書評:ノーベル賞経済学者の大罪






書評:ノーベル賞経済学者の大罪
ディアドラ・N・マクロスキー 著、ちくま学芸文庫
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 私と財務省OBの有地浩が、「人間経済科学研究所」(https://j-kk.org/)を発足したのは今年(2018年)の4月である。
 「すでに終わった」マルクス経済学はともかく、その他既存の経済学も、やたら数式を振り回して「意味のないこと」を真剣に論じるのはばかげたことであると感じたのがその理由である。

 アダム・スミスが国富論と道徳感情論(二つの本は一体のものとして企画された)で述べているように、<経済とは人間の営み>であり、人間性=徳とは切り離せないものである。


 本書の著者も、間違った前提(意味の無い前提)を基にながながと論証する「ノーベル賞受賞経済学者」の大罪を暴いている。

 著者が述べる「黒板経済学」がなぜこうもはびこるのか?それは、生殺与奪の権利を握った学生たち(単位で支配している)を前にして威張っている方が、実際の経済に触れて泥まみれになるよりも、学者たちによって心地よいからである。

 米国の主要大学の学生を対象にした調査では、「現実の経済の知識を持つことは経済学にとって望ましい」と答えた割合はわずか3%であることが、問題の深刻さを示している。

 <経済学者の予想は当たらない>ことはほぼ正確に予想できるが、著者は「経済学者が借金をして自分の予想にかけて大富豪になったことは無い」と論破している。

 このような経済学者が、国民の血税や企業などの費用を浪費することはまさに大罪である。

 また、「人間は利己的存在である」というアダム・スミスの言葉が世間ではねじ曲がって伝わっている。アダム・スミスは<勇気、節度、実用知(自己利益)、正義、愛>という五つの徳目体系と一体化した場合にのみ自己利益を肯定しているに過ぎない。人間が自己利益だけで生きているなどという考え方は、アダム・スミスの考えとは真っ向から対立する。

 興味深いことは、<実験経済学において、「最も利己的」な行動を行うのは、経済学部の学生グループである>ことである。人間は利己的存在であると教授から洗脳されている学生が利己的行動(入学前は平均的な少年・少女であったはずである)をとるようになるのは恐ろしいことであり、大罪の一つでもある。

 このような現状を見ると「人間経済科学」の研究は急を要すると実感する。

 また、<数学専攻の学部生を経済学部の大学院に入学させるのをやめさせるべきである。歴史学、物理学、生物学の学生を増やすべきである>との著者の主張には大いに共感する。

 経済学に必要なのは、数学では無く生物学、歴史学、物理学などの<観察から結論を導く帰納法>であり、根拠の不明な前提から始まる数学もどきの<演繹繹法>では無い。

 その点、トヨタ生産方式の「現地現物」という手法は大いに示唆に富む。研究室や役員室で机上の空論を述べるだけでなく、工場などの生産現場や販売店に赴き理論の正しさを確認するからこそ、トヨタの判断は間違いが少ないのである。

 経済学者がいままさに行うべきなのは大学版「現地現物」である。


(大原 浩)


★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」(JKK)を設立しました。HPは<https://j-kk.org/>です。

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書評:人口論







書評:人口論
マルサス 著、 光文社古典文庫
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■現代の経済は食糧(農業)に制約されるのか?

 トマス・ロバート・マルサスによって1798年に匿名の小冊子で発刊された本書が、人口の増減と世の中の繁栄(人々の幸福度)の相関関係に関して述べた本であることは間違いが無い。

 しかし、本書において彼が親しかったデヴィット・ヒュームや、先人のアダム・スミス(ヒュームと親しかった)にしばしば(特にアダム・スミスに)言及しているように、底流に流れるのは「人間の営みと経済」に関する考察である。

 人口が等比数的に増えるのに対して、人間に必要な生活物資(主に食糧)は等差級数的にしか増えないから、あるがままに人口が増えれば、増加した人口に対して必要物資がいきわたらなくなり、人口が抑制され均衡状態にまで減少する。これが永遠に繰り返されるというのが、マルサスの主張である。

 資源や食料によって人口が限定されるという考え方は、歴史的には間違っていないだろう。

 例えば、衛生管理が行き届き、死亡率が(当時の諸外国に比べて)低く大きな人口を抱えていた江戸時代の人々の生活が物質的には非常に貧しく、逆に恐ろしいほど不衛生でペストなどによる人口の激減を経験した欧州の人々が物質的に比較的豊かであったのは事実である。

 ただ、マルサスの時代には考えも及ばなかったことだが、戦後の「緑の革命」も含めて、現代において単位耕作面積あたり、あるいは単位労働あたりの生産性が飛躍的に向上した。

 彼の時代には、英国などの先進国でも人口の大部分は農民であったが、今や米国や日本の農民人口は数パーセントである。そのわずかな人口で人々の食料を賄っている(米国は余った農産物を大量に海外に輸出している)

 アダム・スミスも「ジャガイモ」の効能を国富論で延々と述べているし、彼の同時代のフランスの学者たちも「重農主義」であり、この時代において食糧生産や農業は経済の中心的課題であった。

 だから、マルサスが農業や食料に執着し、アダム・スミスが重視する交易などは結局「諸国民の富」を増やすことにはならないと述べているのも不思議では無い。

 ただし、現代の先進国の経済を語るときにマルサスの人口論の主張は当てはまらない。もっとも、氷河期が突然やってきて農業生産が壊滅状態になれば別だが・・・・


■「人口論」は生まれつつあった<邪悪なお花畑理論>=共産主義に対する警鐘である

 本書でしばしば登場するゴドウィン氏とは、無政府主義の先駆者とされるウィリアム・ゴドウィンである。彼の妻は女権論者のメアリ・ウルストンクラフトである。そして、2人の間に生まれた娘は、あの有名な小説『フランケンシュタイン』の作者で詩人シェリーの妻であるメアリ・ウルストンクラフト・ゴドウィン(メアリ・シェリー)である。

 本書で指摘されている内容を読む限り、ゴドウィン氏の主張は<邪悪なお花畑理論>の先駆、つまり現在の共産主義的な考えの持ち主であったようである。

 それに対してマルサスは、いくら「お花畑ファンタジー」を語っても、「人類を存続させる(人口増加に伴う)食糧問題さえ解決できなければどうしようもない」という冷徹な現実を突きつけたわけである。

 したがって<邪悪なお花畑>理論の共産主義者が本書を忌み嫌い、後のカール・マルクスも本書に対して批判的な評論を書いているのも当然である。


■人間は満ち足りていないからこそ頑張る

 本書が共産主義者に嫌われるのには、別の理由もある。

 人類には人口と食料の関係のような難問(少なくとも当時は・・・)が山積しているが、その「難問があるからこそ人類は発展してきた」という主張をマルサスが行っているからである。

 例えば、自然が豊かで食べるのに困らなければ、心地よい午後の昼寝をあきらめて働こうと思うだろうか?逆説的だが、飢えや寒さを克服しようと努力しなければ、人類はチンパンジーとさほど変わらない文明しか築けなかっただろう。

 マイケル・ポーターも「経済の発展は<基礎的条件>にあまり左右されない」と述べている。例えば広い国土、産油国、若い人口が多いということは基礎的条件に恵まれているということだが、それらの国々のどれほどが先進国入りをしただろうか?

