書評:ファスト&スローあなたの意志はどのように決まるのか?



「ファスト&スローあなたの意志はどのように決まるのか?(上)」
ダニエル・カーネマン箸、早川書房
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 心理学者でありながらノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが、一般向けに行動経済学の基礎を解説した非常に読みやすい本です。
 表題の通り「システム1=ファスト=直感」と「システム2=スロー=思考」が中心となって展開します。

 どの章も非常に興味深いのですが、今回は特に第20章<妥当性の錯覚>を取り上げます。

 この中で、ウォーレン・バフェットが常に主張している「株式の売買は少ないほどいい」と「投資信託を買うのであれば手数料の安いインデックスファンドしか考えられない(人間が運用する投資信託は買うべきではない)」について、素晴らしい「科学的証明」が行われています。

 カリフォルニア大学バークレー校金融工学教授のテリー・オディーンが某証券会社顧客1万人(取引数は16万3000件、その多くが男性)について行った調査によれば、投資家がA株を売ってB株を買った場合、平均で(売った)A株の方が3.2ポイント年平均でより高く上昇していました(手数料は別)。要するにあれこれ考えて売買せずに、最初の株をそのままっ持っていた方が良い結果であったということです。

 また、彼と同僚のブラッド・バ―バーとテリー・オディーンとの共同研究では、「平均的には、最も活発な投資家(売買回数が多い)が最も損をし、取引回数の少ない投資家ほど儲けが大きい」ことが確かめられていいます。
 バフェットの主張通り、売買すればするほど損をすることが明らかになりました。

 また、男性は「無益な考え」に取りつかれる回数が多く、その結果、女性の投資実績は男性を上回ることも示しています。これも私の観察結果に一致します。

 さらに、50年間にわたる調査によれば、投資マネージャーの運用成績はサイコロ投げにも劣ります。少なくとも投信(ファンド)の3件に2件は、市場全体のパフォーマンスを下回っていました。
 サルに任せるか、コイン投げで運用した方がましということです。
 あるいはバフェットが主張するように手数料が安いインデックスファンドを購入すべきでしょう。


 最後に、ダニエル・カーネマン(2002年に「プロスペクト理論」によってノーベル経済学賞を受賞)の某金融機関運用マネージャー25名8年間の運用成績を研究した結果、「28個の相関係数(1年目と2年目、1年目と3年目・・・7年目と8年目まで28組のペアをつくり相関係数を求めた)は、0.01であった」という研究結果が紹介されています。

 つまり、これらの運用成績に相関関係は無い=担当者のスキルによる運用成績への影響はゼロという結果になったのです。

 カーネマンは、情報提供先の金融機関にこの研究成果を報告しましたが……その結果はご想像の通りです・・・

 まあ、キリスト教の牧師に「研究の結果神は存在しないことがわかりました」というのと同じで、自分のおまんまの食い上げ(特にファンドマネージャーは高給)になるような意見は無視するか、それとも魔女裁判のような形でたたきつぶすしかないのでしょうね・・・


(大原浩)




(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)


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ドラッカー18の教え 第7回



産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
10月号連載記事


■好きなことをするというのは、必ずしも楽をすることではない


 「好きなこと」をすれば、やる気・意欲が高まるから仕事の効率が上がり、良い結果が出せる。その通りです。ただ、「好きなこと」の定義はなかなか難しいと言えます。

 例えば学校のクラブ活動を例に挙げてみましょう。
 「雑談部」というクラブがあるとします。放課後部室に集まって、若い男女が色々な話をするのは楽しいでしょうし、多くの人にとって「好きなこと」の一つには違いないかもしれません。

 しかし、現実にはそのようなクラブを(少なくとも私は)見かけたことはありません(事実上そうなっているクラブは時折見かけますが・・・)。
 なぜ、「雑談部」が存在しないのか?親や学校の先生の受けが良くないのはもちろんのこと、同級生からも馬鹿にされるというのが原因の一つでしょう。
 それだけではありません。「雑談部」のように、明確な目標が無く達成感を得られない活動は、実のところそれほど楽しくないからなのです。

