JUGEMテーマ:株・投資
「災いは最小限にくいとめられるなら、幸運とみなすべきだ。」
─マキャベリ
こんな言葉で表現するにふさわしい業界があります。情報システム業界です。
NTTデータを筆頭に中堅どころや弱小ソフトハウス、独立して一人でやっているプログラマもいる。
これらの企業(人間)がいないともう既にやっていけないのが現代日本ですが、企業を評価するのにこれほど難しい業界はないかも知れません。
なぜなら、やっている事が表に表れることが少ないからでしょう。
■日立ソフトウェア(9694)のサプライズ
先日、日立ソフトウェアエンジニアリングの3Q決算発表がありましたが、想像を絶するサプライズでした。
<3Q決算発表前通期連結予想>
売上高 204,000
経常利益 8,560
当期純利益 3,640
<3Q決算発表後通期修正連結予想>
売上高 181,000 ▲23,000百万の修正
経常利益 ▲4,200 ▲12,760百万の修正
当期純利益 ▲7,300 ▲10,940百万の修正
中間決算までは会社計画線上にあり、通期についても若干下ブレあるものの、ほぼ問題なしとして、サプライズを予期したものほぼ皆無でした。
何故、このようなことが起こったのでしょう?
理由はこの業界の特性にあるといっても過言ではありません。
■ソフトウェア業界の色分けとは
ソフトウェア業界で上場している企業はおおよそ次の3つの区分で分けることができると言って過言ではないでしょう。
1)ゼネコン的システム構築企業
2)パッケージソフト主導のシステム構築企業
3)機器販売と保守メインの企業
いったいそれぞれどんなものなのか?
■業界の特性を区別すると
上記の3つを具体的にあらわすと以下の通りになります。
1)は名の通り、人(プログラマ)を集めて、現場監督(プロジェクトマネジャー)が設計(コンサル)に基づいた工事(システム構築)を行うという形態の企業です。
該当する企業で代表的なのはNTTデータ(9613)、野村総合研究所(4307)、富士ソフトABC(9794)などです。これら以外に大手電機メーカー(富士通、NEC)もこの形態の企業にあたります。
特徴は名の通り、ゼネコン的で設計+現場監督はシステム開発契約を結んだ会社の人間が行い、実際の建設(システム構築)は現場監督の指揮のもと、@×月数換算で子会社・孫会社が雇った単価の安い労働力を用いて作成するという労働集約的な業態です。
2)は既にパッケージ化されている自社のソフトウェアを用いて、顧客のシステムを構築するというスタイルの企業です。
日本オラクル(4716)、オービック(4681)、サイボウズ(4776)、ワークスAP(4329)等が該当します。
特徴は企業内の業務で提携化しやすい業務(財務・人事・購買等々)をシステムで処理できるように自社で開発されたソフトをパッケージ商品として提供し、範囲を絞って業務の解決を図る利益率の高い商売を主に行っているところでしょう。
3)は機器の販売とそれに伴う、構築作業が主体でまずモノありきの企業です。
伊藤忠テクノサイエンス(4739)等が該当します。
特徴はハードに関わる物理的な問題解決、言い換えるとサーバーの容量不足や、データが色々な所に散らばっているのをひとつのところにまとめる等のハード主体の商売です。ハード単価がどんどん下がっており、保守で利益を出しているというのが実態です。またこれらの事業にはストレージ貸しのようなビジネスも含まれます。
上記3つに区分したものの、これらの境界線は明確に区分されているわけではありません。通常はこれら3つのうちのいずれかのミックスで企業体が出来上がっていることが多いのです。
■業態リスクとは
また上記の3つの業態にはそれぞれ事業としてリスクを含んでいます。
1)の場合は、契約時点で予定していた開発範囲を超えて投入人数が膨れ上がり、外注費コスト(自社SEコスト)をオーバーしてしまう、見積の甘さとシステム開発の要件定義があいまいな場合に起こるリスクが高くなります。工数増リスクと名づけることにします。
2)の場合はパッケージ開発に巨額の金額と人材を投入したものの、マーケットニーズを読み誤り、販売がイマイチ伸び悩む場合、結果ソフトを損失処理しなくてはいけなくなるリスクです。ニーズ読み違いリスクと名づけることにします。
3)の場合は、技術の陳腐化が早く、競合相手が多数存在し、価格勝負でしか競争力を保てないマーケットになるリスクです。価格競争リスクと名づけることにします。
これらのリスクは通常の企業でも見られるますが、情報システム産業ではこれらの要因が複雑に絡みあうため、一目ではわかりにくくなっているのが実情でしょう。
リスクの巨大な順に並べれは、1)>3)>2)という感じでしょうか?
■事業ポートフォリオと業態リスク
経営者自身もこれらを統合して把握することができていないことがしばしば散見されます。
ゆえに蓋を開けると下方修正が発生してしまうということになりがちです。
このような企業の投資価値判断するためには、
1)分析の対象となっている企業の事業ポートフォリオ
2)事業ポートフォリオに含まれるそれぞれの業態に付帯するリスク発生の度合い
を知ることが危機回避への第一歩として必要でないでしょうか。
先にあげた日立ソフトの場合は
1)事業ポートフォリオの中でゼネコン的システム構築の部分の質が変化してきていたつまり、親会社である日立向けの占める割合が低下していた。
→本来、メーカー系のシステム子会社は親会社からの安定受注があることをいいことに収益拡大を掛け声に外部顧客を拡大するのに必死だった。
→しかし、内実は親会社向けのコスト管理ロジックでは通用しない厳しい環境で拡大路線がふたを開けると目も当てられない惨状になってしまった。
2)今まで安定的な収益を確保してきていた機器の価格が低下した
→プリクラの機械やバイオ関連機器などの比較的値下げに抵抗力のある機器分野が急速に価格競争力を失った。
もしかすると業界の特性を知っていれば避けることができたかもしれないのです。
このような状況を事前に察知するには機関投資家でも難しい部分はあるものの、どういうリスクが潜んでいそうかを個人投資家が想像することは難しくありません。
リスクに対して事前に一体どういう対処が取れるかを考えることが投資家に求められている必要な資質であると痛切に感じています。
どうでしょうか?持ち株がそれぞれどういうリスクを内包している株なのか、一度総点検されてはいかがでしょうか?
それが無用な嘆きを避ける手立てだと思います。
(Kiwi)
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