合理的な不動産投資とは(5)

■不動産投資における落とし穴とは?

 今回は、通常見落としてしまいかねない不動産投資リスクというテーマで、いくつかケースを挙げていきたいと思います。

1.売買編

1)修繕積立金の未達による一時負担金の発生
 修繕積立金とは、長期修繕計画の中で必要な修繕工事の総コストを算出し、それを管理費と同様に月単位あたりで計画的に積立できる費用です。修繕積立金の算出については、所有者によって編成された管理組合の指示により、建物管理会社や一級建築士事務所等が作成する長期修繕計画書に基づいて算出され、管理組合が承認する形で決定されます。
 しかしながら、個々の物件によっては、将来の長期修繕工事の時期に積立不足になってしまう物件や、修繕計画や維持管理状況がずさんなために一時負担金が突発的に発生しかねない物件が現実的には存在しています。
 そのような物件の収益性を合理的に評価するためには、長期修繕計画の過去の実績を調べて、現時点から将来における計画の安定性を精査することが必要です。そして、一時負担金が発生する可能性がある場合には、想定コストを支出項目に含めた上で運用利回りを算出する必要があります。
 その結果、一時負担金や修繕積立金の増額が必要な場合でも期待利回りを維持可能な運用計画が立てられます。

2)新築物件の落とし穴
 新築物件は、長期のローンが適用されやすいことからサラリーマンの方々を中心に人気があります。そのうたい文句は、建物の劣化状況の評価が不要なこと、減価償却費による損益通算の効果が大きいこと(新築のため建物の割合が高い)、管理または修繕コストが少ないこと、中古物件に比べて最新スペックのため高い賃料が取れることなどが見受けられます。
 このように、表向きは上記の理由から多くの取引が行われている新築物件ですが、具体的に購入するにあたり見落としてはならない点が二つあります。
 第一に、新築物件の賃料には、「新築物件に住みたい」という賃借人のニーズが新築プレミアムとして上乗せされていることから、当初入居した賃借人が退去して新規募集を行った場合、新築プレミアムが剥がれ落ちた賃料、即ち周辺の中古物件の相場賃料に引っ張られてしまう傾向が強いことです。また、入居前に想定賃料として販売している物件では特に注意が必要です。
 第二に、当初設定された管理費や修繕積立金が将来的に増加したことにより、当初期待していた利回りを獲得できないケースがあります。似たような事例として、バブル時に販売されていた収益不動産の中で利回りを良く見せるために意図的にコストを抑えられていたケースがあります。そこまで悪質ではないとしても、新築物件の建物管理コストと期間が経過した物件の建物管理コストは内容も費用も異なることから、長期的な視点で経常的に発生する費用の増加を見込む必要があります。
 よって、賃料の下落リスクと管理コストの上昇リスクを合理的に予測した場合の期待利回りが満足できるレベルかどうか査定し、物件価格に付加されている新築プレミアムを数値化することが必要です。

3)現空の物件を選ぶメリットについて
 現空物件は、物件自体の生産性が0の状態であることから、収益物件としてネガティブな見方をされることが少なくありません。そのような物件は、空室リスクが目立って見えることから、入居中の物件と比べると安定性という観点から劣るように思われますが、見方を変えると物件の選定を行う上でのメリットも幾つかあります。
 一番のポイントは専有部分の間取りや設備を実際にチェックすることが出来る点です。入居中の物件はどうしても設備の使用状況や使い勝手など実態を把握しづらいので過去の記録や経験から予測せざるを得ませんが、購入前に資産のクオリティをチェックできるので売主との交渉が行いやすく、リフォームした上で専有部分のクオリティを高めたり、必要な修繕箇所の把握を事前に行うことが出来ます。
 以上のことから、入居中の物件と比較した場合に、空室の物件であっても空室理由がタイミングによるものであったり、ネガティブな理由であったとしても費用対効果をより具体的に評価できる場合には、投資対象として検討する価値が十分にあるといえます。


2.賃貸管理編

1)法人名義で借りた物件のリスク
 法人名義で賃貸契約を締結した物件は、個人に比べると身元が安心できる点や賃借期間が長いケースが多いことから、賃借人の属性として望ましいことが一般的に言えますが、法人名義であるが故の潜在的なリスクがあることも指摘されています。
 例えば、ある法人が従業員の共同住居として使用したり、夜間勤務の従業員の宿泊所として使用される場合に、内装や設備の維持への自己責任が希薄な使用者によって退去時のリフォーム費用が増える可能性があります。
 また、複数人の外国人の居住用として法人が借りる場合がありますが、生活文化の違いが使用状況に現れたり、周りの住民との間でのトラブルになる可能性もゼロではありません。逆に言えば、外国人向けに快適な環境が整った賃貸空間の供給も少ないことから、外国人をターゲットにした物件を提供することも一つの投資機会といえます。
 いずれにしても、法人名義で契約を結ぶ場合は、用途と使用状況についてはコントロール可能な状況にし、条件に見合った賃料の設定を行う必要があります。

