不況と同程度の打撃を受けたにしても、今日まで「大恐慌」と呼ばれ<恐怖感>を持って論じられるような深刻な事態にはならなかったであろうと結論づけています。

 公開市場操作をはじめとする金融政策、さらにはハイパワード・マネーのコントロールがうまくいったとして、「本当に大恐慌が起こらなかったか?」という点について、私は懐疑的です。本書を読む限り机上の空論以上のものではありません。本書巻末の<全米経済研究所理事の所見>においても、金融実務家(市場関係者)の観点から、同じような疑問が提示されています。

 もう一つの重要ポイントは、当時の金融政策が稚拙なこともあって多数の銀行を倒産させてしまったという事実です。現在でも<金融機関の自己責任>については厳しい議論が続いています。金融機関にも一般企業と同じような経営上のモラル(経営責任)を求める声があるのは当然のことですが、<金融システムの維持>を中心に考えるのであれば<金融機関は倒産させてはならない>というのが本書の結論であり、私も同感です。

 この大恐慌の教訓から、モラルの問題があるにもかかわらず、金融機関は倒産させない(あるいは預金保険機構で守る)のが一般的政策です。また、不況期には過剰ともいえるほど資金を供給します。

 1990年のバブル崩壊以来、ひたすら資金供給と低金利政策を続けてきた日本の政策が典型でしょう。史上まれに見るバブルの崩壊にも関わらず、人々が路頭に迷うような大恐慌が起こらなかったのは、日本政府(日銀)の金融緩和政策のおかげです。
 また、大部分の金融機関は合併などで生き残りましたが、1997年の北海道拓殖銀行を皮切りに金融機関を倒産させた時期に不況は深刻化しました。この時期の方がバブル崩壊直後よりも危険な状態であったのは事実です。
 おおむね2003年の「りそなショック」(実質国有化)以降、銀行を救済する方向に転換してから日本経済が持ち直してきたといえるでしょう。

 しかし、この超金融和政策は「大恐慌」こそ引き起こさなかったものの日本に20年以上もの経済停滞をもたらしました。本格的に日本経済が回復の兆しを見せ始めたのは、2012年末のアベノミクス開始以降です。第2次世界大戦があったとはいえ、1929年に始まった大恐慌が16年後の1945年には終わっているわけですから、どちらを選択すべきは実のところ微妙な問題です。

 2008年のリーマンショックでも、日本型の超金融緩和政策がとられ(当時米国で倒産させた主要金融機関はリーマン・ブラザースだけです)、歴史上未曽有の<金利バブル=マイナス金利>を世界中に引き起こしました。おかげで、今回も「大恐慌」は免れましたが、この処理には日本のバブル同様20年くらいはかかると考えています。現在リーマンショック後10年目ですからまだ折り返し地点です。

 金利引き上げによる正常化が盛んに議論されていますが、実際のところは本格的に実行できる段階ではないと思います。

 特に、欧州とチャイナなどを含む発展途上国(後進国)が、世界経済の足を引っ張るのではないでしょうか?

 逆に、日本や米国は低金利を有効に使って益々繁栄すると考えています。
 日本は1994年にダウ・ジョーンズが4000ドルを超えたあたりにいると思います(現在のダウ・ジョーンズは2万5000ドル近辺です。日経平均を6倍すると12万円くらいの感覚です)。

 また、1980年代のダウ・ジョーンズは1000ドル程度ですから、現在は約25倍。日経平均の底値を8000円とすれば20万円のイメージです。

 もっとも、世界中で超金融緩和によって問題を解決しようとする流れが続けば<金融システム>そのものが危うくなるリスクは常にありますから、その点は十分注意する必要があります。

 なお、本書巻末の元FRB議長ベン・S・バーナンキのコメントは、本書の内容を熟読したうえで、重要なポイントを的確に指摘していますので、大いに参考になると思います。


(大原浩)


*2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
 (JKK)を設立しました。HPはこちら https://j-kk.org/


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書評:資本主義と自由



書評:資本主義と自由
ミルトン・フリードマン著、日経BP社
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●自由こそ資本主義の源流

 1962年にそれ以前の講義内容を基に出版された本ですが、60年近く昔の内容であるにも関わらず、現代我々が直面している諸問題に関して鋭く切り込み、かつ明確な解答を与えている名著です。