 英国は北海油田が見つかったが、産油国とは言えないだろう。日本、ドイツ、さらにはシンガポール、台湾など基礎的条件に恵まれない国々の方が、はるかに発展している。むしろ基礎的条件に恵まれた産油国で先進国入りをしたのは米国だけと言ってよい。

 「欠乏を埋めるために懸命に働くことが<諸国民の富>を増やす」という現実は、共産主義者にはまったく都合が悪い。彼ら武装したキリギリスは、勤勉なアリから暴力で資産を奪い贅沢をしている。

 しかし、共産党に搾取されるアリたる国民もいつまでも勤勉であり続けるわけでは無い。国民たちもいずれはキリギリス化する。自分や家族の「欠乏」を埋めるために一生懸命に働いても、その成果を共産党にピンハネされるのではやっていられないからだ。

 「結果の平等」をうたいながら、国民の財産を共産党がネコババする「結果の不平等」を推進する共産主義に対して、「機会の平等」が「結果の不平等」(つまり努力と実力の結果)を生み出すことを前提に、本書は人口・経済・人間について論じている。


(大原 浩)


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孫子と三賢人のビジネス その3



産業新潮
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
12月号連載記事


■その3 戦わずして勝つべし

◆何もしないおじさん

 私の友人で、メディア業界で長年働いた後、現在は自身の事業を行いながら大学の講義で教えている人物がいます。彼は毎年の授業で必ず学生たちにこのように言うそうです。
「君たち、社会人になったら会社というところには、何もしないおじさんがたくさんいるんだよ!」。
すると、学生たちは
「へぇ・・本当ですか?働かないおじさんがたくさんいたら、会社が成り立たないと思うのですが・・・」
と怪訝そうな顔をします。
 ところが、彼らが卒業して2〜3年後に彼のところへ遊びに来ると
「先生のおっしゃったことは本当でした」
と口をそろえて言うそうです。

 このような会話はあちこちで交わされていると思いますが、この「学生」や「先生」の考え方は根本的に間違っています。

 まず、江戸時代や明治時代ならともかく、現代の先進国の仕事はドラッカーが述べるように「知識労働」がメインですから、「分析」・「思考」・「発案」が重要です。まだぺいぺいで、得意先回りや雑務を担当して汗を流している若者たちから見れば、上司たちはデスクにかじりついているだけで何もしていないように見えるのは仕方がないかもしれません。しかし、彼らには、(現代の)ビジネスの本質がわかっていないのです。

 もっとも、年功序列システムが維持されている会社では、「分析」・「思考」・「発案」の評価がほとんどおこなわれませんから、モチベーションを失った本当の「何もしないおじさん」が大量発生しているかもしれませんが・・・


◆経営者・幹部は片目を開けて寝ていればよい

 最近はあまり聞きませんが、かつては日本型経営の特質の一つとして「おみこし型経営」が良く取り上げられていました。要するに、若いときにはおみこしを担いで汗を流し、歳をとって上司になれば、逆に担がれて楽ができるというわけです。このシステムは、年功序列と結びつけられたため、ポスト不足によりピラミッド型の社員構成が維持できなくなるとともに廃れました。

 しかし、このおみこし型経営は「実力主義」の「知識労働」においても十分機能するのです。ドラッカーは「知識労働者は、マネジメント(上司)よりも、その専門分野においてより多くの知識を持っているから雇われるのである。だから、その点においてマネジメントが口をはさむことができない」といいます。つまり、専門家集団である部下をマネジメントするには、具体的な仕事の指示を行うのではなく、彼らにおみこしを担いでもらうしか方法が無いということです。

 最近は、株主からのプレッシャーがきつくなり、経営者も「私はこんなにたくさんの仕事をしました」とアピールすることに汲々としていますが、本来マネジメントが優れていれば、経営者の仕事など微々たるものです。マネジメントに問題があるからこそ、社長や役員が駆けずり回って問題解決を図らなければならないのです。

 素晴らしい経営を行っている企業は、マスコミに取り上げられることなど滅多にありません。「事件」や「スキャンダル」とは無縁だからです。逆に、マスコミからその手腕を賞賛される「危機を救った経営者」は、前任者たちが危機を起こしたからこそ(場合によっては本人)、誕生するわけですから、企業にとっては恥ずべきことです。

(続く)


(大原 浩)


続きは「産業新潮」
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
12月号をご参照ください。


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書評:EU崩壊 秩序ある脱=世界化への道




書評:EU崩壊 秩序ある脱=世界化への道
ジャック・サピール 著、 藤原書店
https://amzn.to/2PBJDfE


 タイトルは「EU崩壊」だが、内容的にはサブ・タイトルの「秩序ある脱=世界化への道」がメインである。

 EUも、グローバリズム(世界化)から欧州を守る存在では無く、むしろグローバリズムを推進する組織であり、それゆえにEUは崩壊への道を歩んでいるというのが論旨である。


■グローバリズムは共産主義国家を救済した

 もちろん、本書でも述べられているように、古代エジプトあるいは縄文時代にはすでに「世界交易」が行われていた証拠は無数にある。江戸時代鎖国をしていた日本でさえ、長崎の出島でオランダ・ポルトガル・中国との交易は制限付きながら行っていた。

 しかし、現在我々が「グローバリズム」と呼んでいる国家の枠を超えた広範囲にわたる大量の交易が普遍的になったのは、1980年代以降であろう。

 1989年のベルリンの壁崩壊、1991年のソ連邦の消滅、さらには小平が指揮した改革・開放政策は1978年にスタートしたが、1989年の天安門大虐殺を経て1992年に南巡講話が行われてから本格化した。

 グローバリズムの利益を享受したのは、それまで西側先進国と隔離されて貧しさに悩まされていた、ロシアや中国などの共産主義国家である。

 武装したキリギリスの集団が支配する、つまりアリが額に汗して蓄えた財産を暴力で奪うことが合法化された、共産主義圏ではだれもアリにはなりたくない。だから、武装するのは共産党員に限られるが、一般国民もキリギリス化して生産力は落ち、国家が成り立たなくなる。