2)賃貸契約期間の長い物件のリスク
 賃貸期間の長い物件は、賃借人のニーズが高い賃貸物件と評価できる一方で、賃借期間が長いからこその潜在的なリスクも考えられます。それは、貸す側にとって好ましくない生活スタイルや、設備等をぞんざいに扱ったがために、賃借人が退去した後に何から何まで全て新しく更新しなければならなくなってしまうリスクです。
 特に、畳やクロスが煙草や湿気で傷んでしまったり、バス・トイレ・キッチンなどの使用状況がひどいために設備や配管自体に劣化が生じた場合の回復コストは収益性を大きく圧迫することになります。
 このようなことから、賃借期間の長い物件の内部状況に関して何らかの機会を見つけて定期的にチェックできるようにすることや、不穏な兆候が見えた場合には早期に手を打つことが必要です。
 例えば、年次点検や賃借人から設備の修理依頼が来たときに業者任せにせずに、自らが同行することや委託管理会社に具体的に指示しておくことが有効であると考えられます。

(片山直樹)

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)

合理的な不動産投資とは(4)

■不動産投資の具体例

 過去3回の連載の中で以下のようなテーマに沿って話を進めてきました。

1)収益不動産の現況とプライシングについて
2)収益性の高い不動産の定義と不動産の種類やエリアによって異なる特徴
3)賃貸管理と建物管理の重要性

 ここまででお伝えしたかったことは、物件選定のプロセスと購入後の管理・運用については、物件選定の基本的な方針を明確にし、客観的なデータを収集すること、つまり基本軸を決めた上で評価していく方法を取った方が、表面的な情報(例えば築年、利回り、エリアなど)から投資判断するよりもずっと合理的に不動産投資を考えることが出来るということでした。
 今回は、より具体的な投資物件のケーススタディにより、不動産投資の中身についてより実感して頂けるような形式を取っていきたいと思います。


1.ファミリーマンションのバリューアップ

 一般的に、分譲タイプのファミリータイプのマンションは換金性が高いといわれています。その理由は、立地や建物のグレードによる賃貸需要に支えられた投資用不動産としての魅力に加えて、住宅ローンが整備されていたり、当初から所有者が住んでいるため自主管理性が高いことから、実際にお住まいになる方が購入する実需ニーズが高いことが挙げられます。

 また、一般的に、同じ物件であっても実需用物件は賃貸中の物件に比べて取引価格が高い傾向があります。それは、収益不動産が単に不動産から得られる収益性をベースに取引されているのに対し、実需用不動産については、建物の資産価値だけでなく、周辺の住環境や、専有部分の間取りや内装や設備の使用状況など個別条件が多く、個々の方々のニーズに合った居住物件の供給量が少ないことが起因しています。

 そのような特徴を踏まえた上で、購入後にお金を掛けなくてもクオリティが高く維持されている分譲タイプのファミリーマンションに投資をすることも有効ですが、バリューアップの一つの手法として築年が多少古くとも賃貸空間をリノベーションすることによって、バリューアップを図る方法も投資として面白い手法です。

 例えば、都心の主要エリアにおいては、築年の古さに関係なく坪単価当たりの単価賃料は変わらないケースが多いことから、仮に相場賃料が取れていない物件であっても、追加投資をすることで高い費用対効果が得られる場合があります。
 具体的な方法としては、区分けされた間仕切りを取り払うことによりリビングスペースを大きくしたり、バスやトイレなど水周り設備を最新スペックに更新したり、畳や絨毯をフローリングに変えたりと様々な方法があります。

 このように、実需ニーズの高いファミリータイプの収益物件は、他のエリアや種類の不動産と比べると利回りが低い状況ですが、収益性を高める工夫を行うことによって、安定的な運用+空室時の実需売却を狙うことが出来る投資対象として人気があります。


2.用途変更によるバリューアップ

 住居は住居として、店舗は店舗として、賃貸ニーズを満たしていない物件に自ら手を加えることでバリューアップを図る方法は一般的ですが、例外的な投資事例として、住居用途の物件を事務所や店舗に用途変更することによって投資利回りや資産価値を向上する方法があります。

 分かりやすい例として、青山・原宿エリアの築年が古い住居タイプの物件が小売店舗やクリエイティブ系のオフィスとして利用されているケースが挙げられます。住居としては高い賃料が取りづらくなっていても、事務所としての賃料は高く取れることが見込まれる場合、IT環境を整備することでCG関係の会社を呼び込みやすくしたり、2DKタイプの間取りをお洒落な1Rにすることでデザイン関係会社や個人事務所のニーズに合わせたりと、周りのテナントニーズの変化に対応して空間作りをすることで、空間当たりの収益性を高めることが出来ます。