 1776年に国富論の初版が発刊されてからほぼ250年、その輝きを失っていないのと同様、本書も風雪に耐えながら残っていく古典となるでしょう。また、アダム・スミスに関する言及もしばしば登場しますが、きちんと彼の主張を理解したうえでのコメントであり、本来の内容を捻じ曲げて伝えている自称<スミス派>の人々とは一線を画しています。

 また、本書の内容そのものがアダム・スミスの正当な後継者であることを示しています。スミスは「見えざる手(決して『神の』ではありません!)」、すなわち国民が参加する市場の「自律的コントロール」を重視していました。フリードマンも筋金入りの「自由主義者」であり、市場あるいは民間の力最大限に活用するのが合理的であると主張しています。

 ただし、「国家」がある分野において重要な役割を果たすことは二人とも認めています。まず第一は「国防」、その次に国内の「治安」があげられます。「国防」に関しては日本国内には奇妙な「憲法9条教」の信者がたくさんいますが、国内の同胞から自分の安全を守るのに警察が必要であると主張しているのに、国外の侵略的国家から自国を守るための軍隊が必要無いなどと主張するのはクレイジーな話です。

 どのような社会にも犯罪者は一定割合(比率の多少の違いはあっても)で出現しますし、独裁者が支配する邪悪な国家は朝鮮半島だけではなく、世界中の多くの地域に観られます。

 そのような「夜警」としての役割以外の国家の重要な役割には<カルテルの打破>があります。スミスは「商工業者が集まれば、それが趣味の会であっても結局<談合>になる」と何回も指摘していますが、「厳しい競争の中で互いに協力して戦う」というのは人間の本能であり、美徳とも言えます。

 しかしながら、国民から見れば「業者が結託して価格を吊り上げる」等の行為は、大いなる不利益です。したがって、国家がそれらの業者(アダム・スミスのいう商工業者)を監督し、互いの競争を促進しなければなりません。つまり「自由競争を担保するために政府の存在が必要」なのです。

 ところが、自由競争を促進すべき政府が、商工業者の後押しをして輸入関税・輸入制限、補助金、参入制限、さらには自らが参入する「国営」などの手法によって自由競争を妨げています。


●政府が行うべきではない14の事業

 フリードマンは、第2章で政府が行うべきではない事業の14のリストをあげています。

1)農産物の買い取り保証価格制度
2)輸入関税・輸出制限
3)産出規制
4)家賃統制
5)最低賃金・法定金利
6)産業規制・銀行規制
7)ラジオ・テレビ規制
8)社会保障制度(特に老齢・退職年金制度)
9)特定事業の・職業の免許制度
10)住宅政策
11)平時の徴兵制
12)国立公園
13)営利目的での郵便事業
14)有料道路

 フリードマンが提案してから60年以上たっても、あまり進歩が無いのは残念です。

 13)の郵便事業は、日本では民営化されましたが、「信書」に関してはばかげた規制がまだ残っておりヤマトは事実上市場から排除されました。

 1)の農産物に関する規制は、規制を行っているどのような国でも農業が発展せず、特に農民一人あたりに換算すれば、莫大な金額をつぎ込んだ日本の農業は壊滅的状態です。

 2)の輸入関税・輸出制限について、アダム・スミスは、<国家の利益のためではなく、特定の商工業者の利益のために行っているに過ぎない>と切り捨てています。

 5)の最低賃金は、弱者を守るように見えて実のところ弱者を苦しめています。市場経済では、価格が上がれば需要は減ります。最低賃金によって雇用の総数は減り、職にあぶれた人はゼロ円の収入しか得られない失業者になります。また、最低賃金によって企業の競争力がゆがめられ、産業の発展が阻害されることも雇用にはマイナスです。

 8)の年金制度(強制加入)は、個人の人生に国家が介入するやり方です。20歳を過ぎた大人に「老後の生活設計をどのようにするのか」国家が指導するというのは全体主義的です。アリのようにきちんとたくわえをしなかったキリギリスにどのように国が対応するのかは、別次元の話です。