 実は自給自足が成り立たず崩壊しようとしていた共産主義を救ったのがグローバリズムなのだ。特に共産主義中国は、2001年に143番目のWTO加盟国になってから我が世の春を謳歌した。WTOの機能不全は以前から問題視されているが、共産主義中国は、その制度の不備をつき、自由貿易の利益を享受しながらも、国内の規制を温存し、外資系企業に対して公式・非公式に様々な圧力を加えてその活動を妨害した(事実、現在の共産主義中国の輸出依存度は約25%(米国は一ケタ)であり、輸出無しでは国が成り立たない)。

 その被害を受けたのは、日本企業だけでは無く米国を含む世界中の企業である。しかし、グローバル企業といえども、巨大な共産主義中国政府に真っ向から刃向かうことはできず泣き寝入りしていただけなのだ。

 その世界中の「声なき声」を代表して、中国と闘う姿勢を明示したのがトランプ大統領のアメリカである。


■民主主義の基本は「国民国家」である

 トランプ大統領が掲げる「自国第一主義」に対する非難をよく聞くが、「自国第一主義」は民主主義の原則に従った行為なのである。

 民主主義の基本は主権者と被支配者(国民)が一致することである。したがって、国民の代表が統治するのが民主主義だが、この国民の中には外国人はもちろんグローバル企業も含まれていない。一部で「外国人参政権」などという奇妙な運動が行われているが、これはもちろん、反民主主義的行為である。

 「国家は国民のものである」という民主主義の大原則に立ち戻っているのがトランプ大統領の「自国第一主義」である。

 この流れで言えば、受け入れを拒否しているのに押し寄せる人々を「移民」と呼ぶことはできない。

 例えば、独立後間もない時期の米国や一時期の欧州などのように「どうぞ来てください」と宣言すれば、移民と呼ぶことができるが、国境に壁を作ったり軍隊を配備して流入を阻止しようとする国に不法に侵入する人々が犯罪者であることは言うまでもない。ましてや、数千人単位でグループを作れば「侵略者」とでも呼ぶしかないことは、トランプ氏の言葉を待つまでもない。

 個人レベルで言えば、パーテーィーに招待されて家を訪問するのは合法だが、呼ばれてもいないのに、家のドアをこじ開けて入るのは「強盗」であり撃ち殺されても仕方が無いということである。


■賃金が上がらないのはグローバル化の影響である

 例えば、人手不足だと騒いでいるのに、日本の若者(労働者)の賃金はさほど上がらない。グローバル化によって広がった市場において、多くの発展途上国(後進国)が「人間の安売り」=低賃金労働力の供給を行っているからである。

 この「低コスト」の恩恵を受けているのは、もちろんグローバル企業である。彼らはどこの国に人間であれ、コストが安いほうが都合がよいのである。「高い賃金を払ってみんなで幸せになろうね!」などという古き良き日本(古き良き米国も・・・)の哲学は全く通用しない。

 安倍政権の「移民政策」が色々議論されているが、介護、建設、飲食などの人材が不足しているのは給料が安いからである。だから給料をあげれば(例えば倍にするとか極端なことをすれば・・・)、人手不足などすぐに解消する。

 そもそも、外国人がそのように日本人が敬遠する仕事を自ら進んで行うのは、本国の貨幣価値に換算すれば高給であるからに過ぎない。彼らも、(本国換算で)給料が安ければそのような仕事に見向きもしない。

 長期的には、移民(外国人労働者)政策よりも少子化対策に国民の血税を使うべきだし、より短期的には、そのような業種の企業の経営者が業務の生産性をあげる努力をすべきである。

 最近、居酒屋などの飲食店でタブレットによる注文が標準となりつつあるが、介護、建設、飲食などの業種ではこのような生産性向上のタネがいくらでもある。これまでカイゼンされなかったのは、低賃金労働者が十分供給されてきたからである。

 したがって、このような業種の経営者は甘えを捨てて、移民(外国人労働者)などをあてにせず、生産性の向上による従業員給与の引き上げに努力すべきである。

 実際、日本の高度成長期には、中学卒業生が「金の卵」と呼ばれるほどの人手不足が生じたが、(基本的に)移民や外国人労働者を受け入れていなかった日本は、「自動化」「機械化」で乗り切った。逆にそのことが、日本の機械産業やロボット産業を刺激し「高度成長」を牽引した。

 逆に欧州では安くて豊富な(少なくとも当時はそう見えた)移民(外国人労働者)を潤沢に使えたため、機械産業やロボット産業で日本の後塵を拝し、しかも「移民問題」という、現在の欧州における最大級の問題の原因を作ってしまった。
 日本政府は、このような歴史に学ぶべきである。


■EU崩壊

 本書でEUに関する問題に割くページは、題名の割には少なく、私の意見と近い部分も多いので、下記現代ビジネスのコラムを参照いただきたい。

★「ブレグジッドは大正解 英国よ沈みゆくEUからいち早く脱出せよ!」
 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57876


(大原浩)


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書評:選択の自由 自立社会への挑戦その2






書評:選択の自由 自立社会への挑戦
M&R・フリードマン 著、 日本経済新聞出版社
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■学問(学習)の自由と特殊利益団体

 アダム・スミスは国富論の中で、「ギリシャ・ローマ時代には、優秀な(家庭)教師を自由に選んで雇うことができた。ところが、現代の大学では<卒業証書>を人質にした教授たちは、生徒と(授業料を支払う)親を思いのまま支配している」と嘆いています。そして250年ほど経過した現在でもその状況は変わらないどころかむしろ悪化しています。

 教育も医療や年金などと同様に独占の被害が大きい分野です。国家が教育にかかわるようになったおかげで「競争原理」が働かず、生徒や親の選択の自由が侵されているのが最大の原因です。これに対してフリードマンは、「教育クーポン制度」を提案し、過去米国のいくつかの地域で実験も行われ成功しています(ただし、教職員組合のような特殊利益団体の圧力でつぶされています・・・)。

 教育クーポン制度では、政府から発行されたクーポン金額の範囲内(足りなければ自分自身で加算することができるのが原則)で、公立・私立を問わず一定以上の水準の授業を行っている学校であればどこにでも自由に通学できますし、転校にも制限がありません。

 学校が自由市場で評価され格付けされるだけではなく、その学校に所属する教師たちの能力も厳しく評価されるわけです。


■負の所得税

 最近「ベーシックインカム」の議論が盛んになってきていますが、その背景にあるのは「世界中の先進国が肥大化する社会保障に悲鳴を上げ、負担できなくなりつつある」ということです。

 財政支出の歯止めがきかないのも民主主義の特徴です。もちろん、すでに述べた様に特殊利益団体の強欲さに歯止めがきかず、補助金・補てんなどが際限なく増えていくのが大きな原因の一つです。しかし、より本質的な原因は民主主義そのものの中に内在します。