 このような投資手法は、地域特性の変化と従前の住居物件の収益性にギャップが生じていることを認識し、管理規約上で専有部分の用途制限が明確でない物件に投資したり、所有者側で街の変化に合わせた管理規約の修正を図ることで可能になります。このような投資手法は、一般的では無いだけに気が付きにくい投資機会の一例として面白い手法と言えます。

 また、スケルトン状態の店舗物件では期待したほどの収益性を得られない場合の一つの手法として、リースバック方式を採用するケースがあります。リースバック方式とは「居抜き店舗」と呼ばれる厨房設備や、椅子やテーブルなど備え付けた上で賃貸契約を結ぶ方法ですが、なるべく初期投資額を少なくしたい飲食関係の個人事業者のニーズに対応出来る方法の一つです。設備関係は割と安く仕入れることが出来る一方で、高い賃料を設定することが可能なので、費用対効果の高い方法の一つとして挙げられます。

(片山直樹)

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)

合理的な不動産投資とは(3)

JUGEMテーマ:株・投資


■賃貸管理と建物管理の重要性

 前回は、収益不動産のタイプ別の特徴や求められているニーズは何かを知ることで、適正な賃料が形成され、継続して収益を上げることが出来るということを中心にお伝えしました。
 つまり不動産投資とは、株式投資のように資金を事業者に委ねて彼らの経営努力により得られた果実の一部を享受するのではなく、自らが不動産事業という事業主として個々の不動産の収益性を分析し、事業運営していく中で地道に収益を上げていく商品であると言えます。
 そこで、今回は、適正な賃料を継続的に獲得するために知っておきたいテーマとして、賃貸管理業務と建物管理業務について述べていきたいと思います。

■賃貸管理と建物管理の定義

 これらの業務は簡単に分類すると以下に定義されます。

・賃貸管理業務:賃料の設定及び回収、賃借人との折衝、新規募集、専有部分のバリューアップ
・建物管理業務:建物のクオリティを維持するための管理

 賃貸管理業務は、自らが主体的に行うか、賃貸管理業務を代行する不動産会社に委託料を支払う形でアウトソーシングするかのいずれかの方法を取ります。基本的な考えは、賃借人の立場に立った良好な住環境や事業環境を提供することにより価値に見合った賃料を継続的に頂きながら、場合によっては入居中や空室期間中に専有部分に必要なコストをかけることで、収益性の維持向上を図っていくということです。

 建物管理業務とは建物の基本的なクオリティを維持管理していくことです。一般的に、1棟の場合はオーナーが一括もしくは業務別に管理会社に委託するのに対して、区分マンションでは管理組合が責任者となり大手管理会社に一括委託しますが、管理会社に全てお任せにしてしまうと業務内容や修繕計画の把握をしていないがために、期待された費用対効果を得られないケースが出てくるので注意が必要です。

■賃貸管理と建物管理のポイント

 次に、これらの業務についてどのように行っていくことが望ましいのか、また委託会社に任せる際のチェックポイントなどを具体的に見ていきたいと思います。

1.賃貸管理業務

1)賃料の設定
 賃料設定の根拠は、大きく分けて2通りあります。
 1つ目は、過去から現在までの同エリアの類似物件のトラックレコードから相場賃料を設定する方法です。そのためには、周辺賃貸物件の情報を収集し、個々の条件(広さ、築年、設備、アクセス、周辺環境etc)によってどのような賃料が設定されているのか分析する必要があります。
 2つ目は、賃借人の属性が求めるニーズに合わせた付加価値を提供することで、適正な賃料を設定する方法です。そのためには、潜在的なニーズを価値に変換するノウハウが必要になってくることから、前者に比べるとより専門性が求められます。

2)賃料の回収
 賃料の回収業務は、決められた期日(賃貸契約書の約定どおり)までに確実に家賃を回収し、滞納状態を起こさせないための業務です。滞納状態になり賃借人との連絡が取れない場合には、直接賃借人を訪問することがありますが、住居の場合は訪問時間が夜間に制約される場合が多く、店舗の場合は営業時間に合わせなければならないなど面倒になってきます。
 一旦滞納が生じた場合には、必ず滞納が生じた原因追求を行い、物件のスペックに問題があるのか、賃料に不服があるのか、賃借人の経済性に問題があるのか理由を明確にして早期に対策を取ることが再発を防ぐ手段です。また、事前の予防策として有効なことは、新規賃貸借契約時やオーナーチェンジの際に直接賃借人と面識を持ち、その後の賃借人との距離感を一定に保つことで滞納しにくい良好な関係を構築することです。