 9)の免許制度はかなり議論を呼ぶ争点だと思いますが、フリードマンは医師や弁護士の免許制度も不要であると断じています。当然、「免許制度が無ければ選択に困る」という話が出てきますが、「資格を持ったやぶ医者や悪徳(無能)弁護士がどれほど多いのか?」ということを考えるべきでしょう。例えば、金融機関や企業の評価は複数の民間の格付け機関(調査会社)が行い、全く問題がありません。むしろ企業の信用調査における民間の情報・分析の蓄積は驚くべき程です。「世間の評判」はかなり信頼がおけるものですし、ネット社会での「評判」の伝達スピードは迅速です。

 そもそも、これらの免許が終身であることが問題です。日進月歩で進歩する現代社会において、30年前に試験に合格した人物の技量はあてになりません。自動車運転免許でさえ5年ごとに更新しなければならないのですから、これらの免許も5年あるいは10年ごとに更新手続きを義務付けるべきです。

 同じことは大学を含む教員にも言えます。大学教員でもあったアダム・スミスは「競争原理が働かない大学の教員は腐敗する」と述べていますが、まさにそれが現実になっています。
 教員も自由市場で(学生や学費を支払う親から)きちんと評価されるようにならなければ、教育の質の向上は見込めません。この点においてフリードマンは、生徒や親が公立・私立を問わず、好きな学校で学べる「バウチャー制度」という優れた提案をしています。


●リベラルとは何か?

 本書の冒頭でフリードマンは、リベラルという言葉が現在では全く反対の意味に使われていることを嘆いています。

 そもそもリベラルという言葉は「自由を大事にする人々」をさしますから、本来個人の自由を最大限に尊重する「小さな政府」を信奉する人々を意味したはずです。ところが本来の意味でリベラルな人々は、現在は「保守派」と呼ばれ、「大きな政府(福祉国家)」を信奉したり共産主義(全体主義)のように個人の自由を奪う(例えばナチスは国民社会主義ドイツ労働者党で共産主義を信奉(共産党を弾圧したのは同じ方向を向くライバルであったから)し、毛沢東やスターリンはヒットラーをはるかに上回る人民を粛正で虐殺しています。もちろん、北朝鮮もその仲間です)人々が勝手に自分たちのことをリベラルと呼び、それが左翼勢力に支配されているマスコミによって広まり一般化しています。

 要するに「リベラル」という言葉が「背のり」されたわけですが、それほど「自由」という言葉は現代社会において重みがあります。政治的な意味合いだけではなく「自由」と「民主主義」は、ピーター・ドラッカーが述べる「知識」が経済の中心である現代において、発展のための必須の条件なのです。

 例えばガレー船(古代において2列に並んだ多くの漕ぎ手が全力で漕ぐことによってスピードを増した船)の漕ぎ手を考えてみましょう。彼らを一生懸命働かせるため、鎖でつないで鞭打てばいくらか効率が上がるかもしれません。むろん、「インセンティブ」が全くない彼らを働かせるための監督管のコストは馬鹿になりませんが、「牛や馬」と競合する労働であれば、このような手法もそれなりに役に立ちます。

 ところが、現代の「バイオ研究所」において、研究員達を鎖でつないだうえで鞭打つことで、より良い研究の成果が出るでしょうか?むしろ逆なはずです。

 米国の南北戦争は「奴隷解放」に関する倫理的な争いのように語られ「リンカーン」は、奴隷解放の英雄のように語られますが、そうではありません。
 農場労働で大量の奴隷(牛や馬の代わり)が必要であった南部に対して、工業化が進んだ北部では工場で奴隷を鞭打って働かせるよりも、解放奴隷にして「えさを与えてやる気にさせたほうが」より効率的だったのです。

 少し皮肉な表現をすれば「社畜」であるサラリーマンと、コンビニ・オーナーなどの自営業者との関係に近いということです。少なくとも自分が「社畜」であると感じているサラリーマンは、必要最低限の仕事をして楽をすることしか考えません。それに対してコンビニ・オーナーは24時間息の抜けない過酷な環境であっても頑張ります。売り上げや利益が増えた場合の「一国一城の主」というインセンティブがあるからです。

 「女工哀史」などという言葉もありますが、工場で鞭打って働かせるなどという話は聞いたことがありません。農作業であれば労働の質はそれほど問われませんが、工場の労働者がたくさんに別れた工程の中で「へま」をすれば、完成品全体に影響を与え大きな不利益を被ります。ですから、鞭打たれていやいや最小限のことを行う奴隷は役に立たず、「インセンティブ」を与えられて、積極的に仕事を行う「解放奴隷」が米国北部の工業地帯に必要不可欠であったのです。