 例えば「子供議会」で次の提案をするとします。
「三時のおやつのショートケーキのイチゴを2個から3個に増やすのに賛成な人?」もちろん満場一致で可決されるでしょう。少しだけ高くなるおやつ代を払うのは、親たちですから子供たちの懐は痛まないというわけです。フリードマンは、このように「誰のお金」を「誰のために」使うのかについて、次の4つに分類しています。

 1)自分のお金を自分のために使う。
   いわゆるポケットマネー。これまでの経済学の<合理的経済人>はこの部分だけにスポットを当てて、人間の経済行動は合理的であるとする。
   たしかに、他の三つのケースに比べて合理的判断が行われやすいが、この活動は全体の一部であるし、完全に合理的でもない。

 2)自分のお金を他人のために使う。
   子供や親だけではなく、赤の他人のためにも人間は理念に基づいた慈善活動などを通じてこのような行動をする。

 3)他人のお金を自分のために使う
   前述の子供議会だけではなく、国から何らかの補助金などを獲得する行為も他人のお金(国民の税金)を自分のために使う行為といえる。会社の経費で飲み食い(接待)する場合も、自分の飲食代についてはこれが当てはまる。

 4)他人のお金を他人のために使う
   財団の管理者が慈善事業を行う場合や、弁護士や信託銀行が「信託」を受ける場合、さらには金融商品の「投資信託(ファンド)」もこの例である。この場合、「他人のお金を他人のために使う」管理者が自分の得になるよう行動するという点がフリーマンが指摘する重要点である。
   例えば弁護士が信託された財産を使い込むという事例はよく聞くし、投資信託は投資家が儲からなくても運営会社は着実に儲かる商品である(その具体的手法についてはここでは述べない)。

 国の財政支出というのは、実は3)と4)が合わさったものであり、特殊利益団体の欲望には限りが無く、官僚・役人が税金を自分の有利になるように使おうとすることも止められないのです。

 結局、複雑怪奇に絡まった財政支出を解きほぐし、整理したうえで減らすなどというアクロバットはだれにもできないということです。

 したがって、解きほぐせなくなった糸をすべてご破算にし、新たにまっすぐなベーシックインカムという一本の糸を垂らすほうがはるかに合理的だということです。

 さらに、フリードマンは一歩踏み込んで負の所得税というものを提案しています。簡単に説明すれば、次のとおりです。

 1)世帯の最低限の生活に必要な金額を例えば生活保護水準の月額約16万円・年額200万円とします。

 2)負の所得税の税率を50%とします。

 3)もし該当世帯の収入が100万円であれば負の税率50%×(基準値200万円−実際の所得100万円)=50万円が支給されます。

 4)もし基準金額の200万を上回れば、通常の所得税を払います。

 5)この負の所得税以外のあらゆる補助金・支援、強制加入の年金・健康保険もすべて廃止します。

 少なくとも理論的には素晴らしい案ですが、実際に導入するとなると特殊利権組織や、既得権益で潤っている人々が暴動を起こすかもしれません・・・。

 しかしながら、このシステムであれば、100万円の所得の世帯が頑張ってもう百万円稼げば、負の所得税50万円を上回るわけですから「補助金をもらって勤労意欲が衰える」ということはかなり少なくなります。

 経済発展の究極的な原動力は「国民の勤労意欲」であるわけですから、この負の所得税は多くの困難が予想されるにせよ、導入を目指すべきであると考えます。


■輪転機で紙幣を擦り続ければインフレになるか?

 よく言われるのが「1万円札の製造コストはせいぜい20円ほどである」ということです。20円以下の原価の商品を500倍の1万円で販売するのですから、日本銀行をはじめとする中央銀行は笑いが止まりません。さらに最近数多く登場した仮想通貨(電子マネー)は、100億円であろうが、1000億円であろうが電気代だけで維持できるシステムですからさらに利幅の厚い商売です。

 このような摩訶不思議な「貨幣の本質」について論じるには字数が足りないので、拙著「銀行の終焉」(あいであ・らいふ)などを参照いただくとして、誤解を恐れずに単純化すれば「紙幣(仮想通貨)」は「狸に化かされた人が見ている木の葉」です。紙切れにも電子信号にも本質的な価値はまったくありません。通貨として流通しなければ、福沢諭吉の肖像が描かれたちっぽけな紙切れと、1万円分の金を交換する人はいませんし、コンピュータ上の電気信号についても同じです。

 フリードマンは、政府(中央銀行)の通貨供給量の増減によって、金融市場(経済)をある程度コントロールできると考えています。確かに、通貨供給とインフレとの関係はあるように見えますし、これまでの金融政策においても通貨供給量のコントロールは極めて重要なものとされてきました。しかし、フリードマンが両者の相関関係の典型例として取り上げる1973年からの物価上昇においても、顕著な通貨供給量の上昇は1971年から始まっており、2年ほど遅行しています。しかもそれ以前の通貨供給量も決して少なくは無く、しかも1973年の第1次オイルショックの影響も考えなければなりません。

 また、日銀が2014年4月に始めた巨額に上る国債買い入れを主軸とする金融緩和政策もすでに5年目に突入しますし、それ以前の金融緩和を考えれば延々と資金を供給しているわけですが、一向に物価が上がる気配がありません。

 もちろん、歴史上まれな15年に及ぶデフレやマイナス金利への突入など特殊要因はたくさんありますが、そのような特殊要因に左右されること自体<資金供給とインフレの関係の公式>が存在しない証明となるのではないでしょうか?

 冒頭で申し上げた様に、通貨は葉っぱであり「人間の心の反映」です。いくら葉っぱ(通貨)を供給しても、人々がインフレが起こると考えて「買い急ぎ」という行動を起こさない限り、インフレは起こらないのではないでしょうか?現在の日本は、1990年頃のバブル崩壊以来、デフレマインドが沁みついているので、容易なことではインフレマインドに転換しないため、いくら資金供給を行ってもインフレが簡単には起こらないと考えます。


■供給した資金はどこに消えたのか?

 そこで疑問が生じるのは「有り余るほど供給した資金はどこに消えたのか?」ということです。

 フリードマンは、(国民)生産と通貨供給の関係を重視します。つまり、経済成長に見合った資金を供給すれば、世の中はうまく回るということです。多すぎても少なすぎてもいけません。この理論は非常に説得力がありますが、一つ見落とされていることがあります。それは、供給された資金は実体経済に投入されるだけではなく、金融商品にも投入されるということです。

 金融商品の中でも、実物株式や不動産などの実物に連動している商品は、資金の受け入れに限度があります。ところが仮想通貨や派生商品などの実態のない投資商品の場合はブラック・ホールのように資金を吸い込みます。日本銀行がいくら資金を供給してもインフレにならないのは、この点が大きな理由ではないでしょうか?