 例えば、野球部やテニス部。球ひろいや雑用はともかく、練習は厳しく、実際に試合をする時間は、全体のごく一部です。それでも、多くの若者が「雑談部」で楽しいおしゃべりに興じることではなく、野球部やテニス部などで、苦しく厳しい練習に耐えることを選びます。彼らに「野球部やテニス部の活動は『好きなこと』か?」と問えば、ほとんどの場合「イエス」という答えが返ってくるでしょう。


●「やりたいこと」ではなく「やるべきこと」を選ぶ


 ドラッカーは「強みを生かせ!」ということを強調します。強みと自分がやりたいこと=「好きなこと」は必ずしも一致しませんし、ドラッカーは具体的なケースでそれを説明しています。そして、強み=「自分が行うべきこと」とやりたいこと=「好きなこと」が食い違うときには、必ず前者を選ばなければないと述べます。

 やりたいこと=「好きなこと」をあきらめて、強み=「自分が行うべきこと」を行うのであれば、「仕事を楽しむ」どころでは無いと考える読者の方も多いかもしれません。

 確かに、二者択一で自分の好きではないことを選んだということだけを考えれば、「楽しくない」ということができるかもしれません。しかし、この二者択一を迫られた人物は、なぜそのような判断をするのでしょうか?そこに問題の本質を解くカギがあります。


●高い目標が無ければ仕事を楽しめない


 ドラッカーは
「失敗したことが無い人間に重要な仕事を任せてはならない。なぜなら、失敗したことが無い人間は『挑戦したことが無い』からだ」
と述べます。

(続く)


続きは、産業新潮
http://homepage2.nifty.com/sancho/
10月号をご参照ください。


(大原浩)


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ドラッカー18の教え 第6回



産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
9月号連載記事


■知識社会では生涯学習が不可欠である


●知識こそ現代の「産業のコメ」である


 戦後の復興期から高度成長時代には、「鉄は産業のコメである」などといわれていました。その時代の産業にとって必要不可欠であった「鉄」を日本人の食生活において必要不可欠な「コメ」に例えたわけです。
 コメの消費量は当時から比べて減ってしまいましたが、それでも日本人の食生活に必要不可欠であることに変わりはありません。

 現代において「産業のコメ」とはいったい何でしょうか?
 それは「知識」に他なりません。


 ドラッカーは、現代社会(先進国)においては、知識こそが経済の中心であり、過去の遺物となってしまった(あるいはもともと幻想であった)、「土地・労働力・資本」(生産の三要素)という概念にとって代わるものであると述べています。


●知識と情報は違う

 知識と情報はいったいどこが違うのでしょうか?

 情報はデータと呼ぶこともできますが、情報そのものに「判断」の要素はありません。情報やデータはあくまで事実の羅列で、その事実の羅列を「解釈し判断するためのもの」が知識です。

 グーテンベルグ以来、「印刷技術」によって一部の特権階級に独占されていた(写本は現在の感覚で言えば一冊数百万円〜数千万円くらいはする高価なものでした)情報が広く行き渡るようになりました。そして、現代の「インターネット革命」によって、情報はほぼ無料で誰にでもアクセスできるものとなったわけです。
 情報は拡散すればするほどその価値を失います。例えば、インターネットで全世界に公開されている情報をわざわざお金を払って取得しようという人間はいないでしょう。


 しかし、事実の羅列である情報そのものに価値は無くても、そのバラバラな情報を「解釈し判断」するための体系化された知識があれば話は別です。

 現代のビジネスにおいては、物を運んだり、ねじを回したり、書類を記入したり、数字を計算したりするような「作業」はどんどん機械化・自動化されつつあります。逆に、どの部門に投資するのか、どのような人材を採用するのか、どのような広告キャンペーンを行うのか、どのような店舗戦略を採用するのかというような「判断」が「利益=富」の源泉であり、そのために必要不可欠なのが(体系的な)知識であるのです。


 江戸時代には米俵二つを一度に担ぐことができる力持ちが重宝され高い給料をもらいましたが、現代においては、各企業が利益の源泉である「知識を持った労働者」の獲得に血眼になっているのです。


●知識労働者は雇われない

 産業革命以降、多くの労働者が資本家に従属したのは、工業化社会においては、巨大かつ高価な製造機械を購入できるのは資本家だけであり、一般の労働者はその機械を保有する資本家の下で働く以外の選択肢が無かったからです。