 この事実は、「10万年の世界経済史」<下>(グレゴリー・クラーク著)によって19世紀〜20世紀にかけての世界の繊維産業でも検証されています。

 当時英国は、繊維工場の機械や技術者を世界中に派遣する技術大国でしたが、他の国々(特にアジア、アフリカなど)の工員の賃金は英国をかなり下回っており、賃金において英国は競争上不利でした。ところが、全体的な英国の競争上の優位はなかなか崩れ無かったのです。著者はその理由を明確には述べていませんが、おおむね「工員の質」および「マネジメントの質」のかなりの差が英国と他の国々の間にあったのは間違いないようです。

 したがって、リベラルを名乗りながら、実際には全体主義・独裁主義であるチャイナ、南北朝鮮、さらにはベトナムなどの共産主義国をはじめとするグループは、「知識」が最も重要な資源である現代において、永遠に先進国の仲間入りはできません。これらの国々を「発展途上国」あるいは「新興国」と呼ぶことがありますが、少なくとも「知識社会」における発展が望めないのですから「後進国」と呼ぶのが正しいということになります。


●合法的利権集団である労働組合について

 政府が行っているわけでは無いので14のリストには入っていませんが、労働組合も社会に害悪をもたらすものの一つです。

 フリードマンが行った大まかな分析では、労働組合の力で労働人口の10〜15%の賃金が10〜15%引き上げられると、残り85%〜90%の賃金水準は4%押し下げられるという推定に達しています。他の研究者による数字もほぼ同じ内容のようです。

 商品の価格が上がれば需要は低下します。その結果その労働組合が牛耳る職場や同業などから弾き飛ばされた人々が職探しをします。供給が増えるので、それらの人々の賃金は当然下がります。結局、低賃金労働者を犠牲にして高給取りの組合員が潤います。

 フリードマンの言葉を借りれば「労働組合は、雇用をゆがめてあらゆる労働者を犠牲にし、ひいては大勢の人々の利益を損なっただけではなく、弱い立場の労働者の雇用機会を減らし、労働階級の所得を一段と不公平にしてきた」のです。


●今こそ資本主義と自由について考えるべきとき

 60年前のフリードマンの鋭い指摘にも関わらず、現在に至るまで国家の機能は肥大化してきました。何か問題があれば「国が悪い」と、責任を押し付ける風潮がその流れを加速させたのは間違いありませんが、国の役割が増えれば増えるほど、個人の自由は制限されます。

 日本をはじめとする先進資本主義国家が、共産圏のような全体主義・独裁国家になってしまわないよう、今こそ「国家」と「個人」の関係を見直すべき時ではないでしょうか?


(大原浩)


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ドラッカー18の教え 第15回



産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
6月号連載記事

■コミュニケーションは受け手が主役


●禅問答

 こんな禅問答があります。

「誰一人いない山奥で大木が倒れた。音は聞こえるか?」

 山奥で大木が倒れれば、空気は当然振動します。しかし、それが「音」になるためにはその音が、人間の耳の中の鼓膜を振動させ、その振動が脳の中で音として認知される必要があります。つまり、だれもいない山奥で木が倒れても、音を感じる人間がいなければ音は聞こえないということです。

 ドラッカーも著書でこのエピソードを取り上げていますが、「誰もいない山奥で叫びまくっている」経営者やマネージャーは決して少なくありません。
 経営やマネジメントにおけるかなり深刻な問題といえるでしょう。


●情報とコミュニケ―ション

 ドラッカーは人間同士でやり取りされるものを、「情報」と「コミュ二ケーション」に大別し、それぞれまったく異なるものであると指摘します。

 通常、人と人の間では、コミュ二ケーションの中で情報を伝達します。
 例えばランチやディナーで雑談しながらのやりとり、会議室での表情や身振り手振りなどのボディーランゲージを含めたやりとり等々。立ち話でちょっとした伝達をするときでさえ、声の調子や表情でその伝達事項の「意味」がかなりわかりますし、電子メールの一斉配信のときでさえ、伝えたい内容だけではなく、ちょっとした挨拶やコメントが添えられるのが一般的です。