 仮想通貨や派生商品の実態というのはつかみにくいのですが、一度しっかり考察する価値はあるのではないかと思います。


(大原浩)


★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」(JKK)を設立しました。HPは<https://j-kk.org/>です。

★夕刊フジにて「バフェットの次を行く投資術」が連載されています。(毎週木曜日連載)


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書評:選択の自由 自立社会への挑戦その1






書評:選択の自由 自立社会への挑戦その1
M&R・フリードマン 著、 日本経済新聞出版社
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■なぜ国営なのか?

 共産主義ファシズムが横行するチャイナや朝鮮半島の国々をはじめとする発展途上国(後進国)などは論外として、米国や日本などの先進国(資本主義・民主主義)において、「国民の自由は保障されている」と多くの人々が信じています。

 しかし「本当に国民の自由が保障されているのですか?」ということが、本書の投げかける重要なテーマです。

 例えば年金・医療。ほとんどの先進国で、年金・医療は国家が担当するものと相場が決まっていますが、本当に「国営」でなければいけないのでしょうか?年金も医療保険も民間企業が多くの商品を発売しており、その中には少なくとも「国営」よりはるかにましなものがたくさんあります。

 それなのになぜ、年金や医療保険が国営(強制加入)なのでしょうか?かつての、郵便局対ヤマト(宅急便)の競争でも明らかなように、国民に安くてより良いサービスを提供できるのは、自由競争の中で淘汰されて生き残った民間企業です。逆に旧社会保険庁のような信じられないほど非効率で腐敗した組織は、その問題のすべてを国民の税金(および保険料)によって負担し、しかも日本年金機構と全国健康保険協会(協会けんぽ)という二つの祖息に分かれ「焼け太り」となりました。

 つまり、国営(官僚組織)である限り、どのような失敗をしても、組織自体が民間企業のように「倒産」することなく、すべての失敗の責任は国民(主に税負担)に押し付けられます。逆に、問題が生じると自分たちの無能さはそっちのけで、ほとんど関係が無いような原因を探し出してきて「この問題の原因を解決するためにはもっと人員を増強しないといけない」という主著を行い「焼け太り」します。これが「国営」の標準的な姿です。

 わかりやすいのが、今でも毎年3月末になるとよく見かける道路工事をはじめとする公共事業です。民間企業であれば「できる限り少ないコストで、できる限り充実したサービスを提供する」ように努力するのは当然のことです。そうしなければ、民間企業は繁栄しません。ところが「国営」では「一度獲得した予算は、どのようにくだらないことに対してでも使い切った方が良い」というのがルールです。事業を効率良く運営してコストを下げ余剰金でも出そうものなら大変なことになります。翌年から予算をその分減らされ人員もたぶんカ
ットされるでしょう。彼らにとって「効率的な事業運営は悪夢」にしか過ぎないのです。

 国営企業(ビジネス)が非効率なのは、官僚(役人あるいは公務員)個々人の能力の問題では無く、「成果をあげると評価されるどころか、むしろ非難される」組織のシステムそのものに大いなる問題があるのです。


■我々は本当に自由なのか?

 強制加入の国営ビジネスが、我々国民の選択の自由を奪うだけではなく非効率・腐敗の責任を税負担という形で我々に押し付けるのは明らかです。しかし、我々の自由を奪う国家の政策はそれだけではありません。

 フリードマンが指摘するのは「免許制度」です。医師・弁護士・(公共教育の)教師に国家の(公的な)免許が必要なことは誰もが当たり前と思っていますが、これもまったく理由がありません。

 まず、免許制度は国民に与えられた職業選択の自由を奪うわけですから、慎重に考えなければなりません。また、ユーザーである国民の側からしても国営の免許制度は極めて不便です。例えば医師免許。免許を与える基準が本当に正しいのかどうかは、国営以外に比較の対象が無いのでわかりません。少なくとも、何十年も前に免許を取得した医師の技量や知識が現在どのようなものであるのかはまったくわかりませんし、外科医の手先が器用であるのかどうかもまったくわかりません。さらには、救急隊員や看護師がただ単純に医師免許を持たないがために、必要な治療を行えなかったことによってどれほどの尊い命が奪われたのかわかりません・・・

 それに対して、民間企業が金融における格付け会社のように医師の技量を認定したり、格づけすれば、様相は一変します。命にかかわる医療だから、やはり国の免許が・・・という人には、国営の免許制度を残してもかまいません。郵便事業のように、国営の事業を実質的に残しつつ、民間の参入を促せばよいのです。国営事業と民間事業と、どちらが患者の役に立つ医師の技量の評価(ライセンス付与)や格付けを行うことができるのかは火を見るよりも明らかです。


■特殊利益団体と民主主義

 「民主主義は国民の総意を反映する」という話があります。確かに理念あるいはある一面だけを見ればこの意見は正しいでしょう。しかし、米国や日本をはじめとする民主主義国家の運営の実態について述べるとしたら、これはまったく間違った意見です。

 民主主義の運営の実態から言えば、「少数派の特殊利益団体が多数集まって国の政治を動かしている」のです。

 この「特殊利益団体」は、アダム・スミスが国富論の中で「商工業者」と述べているものと基本的に同じです。ビジネスの世界でいう「業界団体」というものに相当します。

 特殊利益団体は、自らの少数の仲間の利益を図るために、大多数の国民の利益を侵害する点に特徴があります。わかりやすいのが「コメ問題」でしょう。

 昔に比べればはるかにましになりましたが、日本国民は国際価格に比べて異常に高い値段のコメを売りつけられ、そのコメを買う以外の選択はありません(パンを買う場合も異常に高い小麦を使ったパンを買うしかありません)。

 望んでこのような高い商品を買う消費者はいないはずですが、国民の声によってこの制度の改革が行われることはありません。なぜなら、国民が1年間に使う米代はそれほど大きくなく、それぞれの消費者が怒りを募らせて「一般利益」団体を設立しないからです。それどころか、「特殊利益団体」を設立するほどの人数さえ集まらないでしょう。

 それに対して、国民の数%以下の農民がこの異常に高いコメ価格から受ける恩恵ははかりしれませんし、農業補助金などすべて合わせれば、農家一戸当たり数百万円から数千万円程度の利益は出るのではないでしょうか?