(続く)


続きは、産業新潮
http://homepage2.nifty.com/sancho/
9月号をご参照ください。


(大原浩)


★夕刊フジで好評連載中の「最強!バフェット流投資術」<基礎編>は7月13日(木)で終了しました。7月20日(木)からは「最強!バフェット流投資術」<応用編>として、個別・具体的な日本企業をバフェット流で解説しています。(毎週木曜日連載)


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ドラッカー18の教え 第5回

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産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
8月号連載記事


■お金しかなければ成功しない。


●金儲けは尊い行為である


 金儲けが卑しいという思想はいったいいつどこで始まったのかは定かではありませんが、宗教がその思想を強固なものにしたのは間違いがありません。

 日本のある行者は生涯お金に触れずに暮らしました(実際のところは弟子が必要な品物の代金の支払いを行ったのですが・・・)し、ジーザス・クライスト(イエス・キリスト)はユダヤ教の神殿で(念のため、ジーザス(キリスト)はユダヤ教徒です)静かに商いを行っている商人に乱暴・狼藉を働きローマ軍に捕らえられた挙句、結果として磔にされました。

 また金儲けの究極の形ともいえる金融(金貸し)業は、キリスト教において長らく汚れた行為とされ、「金融業に携わる者は天国に行けない」と牧師が説教しました。そのため、欧州での金融業において、そのような縛りが無いユダヤ教徒が力を持つようになり、現在でもグローバルな金融業でユダヤ系が一大勢力となる素地を作りました(実際には、テンプル騎士団などは現在でいうトラベラーズチェックや為替など金融業で大儲けしました。もっともテンプル騎士団は、多額の貸し付けを行ったフランス王にそれゆえに弾圧され−テンプル騎士団が隠し持った財宝が狙いであったともいわれます−悲惨な最後を遂げました)。

 現在も金儲け(利益)に対するタブー意識のようなものが宗教界を中心に存在しますが、「坊主丸儲け」という言葉に代表されるように宗教そのものが驚くべき高収益ビジネスです。何しろほとんど原価ゼロの戒名(ルターが糾弾した免罪符と同じようなもの)が数百万円で売れるわけですし、京都などの有名寺院の財力も驚くべきもので祇園の花街の上得意です。

 さらには、信者に対して「富を持つと人間は不幸になるから財産は全て寄付しなさい」と促します。そして「財産を持つ不幸は我々が背負いましょう」とまで親切に言ってくれます。

 たしかに、富を求めなければ心穏やかに暮らせますが、それは「ホームレスの生活が結構楽しい」と言っているのと代わり映えしないように思えます。
 より高いものを求めるからこそ、もがき苦しみ、その苦しみを克服することにこそ人生の目的があるのではないでしょうか?


●金の亡者は成功しない

 もっとも、ビジネスで成功するためには、「金の亡者」のようにふるまうべきではありません。「お金」のことしか頭にないような人間(例えば民主党の大統領経験者夫妻)は徹底的に軽蔑されますし、「他人の金儲けを手伝いたい」などという奇妙な人間は、めったにいません。


続きは、産業新潮
http://homepage2.nifty.com/sancho/
8月号をご参照ください。


(大原浩)


★夕刊フジで好評連載中の「最強!バフェット流投資術」<基礎編>は7月13日(木)で終了しました。7月20日(木)からは「最強!バフェット流投資術」<応用編>として、個別・具体的な日本企業をバフェット流で解説します。(毎週木曜日連載)


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ドラッカー18の教え 第4回

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産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
7月号連載記事


■すでに起こった未来を探す。未来を予想することはできない。


 人間とはいったいどのような存在なのか?と問われたとすれば、答えは無限に等しくあるでしょう。

 私が一番気に入っている答えは「人間は神とサルの間に存在する」というものです。つまり、「ある時は神様のように崇高であり、逆に、あるときにはサルのように本能に従って行動するのが人間である」ということです。ただし、人間はサルでも神様でもありません。そこにははっきりとした線引きがあります。


 例えば、神様にできて人間にできないことの一つに「未来を予想する」ことがあります。神様には未来がお見通しであっても、人間にとっての未来は、まさに深い霧の中に存在するのが現実です。