 このように分かちがたく結びついている「情報」と「コミュ二ケーション」ですが、その本質は全く別物です。

 最近、コンピュータやインターネットなどの「情報機器」が発達したおかげで強く意識されようになったのですが、情報とは「ビット」です。ビットを単位として使ったのはクロード・シャノンがはじめてですが、要するに2進法の一桁=「0と1の組み合わせひとつ」のことです。一般的には「1バイト=8ビット」という関係であり、「1キロバイト=1000バイト」やメガ(バイト)やテラ(バイト)はパソコンなどの性能を現す言葉として一般的です。数が多いほどたくさんの情報を扱うことができるというわけです。
 この情報の分野で驚くべき能力を発揮しているのがコンピュータや通信ネットワークであることはいまさら言うまでもありません。

 それに対してコンピュータが苦手とするのがコミュニケーションです。
 IBMのワトソンはAI=人工知能の最先端としてもてはやされていますが、IBM自身はワトソンを人工知能とは呼んでいません。「エキスパートシステム」と呼んでいます。

 「エキスパートシステム」とは何か?
 人工知能が人間の脳の機能全体と同じように機能するのに対して、エキスパートシステムは人間の脳の役割の一部を模倣します。例えばワトソンは、IBMのディープ・ブルーがチェスの世界チャンピオンを破った後構想され、ジョパティーという米国のクイズ番組のチャンピオンに勝利すべく莫大な費用と長年の研究開発期間によって完成しました。この番組は、過去全米を揺るがしたクイズ番組のスキャンダルなどの経緯から、「解答が出題されて、その解答の問題を答える」という変わった形式です。しかし要するに、「質問に答える」という人間の脳の機能の一部に特化したエキスパートシステムです。

 チェスよりもはるかに複雑な脳機能の役割を代替しているのですが、実際の対戦で大きなハンディキャップになったのが、「ワトソン」はコミニュケーションができないということです。クイズの問題は人間の司会者が読み上げるのですが、ざわついた会場でその問題を聞き分ける能力がワトソンに無かったため、出題と同時にテキストデータで送信されました。したがって、人間の解答者が、司会者の表情、声の調子から多くの情報を得ることができ、しかも人間の対戦者同士も相手の表情などを読み取ることができたことに対するハンディ
キャップがあったわけです。
 もっとも人間の解答者は、ワトソンの「完璧なポーカーフェイス」に翻弄されたかもしれません・・・


続きは「産業新潮」
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
6月号をご参照ください。


(大原浩)


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書評:史上最大の発明 アルゴリズム



書評:史上最大の発明 アルゴリズム 現代社会を造り上げた根本原理
デイヴィッド・バーリンスキ 著、早川文庫
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 物理学における「統一理論」の数式は、「神の方程式」とも呼ばれます。
 実のところ現代科学は、キリスト教というカルト宗教の蹂躙と対決しながら発展したように見えて、実のところ「この世(宇宙)」は、ある一つの理論(数式)によって想像され支配されたという新たなる「科学(物理学)」という一神教を広げてきたのかもしれません。

 アルバート・アインシュタインの「神はサイコロを振らない」という言葉は、まさしく物理学(科学)の一神教的側面を象徴しています。

 しかし、確率論や統計学の発達(学問として確立したのはごく最近のことです)や、「種の起源」に端を発する「生物進化論」などが、その一神教的世界観を覆しつつあります。

 確率論や統計学には神の定めた方程式など存在せず、「偶然」と「時間の経過」が物事を決定します。アインシュタインの言葉に対して量子論の偉大な先人であるニールス・ボーアは「神が何をすべきかに注文を付けるべきではない」と反論しています。確かに気が利いた反論ですが、正しくはリチャード・ドーキンスが「神は妄想である」の中で述べているように「神は存在しない」のです。

 ドーキンスが、生物学や遺伝学の研究の過程で「神は妄想である」という結論に至ったことは大変興味深いですが、アルゴリズムも「神を存在しない」という考え方を後押しします。

 アルゴリズムも、考え方としてはギリシャ・ローマに遡ることはできます。
 というよりも、西洋の学問は、ほとんどすべてギリシャ・ローマ時代に遡ります。ただし、その偉大な文化遺産を受け継いだのはヨーロッパではありません。中世のヨーロッパはカルト宗教に支配された、現在の北朝鮮よりもおぞましい状況であったためギリシャ・ローマの英知はすべて失われてしまいました。