 それだけ儲かるのなら特殊利益団体の活動にも熱が入り、資金力にものを言わせて政治家を思いのまま自由に操り、大多数の国民に害を与える政策を延々と続けさせるのです。

 もちろん、国会の審議は最終的に多数決によって決まりますから、あまり露骨な自己利益を主張できません。そのため「食糧自給」など色々な屁理屈を広めるわけです。ちなみに、農産物を自給しても、肥料や農産物を運ぶ流通のための原油輸入がストップすれば国民が食糧を手に入れるのが困難になりますし、有事に農家が国民に「適正価格」で農産物を売ってくれるという保証もありません。

 結局、民主主義の運営においては、数限りない特殊利益団体が強い力を持ち、国民全体の利益は尊重されにくいし、「選択の自由」は常に危険にさらされているのです。


(大原浩)


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孫子と三賢人のビジネスその2



産業新潮 
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
11月号連載記事


■その2 戦争は短期決戦を良しとする


●「戦わずして勝つ」のが最善


 実は「戦争は短期決戦を良しとする」という言葉は、孫子のあまりにも有名な言葉「戦わずして勝つ」と対を為しています。とにかく戦争というものは犠牲が多いものです。ビジネスでも「◎◎戦争」と企業間の争いを表現することがありますが、そこまで激しい戦いですと、それぞれの企業の消耗度合いもかなりのものになります。ですから、軍事においてもビジネスにおいても、「戦争は回避すべき必要悪」ですから、起こさないのが最も賢い戦略です。

 しかし、軍事でもビジネスでも戦争を避けることができない場合もあります。
 例えば、相手が攻撃を仕掛けてきたときです。世の中には「敵が攻撃してきたら、自分たちは無抵抗で殺されれば平和が保たれる」などと、馬鹿げたことを言う人間が(特に日本に)いますが、そのような人々は、率先して世界に無数にある戦場に行っていただき、平和のために死んでいただきましょう・・・

 もちろん、軽微な攻撃ならばやり過ごして「戦わずして勝つ」ことも不可能ではありません。しかし、大概の場合は反撃をしなければ自らを守ることができません。しかし、そのようにやむにやまれぬ理由で戦争を起こす場合でも、犠牲を最小減にするために短期決戦を心掛けなければなりません。戦争が長引けば長引くほど、国家や企業の犠牲が必然的に増えるからです。
 国王(将軍)や株主(経営者)は、国家や企業が繁栄するため行動すべきですから、無駄な犠牲を払ってはならないのです。


●日雇い投資と長期投資(バフェット流)


 世の中のほとんどの投資家は日雇い投資家(デイトレーダー)です。日雇い労働者は、朝トラックの荷台に飛び乗って、工事現場で汗を流せば夕方帰るときにわずかばかりの日当をもらえます(日雇い投資家はそれさえもらえるかどうか定かではありませんが・・・)。
 このようなやり方は「短期」と呼ばれますが、実は孫子が指摘する「ずるずると長引く消耗戦」なのです。なぜなら、このような日雇い方式では、一度に稼ぐことができないため、毎日働かなければなりませんし、雨の日など仕事が無い時には、ごくわずかの蓄えさえ食いつぶさなければならないからです。

 それに対して、バフェットは長期投資家として有名です。一度購入した企業の株式はなかなか売却しませんが、例えば、一つの企業の株式を20年間保有したとしましょう。売買(戦争)を行うのは、最初の1回と最後の1回の合計2回だけです。ところが、日雇い投資家は毎日売買(戦争)を行うわけですから、行わなければならない戦いの数は数え切れません。これこそが孫子が指摘する「するずると長引く消耗戦」なのです。

 バフェットは「ただ1度の熟慮した決断がうまくいかないのであれば、それよりも集中力が劣った多数の判断がうまくいくはずが無い」と述べています。
 孫子もバフェットも、「絶対に負けない(損をしない)ようにすること」を信条にしています。戦いには絶対に負けられないのですから、一つに集中し、あれもこれもと散漫な戦いをすべきではありません。


続きは「産業新潮」
http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
11月号をご参照ください。


(大原浩)


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書評:とことんやさしい エネルギーの本



書評:とことんやさしい エネルギーの本 第2版
   山崎 耕造 著、 日刊工業新聞社
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 第2章の<考えよう地球環境>で、「地球温暖化教」をはじめとする怪しげな環境問題について論じられている以外は、よくまとまっていると思います。

 <そもそもエネルギーとは何ぞや>という話からスタート。物質はエネルギーの一形態であることは、よく知られるようになってきましたが、エントロピー増大の法則にも触れながら簡略に解説しています。

 確かに地球のエネルギー資源の大半は太陽の核融合エネルギーが変化したものですから、このように根本から説明する体裁はとても良いと思います。太陽光発電のような直接的利用だけではなく、光合成を行った植物の遺産である石炭やその植物のエネルギーを活用する動物の死体が変化した石油(非生物起源説と生物起源説があるが、本書は後者の立場)など、地球上のエネルギー資源の大部分は太陽光の恩恵を受けています。潮流や風も、太陽光で地球が温められることにより生じる現象です・

 第5章で核エネルギーに関しても詳しく述べられていますが、政治的な偏見から語られることが多い内容を、客観的にコンパクトにまとめています。

 ちなみに、東日本大震災以前、日本の電力のほぼ三分の一が原子力によるものでした。
 米国の原子力依存度は20%弱ですが、日本の総発電量にほぼ匹敵します。
 フランスでは電力の80%が原子力です。

 エネルギー利用効率については、1次エネルギーを100%とした場合次のようになります。

1)電気自動車
  発電(火力発電の効率はおおよそ40%〜50%)の場合は送電ロスなど
  も考えると、約38%。電気自動車そのものの動力効率は70%ですから、
  最終的なエネルギー効率は約27%になります。

2)ガソリン自動車
  原油からガソリンへの変換効率は84%。ガソリン車の動力効率は18%
  ですから、最終的な効率は約15%になります。

 ハイブリッド車の変換効率がどの程度なのかは非常に興味深いところですが、本書では触れていません。

 現在電気自動車を<満タン=フル充電>にするには、家庭用の電源で24時間かかることを考えれば、電気自動車が普及すれば現在と比べてかなり多くの電気を消費するようになることは容易に想像できます。各家庭が乗用車を充電するだけでなく、物流トラックなどの業務用車両も充電の必要があるのです。

 最後は、月資源利用や太陽光帆船(ソーラーセイル)などのSF的話題にも触れられていて楽しめます。


(大原浩)


★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
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書評:大国の興亡<下巻>



書評:大国の興亡<下巻>
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■平和主義がナチスの台頭を招いた