 年末、年始になると新聞や雑誌で「景気・為替・株価見通し」の特集が組まれ専門家や著名人の予想が華々しく掲載されますが、このようなものは、パチンコの出玉情報や競馬の勝ち馬情報以上の意味はありません。翌年の特集で、前年の予想の成果の検証が行われないこと自体が信頼性の無さの証明です。


 バフェットは「私は未来を予想することができない。また、もし『未来を予想することができる』と主張する人間がいるのなら是非お目にかかりたいものだ」と、色々な場で発言しています。
 いまだにバフェットの目の前に「私は未来が予想できる」と主張し、その証明を行う人間が現れないところを見ると、やはり「未来を予想できる人間など存在しない」と考えた方がよさそうです。

 「投資の神様」と呼ばれるバフェットが、未来を予想しないで、どのようにして投資で大成功を収めたのか不思議に思われる方が多いかもしれません。実は、投資で成功するために、未来を予想することなど全く必要ないのです(投資を行うのに「予想が必要である」という社会通念は全くの間違いです)。

 バフェット自身の言葉を借りれば「未来の予想はできないが、いつかやってくるであろう危機に備えることはできる」ということなのです。


 日本は地震国で、いつか再び大きな地震がやってくることはほぼ間違い無いでしょう。しかし、何年・何月・何日にどこに地震がやってくるという予想はまず当たったことがありませんし、「当たった」と騒いでいるケースは極端な拡大解釈か偶然の一致にしかすぎません。

 しかしながら、建築物のしっかりとした耐震基準を定めたり、定期的に避難訓練・防災訓練を行ったりすることによって、被害をより小さくすることは可能ですし、場合によっては人的被害をゼロにすることも可能でしょう。


続きは、産業新潮
http://homepage2.nifty.com/sancho/
7月号をご参照ください。


(大原浩)


【大原浩の書籍】

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ドラッカー18の教え 第3回

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産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
6月号連載記事


■マネジメントに関わる者は実践者でなければならない


●マネジメントもビジネスも投資も科学ではない。実践である


 前回「経済学は科学ではない」というお話をしましたが、同じ意味で「マネジメントもビジネスも投資も科学では無い」ということができます。そしてその心は「経済学・ビジネス・投資・マネジメントのいずれも『人間』に関わること」という点にあります。

 日本語の慣用句に「猫の手も借りたい」という言い回しがありますが、人間の手だけを切り取って雇うことはできません(余談ですが、私は「手料理」という言葉を聞くと「手のから揚げ」とか「手の角煮」といった料理を連想してしまいます・・・ちょっとグロテスクな話ですが、豚足などがそのイメージに近いでしょうか・・・)。

 例えば、誰かを雇えば、好むと好まざるにかかわらず、「手」の他に一人の人間の体全体が必ずついてきます。そして、人間の「心・精神」も肉体と不可分です。ですから、マネージャーはこの厄介な人間の「精神・心」を上手にマネジメントしなければなりません。

 あるいは投資の世界において、たとえコンピュータシステムで取引を行う場合であっても、そのコンピュータ取引を行うべきか否かを判断するのは結局人間です。少なくとも現在のコンピュータは、自ら「金持ちになりたい」などという理由で資産運用を始めたりはしません。アーサー・C・クラーク(映画はスタンリー・キューブリック監督)の「2001年宇宙の旅」のHAL(今でいうAIコンピュータが高度に進化したもの)なら別かもしれませんが・・・。

 つまり人間だけが「動機」を持ち、その「「動機」をどのようにコントロールするのかがマネジメントの核心」なのです。「動機」という言葉はミステリー・ドラマなどでよく使われますが、普通の人々が動機が無ければ殺人など犯さないのと同じように、組織(企業)に属する人々も動機が無ければ仕事などしません。したがって、マネジメントを行う人々(マネージャー)は、個々の人間の「動機」に多くの関心を割くべきであり、その動機を解明(理解)するためにも(現場で)実践し、個々の人間と密なコミュニケーションをとらなければなりません。