 その英知を正しく受け継いだのはイスラム圏であるアラブ世界です。当時のアラブ社会は、高度に文化が発達し自由にあふれた世界でした。そもそも、現在の科学の基本中の基本である「アラビア数字」は当時高度な文化を誇ったアラブ社会から、未開のヨーロッパに伝わったためそのように呼ばれます(起源はインド)。

 その他にも、アルがついた、アルカリ、アルコールのような科学にかかわる言葉はたくさんありますし「アルゴリズム」もその一つです(12世紀にラテン語に翻訳されたアラビア代数学の創始者の名前が変化したもの)。ちなみに、コーヒーやレモンなどアラビア語起源の言葉は無数にあります。

 しかし、現代のコンピュータ言語へとつながる学問(数学)の一部として確立したのは、1646年生まれで70歳まで生きたゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツあたりでしょう。

 そしてライプニッツが研究した二進法をベースに1912年生まれ(1954年没)のアラン・チューリングが発明したのが「チューリングマシン」、すなわち現代のコンピュータの概念です。

 本書でも述べられているように、相対性理論や数学の公式と違って、アルゴリズムは何も証明しません。何かの原理を解き明かすという存在ではないのです。ですから、進化論、確率、統計学などと同じく、一神教的科学から見れば「異端」なのです。

 しかし、それにもかかわらず、本書のタイトルにもあるように人間社会への影響という点では「史上最大の発明」とも言えます。

 本書の最後の部分で、DNAがたんぱく質を合成する過程は「アルゴリズム」ではないかという指摘がありますが、全くその通りです。

 つまりコンピュータだけではなく、生命もアルゴリズムによって機能しているのです。ただし、だからといって人間の脳がAIで置き換えることができるとか、人間そのものを合成可能といっているわけではありません。

 むしろ逆で、アルゴリズム(単純な手順=計算の繰り返し)というシンプルで意味を持たないものが、恐ろしく複雑な世の中を作り出しているからこそ一種「理解不能である」と主張しています。


(大原浩)


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書評:「ゆらぎ」と「遅れ」 不確実さの数理学



書評:「ゆらぎ」と「遅れ」 不確実さの数理学
大平徹 著、新潮社
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 「神の方程式」と呼ばれる「すべての事象をたった一つの方程式で表す」ことを目指す、相対性理論や量子論などの対岸にある「不確実さの解明を目指す【現実の科学】」のうち、「ゆらぎ」と「遅れ」にスポットをあてて解説した本です。

 「ゆらぎ」と「遅れ」だけではなく、「確率」や「複雑系」などの根本的事象にも触れた、比較的わかりやすい解説書だと思います。

 「ゆらぎ」に関しては、「共鳴」が最も興味深い話です。著者や私が学生のころ、短波放送で世界中のラジオ局の放送を聞き、ラジオ局から「ベリカード」というものをもらうことがはやりましたが、その短波放送のチャンネルのベストポジション(ダイヤル式ですから・・・)を見つけるのが一苦労でした。

 そのチューニングに「ゆらぎ」やそこから派生する「共鳴」が大きく関係しているわけです。ちなみに電波の「ノイズ」もゆらぎです。

 「遅れ」の代表的なものは「フィードバック」です。カラオケのマイクでいわゆるハウリング現象が起こるのは<カラオケのスピーカーから出た音をマイクが拾い、それをまたスピーカーが再生するということを繰り返す>からだということをご存知の方も多いと思います。

 個々のエピソードはなかなか面白く、解説も平易なので入門書としてはよくできていると思います。

 ただ、その割には経済や金融に関する応用の話が出てきますが、よく言われる「Jカーブ効果」は、そのような現象が本当に存在するのか不明ですし、フラッシュ・トレーディングは、昔から行われている「場立」や「ブローカー」の「鞘抜き」を高速コンピュータで行っているにすぎません。

 例えば、場立(ブローカー)が大口顧客から大量の買い注文を受けたとします。場立は、顧客の注文を市場にオープンにする前に、自己勘定で市場から買います。その後大量の買い注文によって市場価格が上がるのは間違いありませんから、場立はその上がった価格で売り抜け確実に儲けるわけです。

 銀行のトレーディング部門も、メーカーや商社から大口の売買注文があると同じ手法で儲けていました。私が現役のディーラーであった時には、珍しくありませんでしたが、現在は場立も存在しませんし、取引もコンピュータ化されていますから廃れているかもしれません。その代り、フラッシュ・トレーディングがはやるのかもしれません。