 第一次世界大戦以降、本書が執筆された1980年代後半までの「大国の興亡」が詳細に述べられている。

 日本は第一次世界大戦の戦勝国であり、自国が戦場になることは無かったので、その悲惨さについてはあまり語られることが無い。

 しかし、4年半の総力戦による戦死者は800万人。回復不能な障害を負った者が700万人。重軽傷を負った者が1500万人。また、ロシアを除いた全欧州で、500万人が、戦争がもたらした病気や飢饉や物資の不足で死んでいる。ロシアでは内乱による多数の死者を合わせると、それ以上の人間が死んでいる。さらに、1918年〜19年にかけて流行したインフルエンザは戦争で疲弊した数百万人の命を奪った。結果、同期間に死亡した人々は6000万人に及ぶとされる。

 それに対して、第二次世界大戦における連合国・枢軸国および中立国の軍人・民間人の被害者数の総計は5000万〜8000万人(飢饉や病気の被害者数も含まれる)とされる。当時の世界の人口の2.5%以上にもおよぶ。民間人の被害者数:3800万〜5500万(飢饉・病気が原因であるものは1300万〜2000万)である。

 フランスの現在の人口が6700万人、英国が約6500万人であるから主要国が一つ吹き飛ぶほどの被害であったのだ。

 だから、1918年の第一次世界大戦終結の後、欧州各国の指導者が再び悲惨な戦争を引き起こさないことを最大の目標に掲げたこともよくわかる。巷には憲法9条教の信者のような特異な人々がいたかもしれない・・・。

 その間隙を塗ってナチス・ドイツやムッソリーニのファシスト党が勢力を拡大したというわけだ。その間、英仏をはじめとする欧州諸国は、再び戦争を起こさないためにナチスに譲歩を続けた。

 英国では、ナチスに対して非融和的政策を唱えたチャーチルが冷や飯を食わされたし、IBMの実質的創業者であるワトソン・シニアがナチスから勲章を授与され鼻高々になったということもあった(ナチ批判が高まったため後に返還している)。

 今では、ハリウッドのユダヤ人勢力によって反ナチプロパガンダ映画がうんざりするほど製作されるが、当時の欧州や米国ではナチス・ドイツ(国家社会主義労働者党)に対して好意的な人々も多かったのである。

 しかし、1939年3月の事実上のチェコ併合の後、8月23日、ヒトラーは独ソ不可侵条約を締結し、9月1日にポーランドに侵攻した。これに対し、堪忍袋の緒が切れた英仏両国は、9月3日ドイツに宣戦し、第二次世界大戦が始まった。

 現在の共産主義中国も当時のナチス・ドイツと同じ立ち位置である。2回の世界大戦で国土が荒廃した欧州はもちろん、ベトナム戦争で傷を負った米国も大きな戦争はしたくない。その間隙を縫って(特に習近平氏以降の)、共産主義中国は、領土的野心をむき出しにした侵略行為を南シナ海、尖閣、民主主義中国(中華民国=台湾)などで行った。

 今回の米中貿易戦争と呼ばれるものでは、単に関税だけでは無く、共産主義中国によるスパイ行為にもスポットライトが当たった。さらには天井の無いアウシュビッツ(ウィグル)やソ連との武器の取引も強く糾弾されている。

 明らかに米国の堪忍袋の緒が切れつつあるのである。特に共産主義中国による民主主義中国(台湾)への侵略は「米国の核心思想」への攻撃であり一線を超える行為である。

 2世のボンボンである習近平氏が状況をわきまえて正しい判断を行うことができるかどうか不安である。


■共産主義(ファシズム=全体主義)国家は知識社会では繁栄できない

 ファシズムの生みの親が、イタリアのベニート・ムッソリーニであることは意外と知られていない。第二次世界大戦末期、幽閉されていたムッソリーニをヒットラーが電撃的作戦で救出し、それ以後ヒットラーの部下同然になったムッソリーニだが、ファシズムの歴史においては先輩なのである。

 ムッソリーニはもともとイタリア社会党員であり、党中央の日刊紙である『アヴァンティ』編集長に任命されその辣腕によって発行部数を急拡大させている。

 さらにソ連のレーニンもムッソリーニの演説会に足を運んでその才能を高く評価し、後にイタリア社会党が彼を除名した際には「これでイタリア社会党は革命を起こす能力を失った」とムッソリーニを称賛している。

 したがって、共産主義とファシズムは同根であり、極めて似通った思想(全体主義)なのだが、このような全体主義国家においては、ピータ―・F・ドラッカーが定義する「知識社会」の発展はありえない。

 本書でも「知識集約産業は、技術的な訓練を受けた人々が自由な研究を奨励され、新しい知識や仮説をできるだけ広範囲に交換できる社会で最も発達する」と述べられているが、知識社会発展のキーワードは「自由」である。

 牛や馬と一緒に働く農奴や奴隷であれば、ムチ打って強制的な労働を行わせることができるかもしれない。しかし、バイオテクノロジーの研究員を鞭打って業績を向上することなどできないことはすぐにわかる。

 すぐれた研究員同士が自由に意見を交換し、より高度なアイディアを生み出すことが研究の発展につながるのである。だから「思想・表現の自由」は最も重要である。

 だから、これからの「大国の興亡」においては、軍事力、経済力も重要だが「自由」こそが最も注目しなければならない要素なのである。


(大原浩)


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書評:大国の興亡<上巻>



書評:大国の興亡<上巻>
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■法皇様に支配された暗黒時代からの脱出

 <上巻>だけを読んだ段階でも、500年におよぶ(上巻では第1次世界大戦のあたりまで)欧州史の壮大な歴史絵巻には圧倒される。

 およそ1000年の間のキリスト教(カトリック)支配のもと、西ヨーロッパ圏では古代ローマ・ギリシア文化の破壊が行われ、多様性を失うことにより、世界に誇るような文化を生むことはできなかった。いわゆる中世を暗黒時代である。

 この期間におけるキリスト教支配は苛烈であり、宗教裁判において典型的に見られるように、教会に雇われたプロフェッショナル(拷問師)による拷問、火あぶり、八つ裂きなどその残虐性は際立っていた。北朝鮮の将軍様ならぬ、カトリックの法皇様の独裁によって、欧州は当時進んだ文明であったアラブ圏、アジアなどのはるか後塵を拝した野蛮な後進国に過ぎなかった。その野蛮な出遅れた欧州が突如として、世界の中心となり他の地域の支配者となったのである。

 これは例えていえば、現在の北朝鮮が米国のような繁栄する大国に変身したようなものであり、歴史家の注目を常に浴びているのは当然ともいいえる。
 <1500年〜2000年の欧州を中心とした大国の興亡>には極めて重要な意味があるのである。


■ルネサンスの開花

 おぞましいキリスト教支配を打ち破るルネサンスはイタリアで始まった。
 シチリア王・神聖ローマ帝国皇帝のフェデリコ2世(1194−1250年。イタリア生まれでイタリアを中心に暮らした)が、ローマ帝国の復興を志し、シチリア王国に古代ローマ法を基本とした法律を定め、ナポリ大学を開いたのがその始まりといえるだろう。しかしながら、ローマ教皇や諸都市と敵対し、結局、彼の死後、南イタリアはフランス・アンジュー家の支配下に入った。