 そして、その解明した動機を基に個々のメンバーの「動機付け」を行い、より業務の水準を高めるのも、マネージャーが行わなければならない重要な実践です。

 方程式や立派な理論を基にしたマニュアルでマネジメントができればとても楽なのですが、残念ながら「人間という複雑怪奇な存在」を相手にしている以上、マネジメントはあくまで実践であり、刑事ドラマの名セリフ「事件は現場で起こっている!」も、ぴったりとビジネス・投資・マネジメントに当てはまるのです。


続きは、産業新潮
http://homepage2.nifty.com/sancho/
6月号をご参照ください。


(大原浩)


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ドラッカー18の教え 第2回



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5月号連載記事


■成功する方法は一つではない。


●経済学は科学ではない


 このように申し上げると多くの反論をいただきそうですが、まず科学とはどのように定義づけられるか検証してみましょう。
 「科学」のとらえ方にも多々ありますが、「科学的・論理的」に科学を定義づければ、「論理によって説明され、その論理を実験によって繰り返し証明することができるもの」といえるでしょう。つまり、論理的に説明されるだけではなく、その論理が実験によって証明されなければならないということです。
 もちろん、生きた経済において、実験のための一定の条件を繰り返し準備することなど不可能ですから、経済学は学問ではあっても科学ではないという結論になります。

 同じことは「歴史学」「社会学」など他の学問についてもいえます。
 また、医学のうち、少なくとも「医療」は科学ではありません。実験室で細胞を培養したり遺伝子を操作することは科学であるかもしれませんが、患者を治療することはむしろ科学であってはなりません。
 なぜなら、治療を求める患者をモルモット代わりにして人体実験を行うことなど現代の文明社会では到底許されないことだからです。

 企業や経済のかかりつけ医(ホームドクター)とでも呼ぶべきドラッカーも、同じように経済学は科学ではないと述べています。「患者たる企業や経済が病に苦しんでいるのに、個々の企業や経済の病状など顧みず、まるでアインシュタインの相対性理論のような普遍的な理論を求め続けているために、現在の経済学が役に立たないのだ」と、ドラッカーは鋭く指摘しています。


●観察者(傍観者)であるべし

 ドラッカーの著書の中で一冊だけを選ぶとすればどれか?という質問には多くの答えがあるでしょうが、「現代の経営」をあげられる方が多いようです。確かに「マネジメントの権威」というドラッカーの一般的イメージからいえばそうなるのかもしれません。

 しかし私は、「傍観者の時代」だと思います。ドラッカーの自伝的要素が強い本ですが、この本にこそ、「いったい何によってドラッカーの経済・ビジネスに関する理論体系が構築されたのか?」という最も根本的かつ重要なことが詳細に描かれています。本人が十分認識しているように、ドラッカーは科学者でも理論家でも実業家でもありません。優れた傍観者(観察者)なのです。

 ただ、傍観者といっても遠くから眺めているだけではありません。例えば生物学でいえば、沼地に入り込んで泥だらけになりながら虫たちの動きを観察する、というようなフィールドワークを果敢にこなしているのです。

 ドラッカーがコンサルティングを引き受けたのは、世に知られるGEやGMなどの大企業だけではありません。数多くの中堅・中小企業以外にも病院をはじめとする非営利機関のコンサルティングも多数こなしました。その中でドラッカーが感じたのは、マネジメント手法などに共通項はあるものの、それぞれの組織にはそれぞれの成功法があるということです。


続きは、産業新潮
http://homepage2.nifty.com/sancho/
5月号をご参照ください。


(大原浩)


【大原浩の書籍】

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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)


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ドラッカー18の教え 第1回



産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
4月号連載記事


■全員一致は否決せよ。


●ユダヤの教え


 私が子供のころに強い影響を受けた本の中に「日本人とユダヤ人」(イザヤ ベンダサン著・山本書店)があります。実のところ、イザヤ・ベンダサンというのは、山本書店店主である山本七平氏のペンネームのようなのですが、それはさておき、まだ狭い世界で生きていた私に、広い世界があることを教えてくれた本です。
 角川書店から復刻版が文庫で出ているようですので、詳しくは是非原著をお読みいただければと思います。