 最終章は、著者の個人的な雑感ですが、その視点には共鳴するところがあります。人間の脳の機能においても「ゆらぎ」や「遅れ」(こうもりをはじめとする生物のセンサーなどにもこれらは応用されている)は重要ですから、それらが基本的に存在しないコンピュータがいくら進化しても、「意識」を持つことは無いように思います。


●がん検診で陽性と判断されても本当にがんである確率は4%未満である


 本書評でここのところ「確率論」にかかわる書籍をご紹介することが多いのですが、毎日新聞でこれらの書籍によく取り上げられる「教科書的事例」に関する記事が出ていたのでご紹介します。

 1000人のうち10人存在するがん患者のうち8人を見つけることができる(つまり80%のがん患者を見つけることができる)検査というと、いかにも精度が高いと思われがちなのですが、「確率論的」に筋道立てて考えると、それが全く違うということがよくわかります。

 確率論というのは、直感的に非常にわかりにくいのですが、がん検診をはじめとする医療検診の結果の信頼度が低いのは次の理由によります(確率論の本では必ずと言っていいほど取り上げられる事例)。

1)がんの有病率が1%とします
 検診を受けた人のうち、実際にがんである人の割合は1%=10人です。つまりがんではない人は990人です。

2)この検査の「感度」は80%のため、実際にがんである人10人のうち、検査で「がんの疑い」と判定されるのは8人(80%)です。

3)「特異度」も80%のため、がんでない990人のうち、判定が「がんの疑いでない」とされるのは792人(80%)。逆に「がんの疑い」とされるのは198人(20%)です。

4)2)と3)を合わせて216人の陽性判定(がんの疑いがあるとされた人)(=8人+198人)のうち、本当にがんであるのは2)の8人だけですから、8÷216=0.037。

5)つまりがん検診で「あなたはがんの疑いがある」と宣告された人のうち、本当にがんである人は4%未満であり96%以上の人ががんとは無縁であるということです。

 私の友人にも「がんの陽性判定」を受けて衝撃を受けている人が少なからずいますが、この事実を知ればかなり安心でしょう。

 多くの確率論の本を読むと、この事実を確率論的に理解している医師は全体の1割をはるかに下回ります。ほとんど無意味ながん検診が広く行われている理由の一つです。

 ちなみに「感度」を80%以上に上げればよいと考える方もいるかと思いますが、感度を上げればそれだけ「がんではないのに陽性判定される人の比率」が増えいわゆる「疑陽性」の数が増大します。上記の例で言えば、真の陽性比率が4%未満からさらに低下するということです。

 逆に感度を下げれば、「がんであるのに検査で陰性(がんではない)と判定される比率」が高まり、がん検診の意味がますます薄れます。したがって、通常の検査ではできる限り「感度」を高めるようにします。

 つまり、がん検診におけるいわゆる「疑陽性の問題」は少なくとも現在解決不能ということで、「検診のジレンマ」と呼んでもよいかもしれません。

 「確率」は人間が直感的に理解しにくい理論であるため、医療以外でもこのような「誤解」の事例はたくさんあります。特に投資においてはこのよう「誤った直感による確率の解釈」を避けることが成功の一つです(ほとんどの投資家は誤った直感的確率に従って取引を行っている)。

<毎日新聞の記事>
 https://mainichi.jp/articles/20180506/ddm/016/040/002000c


(大原浩)


*2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
 (JKK)を設立しました。HPはこちら https://j-kk.org/


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 ては御自身の責任と判断で願います。)


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書評:歴史の方程式 科学は大事件を予知できるか



書評:歴史の方程式 科学は大事件を予知できるか
マーク・ブキャナン著、早川書房
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 マーク・ブキャナンは、この本の出版後「複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線」という本も書いていますが、こちらのほうがより「本質」に鋭く迫った内容です。

 タイトルでは「歴史」となっていますが、物理的な「時間軸」を人間社会に当てはめると「歴史」になるわけです。

 現在の科学(物理学)の基礎は、アルバート・アインシュタインの相対性理論と量子論の二つの方程式にあります。今のところ、この二つを組み合わせると矛盾が生まれますが、この世は11(または10)次元であるという前提(第一線級の多くの物理学者が受け入れつつある考え)などによってこの問題が解決され、この世の中のすべてをたった一つで表す「神の方程式」の完成が近いとも言われます。