 14世紀以降、ルネサンスの中心地となったのは、地中海貿易で繁栄した北イタリアやトスカーナ地方の諸都市である。特にフィレンツェは、毛織物業と銀行業が盛んになり、大きな経済力を持っていた。

 15世紀末から16世紀に入ると他の欧州諸国にもルネサンスが広がる。
 本書が扱うのは、まさにこの時期からであるが、ルネサンスが欧州諸国をキリスト教支配から解放したとは言い難い。18世紀のアダム・スミスの時代にも宗教裁判は行われ、たまたま彼がパリ在住の際に行われた宗教裁判で、息子の無実を主張した父親の勇気をほめたたえている。ちなみに、「欧州最後の魔女」と呼ばれるアンナがスイスで処刑されたのは1782年である。


■産業革命によって「人類」は「人間」に進化した

 奇しくも、産業革命が英国で起こったのが1800年頃である。
 私は、「人類」と「人間」を区別しているが、(すでに人間であった)王侯貴族以外の庶民が生物学的分類の「人類」というだけでは無く、我々の考える「人間的」な活動が可能な「人間」となったのは、産業革命以降、莫大な富が蓄積され、それが労働者(国民)に広く還元されたからである。

 通説では、資本家によって労働者が生み出す富が奪われたとされるが、これは間違いである。もちろん資本家も潤ったが最大の受益者は(工場)労働者である。

 しばしば産業革命時の劣悪な労働環境、児童労働、長時間労働が糾弾される。それを否定するわけではないが、彼らが都市で働くために農村から大挙してやってきたのは農奴(農民)の生活がそれよりもはるかに悲惨であったからである。例えば、農村で幼い子が畑仕事を手伝うのは当たり前であったが賃金は1円たりとも支払われなかった。また農奴は、長時間労働どころか定まった休日さえ無い。

 一般大衆が読み書きさえままならない時代から、庶民の子供が大学や大学院に通うことができる時代へ移り変わったことこそが、産業革命以降の生産性向上で生み出された富が労働者(一般大衆)に広く還元されたことの証である。


■産業革命が戦争を変えた

 英国で産業革命が始まったのが必然なのか偶然なのかは多くの議論があるところだが、アダム・スミスが理想とする「自由主義」(念のため彼は、例えば外国の侵略を防ぎ自由を守るために政府(軍隊)は必要不可欠だと述べている)が少なくとも、他国に比べて英国で発展したのは間違いないことである。

 本書でも、英国の「自由主義」に詳しく触れており、それがフランスやドイツなどの全体主義的傾向(絶対王政、ファシズム、共産主義など)と異なり、英国の繁栄に寄与したと述べている。

 ただし本書のテーマである「大国の興亡」は、経済的要因と軍事的要因が複雑に絡まって起こるものである。特に近代の戦争においては、兵器や物資を供給する資金やテクノロジーが極めて重要であるが、軍隊の戦術や士気、さらには近隣諸国との地政学的関係も極めて重要である。例えば英国は欧州の辺縁の島国であり、ロシアも辺縁国家だが、フランスは大陸の中心部に位置し、国境線の心配を常にしなければならない。

 テクノロジーの発展と、生産性の向上(経済の発展)、人口増加などが複雑に絡み合う中で大国がどのように興亡したのかを、本書は極めてすっきりと描いている。


■現代の戦争

 最近、米中貿易戦争が話題になっているが、これはもしかしたら文字通り「新しいスタイルの戦争」の始まりかも知れない。

 本書でも鋭く描写しているように、殺し合いをする戦争において、尊い人命が失われるのは間違い。例えば、第一次世界大戦の犠牲者は、戦闘員および民間人の総計として約3700万人。また、連合国(協商国)および中央同盟国(同盟国)を合わせた犠牲者数は、戦死者1600万人、戦傷者2000万人以上を記録しており、これは人類の歴史上、最も犠牲者数が多い戦争の1つとされている。

 現在、徴兵制を停止(制度そのものは現在も存続している)している米国が、米国の若者の血を大量に流す戦争を長期間続行するのは、世論対策も含めて簡単では無い問題である。北朝鮮などのならず者国家は、そのような米国の足元を見ているフシがある。

 しかし米国は、最新兵器に裏打ちされた強大な軍事力だけでは無く、血を流さない戦争=「無血戦争」においても圧倒的な強さを持っているのである。

 いわゆる購買力の高い「消費者」の立場から「売り手」である中国を締めあげる「貿易戦争」もその一つだし、昔で言えば「海上封鎖」に相当するような「経済制裁」も、ボディーブローのようにじわじわ効いてくる効果的な戦略である。

 しかし、「無血戦争」における米国最大の武器は「金融」である。世界のお金の流れを支配しているのは米国なのである。

 例えば、北朝鮮やイランの高官の口座を経済制裁の一環として封鎖したというようなニュースを聞くとき、「どうやって口座を調べたのだろう」という疑問を持たないだろうか?

 このような人物が本名で海外に口座を開くとは考えにくく、当然偽名やトンネル会社などを使用する。しかし、そのような偽装をしても、FBIやCIAは、口座間の資金の流れを解析して、本当の口座の持ち主をすぐに特定できる。この基本技術は30年前には確定しており、人間経済科学研究所のメンバーが30年前にFBIで研修を受けたときにはすでに基本技術が実用化されていた。

 その後、テロ対策、マネー・ロンダリング対策で銀行口座開設や送金の際の本人確認が非常に厳しくなったのは、読者も良くご存じだと思うが、これは米国の指示による。日本だけでは無く世界的な現象なのである。

 少なくとも米国の同盟国・親密国においては、どのような偽装をしても米国の監視の目からは逃れられないということである。

 スイスのプライベートバンクの匿名性が攻撃され、口座情報が丸裸にされたのもこの戦略と関係がある。

 そして、北朝鮮、共産主義中国など米国と敵対している国々のほとんどは、汚職で蓄財した個人資産を保管しておくには適さない(いつ転覆するかわからない)ので、米国の口座に保管をするしかない。

 米国と敵対する国々の指導者の目的は、国民の幸福では無く個人の蓄財と権力の拡大であるから、彼らの(海外口座の)個人資産を締めあげれば簡単に米国にひれ伏す。

 孫子は「戦わずして勝つ」ことを最良の戦略としているが、まさに金融を中心とした「無血戦争」で、連勝を続けているトランプ氏は、歴代まれに見る策士の才能を持った(優秀な策士のブレインを持った)大統領なのかもしれない。


(大原浩)


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