 さて、日本的な考えや、日本の偏った考え方の(自称)知識人やマスコミを通しての「海外」しか知らない中学生であった私に、数々の影響を与えた教えの中で最も衝撃的であったのは、「全員一致は否決せよ」です。
 「全員一致のどこがいけないの?」と普通は考えるでしょうし、私も当時はそう思っていました。ただ、理論的にはうまく説明できないけれども、直感的に「正しいような気がする」という感覚があり、長い間この教えを時々思い出しては「何とか筋道を立ててこの教えの正しさを説明できないものだろうか?」と思いあぐねていました。


●アルフレッド・スローンの教え

 社会人になってしばらくして、ドラッカーを読み始めたとき、その著書の中でユダヤの教えと同じ「全員一致は否決せよ」と述べられていることには驚きました。しかも、その中で全員一致を否決しなければならない理由が具体的明確に述べられているのです。
 彼は、全員一致を否決しなければならい理由は、なぜ全員一致になるのかを次のように具体的に考えればすぐにわかるといいます。

1)参加者に外部・内部の圧力がかかっている=共産主義国家・独裁主義国家
  では、指導者や党に反対すると命の危険があるので、物事は「全員一致」
  でスムーズに運びます。ただ、その指導者・党の判断が正しいことが保証
  されているわけではありません。社長が独裁的な企業の役員会、部長が部
  下から恐れられている部署の会議でも同じような結果になるでしょう。

2)会議の参加者が真剣に考えていない=多数意見に付和雷同するのはとても
  簡単ですし、多数派から快く思われます。逆に少数意見を述べるためには、
  多数派からの反論に耐えることができるような「筋道」をしっかり考えな
  ければなりませんし、会議の参加者の多数派がこちらを凝視する中で異論
  を述べるのは勇気のいることです。


 つまり、ドラッカーは、全員一致になるのは「誰かから脅されているとき」か、「真剣に考えていないとき」だけだから、「全員一致の意見は採用すべきでは無いと主張しているのです。
 そして、「全員一致」には別の弱点があります。それは、「一つの意見しかなければ代替案(予備・保険)が無い」ということです。
 全員一致の案を実行しても100%成功するわけではありません。むしろ、1)や2)の環境下で決まった案であれば、失敗する可能性が高いはずです。その時に、全員一致の案しかなければ万事休す。次の展開ができません。
 それに対して、侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論をすれば、どのような失敗をするのかの見通しも立ちますし、失敗したときの対案も自動的に準備されることになります。


続きは、産業新潮
http://homepage2.nifty.com/sancho/
4月号をご参照ください。


(大原浩)


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バフェットとポーターに学ぶナンバーワン企業戦略 第17回

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産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
3月号連載記事


■競争戦略名言集その2


●良い競争相手・悪い競争相手


 「競争相手は全て敵だ!」と考える方が少なくないかもしれません。それが必ずしも間違いだとは言いませんが、例えばほとんどの業種に「業界団体」が存在するのはなぜでしょうか?
 同じ業種で同じ顧客をターゲットにビジネスを行っている企業は全て競争相手のはずですが、それぞれが同じ業界団体の一員として歩調を合わせて行動することも珍しくありません。それは、業界の外にも闘うべき相手がたくさんいるからです。

 例えば業界全体の不利益になる政府の過剰規制、自分たちの業界に攻め込もうとする他の業界の企業群等々と対峙するためには、それぞれの企業が個別に対処するよりも業界の企業全体が一枚岩となって行動した方が圧倒的に有利です。ですから、業界全体の利益のために協調的行動をとることができる企業は良い競争相手ですし、自分だけ抜け駆けして自社の利益を得ようとするのは悪い競争相手です。
 もちろん、カルテルで売値を高く維持するような行為は罰せられますが、相手を叩きのめすまで競争することもほめられたことではありません。

 より多くの企業が、それぞれのポジションで繁栄するのが、それぞれの従業員にとっても、国民の将来の年金を支払うために資金を株式で運用している機関投資家などの株主にとっても、社会全体にとってもよいことです。