 しかし、本書で触れられているように、相対性理論や量子論においては「時間軸」というものが考慮されていません(念のため、相対性理論において時間と空間は同じものだとされますが、現実の世界を理解するためには「時間軸」が不可欠だと著者は主張し、私もそのように考えます)。

 つまりこの世(広大な宇宙や量子などの極少の世界・・・)の一瞬を切り取り、その一瞬について研究するのが現在の科学の基本です。

 ですから、その理論は1枚の写真のようなもので動きがありません。しかし、本当の世の中は「動画」のように常に動いて止まらないのは明らかです。 スナップ写真1枚だけでは、現実は理解できないというわけです。

 「時間軸」が重要になるのは、「積み重ね」にかかわる事象です。「進化」が典型的な事例ですが、進化は単細胞生物から始まって多細胞生物、腔腸類、脊椎動物・・・などと段階を経ます。「時間軸」が必ず必要であり、「時間軸」の中には必ず「偶然」が現れます。

 進化論が狂信的キリスト教徒から執拗に攻撃されるのは、「時間軸」=「偶然の要素」という考えが、この世は「神の方程式」で成り立っているという一神教(ユダヤ教もイスラムも)の考えに反するからでしょう。

 典型的なのは「アダムとイブが楽園から追放された」という逸話です。この世の中には唯一の「正しい状態」が存在し、その「正しい状態」へ近づかなければならないという思想がその背景にあります。

 現代人はこの思想に強く洗脳されていて「地球温暖化教」や「環境保護教」などをはじめとして、この世の中をあらかじめ決められた「正しい状態」に戻さなければならないという愚かしい考えが蔓延しています。

 しかし、世の中には「時間軸」というものがあるのですから、二つとして同じ瞬間はありません。ですから、この世を写真のようなあらかじめ決められた「一瞬の正しい状態」に固定するなどということはできません。

 いみじくも「赤の女王」(不思議の国のアリスの登場人物)が言ったように、この世の中は懸命に走らなければ止まっていられないのです。

 その前提をわきまえながら、本書では「臨界」というものについて懇切丁寧に解説しています。「臨界」は原子力発電などでよく耳にしますが、ある一定以上の刺激(エネルギー)を加えると、自然に(自ら)核分裂を起こすぎりぎりのポイントです。

 この臨界は、地震(プレート同士のぶつかり合いの圧力が地震になるぎりぎりのポイント)や雪崩(落下する雪・土や振動が雪崩を起こすぎりぎりのポイント)など自然界に多数ありますが、人間の営みにも「臨界」が存在するというのが著者の主張です。

 ある映画が突然ヒットしたり、地味なインタ−ネットサイトのアクセス数が急増したりということは、よく見られますが、これも臨界で説明できます。

 また、世界大戦がごく小さな原因から始まることもこの臨界で理解できます。
 しかし、残念ながらこの臨界は複雑系における「蝶の羽ばたき」と同じで、
 どの羽ばたきが臨界状態を破るのかは予想できません。

 ただ言えるのは、大概の社会現象、特に金融市場で起こる大事件は、臨界状態が一線を越えることによって発生するので、その大事件に理由など無いということです。複雑系の蝶の羽ばたきに例えれば、どこかのサラリーマンが手持ちの株式の半分を売却することが、リーマンショック級の大暴落を起こすきっかけになり得るということです。

 もちろん、市場では膨大な数の売買が行われていますから、どの売買が大事件を起こすのか事前に予想することは事実上不可能ですし、事後でさえそれは大変な作業でしょう。

 例えば、金融市場で研究を重ねれば「今臨界状態であるかどうか」はおおむね推測できるかもしれません。しかしその臨界状態がいつ崩れるのか、あるいはどのくらいの変動になるのかは全く予想できません。

 ピーター・ドラッカーやウォーレン・バフェットが「未来は予想できない」と繰り返し述べるのも当然でしょう。

 しかしバフェットは「いつどのような災難が起こるかを予想することはできないが、いつか災難が降りかかるであろうことはわかる」とも述べ、危機に対する準備を怠らないよう教えます。

 また、ドラッカーは人口動態のように「すでに起こった未来」を注視する重要性を語っています。


(大原浩)


*2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
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