 ポーターは、この考えをさらに押し進め、良い競争相手は助けるべきだと主張します。
 例えば、ティッシュ業界でシェア50%のA社のほかに、D社というシェア10%の企業が存在するとします。この企業の現在の主力は高級コート紙で、とても高い利益を上げています。ティッシュペーパーは祖業であるため継続しているものの、利益率が低いためこれ以上シェアを拡大しようという気は全くありません。そのため、知名度の低い自社製品を定番であるA社製品の概ね10〜20%安い価格で販売するという緩やかなディスカウント戦略を採用しています。

 このような「紳士的」な競争相手は丁重に扱うべきです。D社というディスカウンターがすでに存在することによって、他業界からの新規参入にはブレーキがかかります。ティッシュ業界にディスカウンターが存在しなければ、他業態からディスカウンターがやってくる可能性が高いのです。
 しかし、緩やかな形とはいえすでにディスカウンターがいれば、他業種からの新規参入は当然慎重になります。逆にD社という緩やかなディスカウンターの存在が無くなってしまえば、悪い競争相手である激しいディスカウンターの参入を招きます。ですから、もしD社が経営危機に陥ったとしたらA社はそれを救うべきなのです。

 ただし、吸収合併のような形はいけません。市場シェアがさらに増えてしまって、外部の激しいディスカウンターの攻撃にさらされやすくなります。
 あくまで外部の緩やかなディスカウンターというポジションが、A社にとってのD社の重要な価値なのです。


続きは、産業新潮
http://homepage2.nifty.com/sancho/
3月号をご参照ください。


(大原浩)


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 <発行:昇龍社>が発刊されました(アマゾン・キンドル版)
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バフェットとポーターに学ぶナンバーワン企業戦略 第16回

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産業新潮 http://homepage2.nifty.com/sancho/
2月号連載記事


■競争戦略名言集その1


●正しいやり方は一つではない


 「正しいやり方は一つではない」という言葉自体は、ドラッカーもその著書の中で繰り返し述べています。彼は「マネジメントのやり方」や「会社組織のあるべき姿」に関して、唯一絶対の公式などなく、それぞれの企業の個性や状況によって「正しいやり方は何通りでもある」と主張しています。

 また、バフェットも、買収した数多くの企業の経営をそのまま既存の経営者に一任していることからもわかるように「成功するやり方はたくさんある」と考えているのです。

 それにも関わらず、世の中の学者やコンサルタントなどが「見果てぬ唯一絶対の公式」を求めて空回りしているのは、「経済学」を科学だと誤解している点に大きな原因があります。
 例えば、物理学をはじめとする科学において実証実験は不可欠で、「誰がやってもいつも同じ結果が出る」ことによって、その科学理論の正しさが証明されます。そして逆に、科学においては、証明された理論と違うものは認められないのです(もちろん、新たな事実の発見によってニュートン力学から相対性理論へと飛躍したような事例はたくさんありますが、ニュートン力学の想定していた範囲での正しさが否定されたわけではありません・・・)。

 それに対して、たとえば世間の多くの人々が科学だと誤解している医学(医療)は、学問ではあっても科学ではありません。なぜなら、医学において人体実験で理論の正しさを証明することは(少なくとも現在では)基本的に許されないことだからです。
 さらに、そもそも人間は一人ひとり違う存在であり、薬の効き方も個人によってかなり違う上に、例えばエイズのような病気にかかっても、全く発症しない人が存在します。

 ヤブ医者は、患者の個々の状況を詳細に診察することなく、定型的なマニュアルに基づいて、治療や投薬を行いますが、同じく「ヤブ経済学者」や「ヤブコンサルタント」は個々の企業を十分診断・観察することなく、定型的マニュアル通りに「対応」します。

 漢方では、患者の体質を分類しその体質ごとに異なった処方を行いますが、企業においてもその「体質=(社風など)」を丁寧に診断し、それぞれの体質に応じた「戦略」を考えるべきです。


●市場環境と立ち位置で判断する

 学者であるマイケル・ポーターを私が高く評価するのは、その徹底した「フィールド・ワーク」に感銘を受けているからです。
 インディー・ジョーンズ(映画の主人公ですが、モデルとなった考古学者が実際に存在する)は、書物や資料だけに頼ること無く、「現地=遺跡」を頻繁に訪れ「事実」を徹底的に観察しました。

<続く>


続きは、産業新潮
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2月号をご参照ください。


(大原浩)


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