3)賃借人との折衝
 賃借人との折衝は、設備の不具合から周辺住民に関する苦情など様々です。設備の不具合を放置していたがために契約更新時の賃料交渉でもめたり、退去時の原状回復業務に伴う精算割合が曖昧なためにスムーズに物件の引渡しが進まなかったりするケースがありますが、満足度の高いサービスを受けられる賃貸物件はそれほど多くはないので、賃借人に納得して頂けるサービスを提供することで、差別化を図ることも長期安定的に運用する上で有効な手段です。

4)新規募集
 新規募集の基本的な流れですが、オーナーはまず、「元付(もとづけ)」と呼ばれる不動産購入時の販売会社や仲介会社に募集の依頼を行います。そして、元付会社は、オーナーの意向を受けて、「客付(きゃくづけ)」という物件周辺で店舗を開設している賃貸仲介会社に賃貸物件の斡旋を依頼します。客付から申込み希望者の紹介があれば、元付はオーナーの意向に合っているか判断した後に、オーナーに紹介をします。
 営業力(申込み希望者を多く集客できる力)が他と比べてある客付とは、物件エリアに複数の営業店舗がある現地情報やネットワークの豊富な会社であることはもちろんですが、他エリアとの店舗ネットワークが整備されている会社は、現地に限定された会社に比べて優位性があります。なぜなら、他エリア間のネットワークが構築されている会社であれば、他エリアから賃借人を呼ぶことが出来るからです。
 一方、管理能力が高い元付とは、客付と連携してオーナーの意向と賃借人の属性をマッチングさせることが出来る会社です。客付は、賃借人の属性というよりは出来るだけ多くの申込み希望者を紹介するのが仕事ですが、それに対して元付はオーナー側に立った賃借人の選定が出来なくてはなりません。さらに、客付を通じて申込み希望者から賃料や内装・設備に関して様々な要望が出ることから、オーナーにとって満足できるな問題解決能力がある元付かどうかが重要なポイントです。

5)専有部分のバリューアップ
 賃貸管理を行っていく中で、運用期間中の投資環境の変化を適確に捉えて、価値の向上に結びつける手段を講じることで、資産価値の維持や向上を実現できるか否かは、収益不動産投資を行う上でとても重要なことです。例え立地が最高の場所でも、賃借人のニーズにあった付加価値を提供しなければ管理が上手に出来ている物件に比べて、相対的に収益性や資産価値が損なわれることになります。
 専有部分の価値を一定に維持することは、顕在化しているニーズや問題点に対して迅速に対処することで実現できますが、潜在化しているニーズを掘り起こすためには、客付会社から入ってくる申込み希望者や現地の情報をオーナー(または元付会社)が収集し、過去の同エリアでの実績や他エリアでの成功事例などを総合的に分析する必要があります。
 地価の下げ止まりや上昇基調が見られる需要の多いエリアの物件への投資においては、このような手法を用いて収益性や資産価値をさらに向上させることが非常に有効になります。


2.建物管理業務

1)建物のクオリティを維持するための管理
 建物の管理業務(セキュリティ、消防点検、清掃、設備や建物の点検や修繕)は一般的に管理会社に委託する形態を取ります。1棟物件を複数所有しているオーナーの場合、管理業務を分割委託したり、物件別に比較することで管理業務の費用対効果のクオリティを維持するケースがありますが、管理組合の場合、管理会社にお任せ状態になってしまうと費用対効果が出にくい状況になったり、把握しづらくなるケースがあることから、組合総会などの機会に複数人の視点からチェックしていくことが大切になります。
 また、管理評価の方法の一つとして、所有している物件の状況確認だけではなく受託会社が管理している他の物件を見に行き、建物管理状況の比較をすることは客観的に管理状況を見る上で有効です。
 また、緊急時の対応が迅速な会社は業務レベルが高い会社と言えます。例えば、台風や豪雨時に建物の状況を見に行く会社は、仮に漏水が生じた場合も対策を打つ内容が正確ですが、融通が利かない管理会社の場合、豪雨時に見ておかなかったがために何の原因によって漏水が起きたか分からず、的の外れた検査や修繕をした結果、かえって被害が大きくなったりします。
 また、建物管理に関するちょっとしたアイデアとして、建物の近辺に自販機を設置する方法があります。自販機を設置した場合、初期投資コストやランニングコストが少ない割には、賃借人に喜ばれたりセキュリティの一環としてのメリットがあります。


 このように、不動産投資とはオーナーとして資産を育てる面白さがある反面、資産の働き具合もオーナー次第で変わってくることから、事業期間中の経営を堅実かつ工夫をしながら行っていくことが重要になります。また、そのようなオーナーの意向に敏感な管理会社を選定することがオーナーの手間を省くために必要となります。

 次回は具体的な投資事例についてご紹介していきます。

(片山直樹)

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)


合理的な不動産投資とは(2)

JUGEMテーマ:株・投資


◆収益性を解析する上でのポイント

 現在の不動産の価格形成において「収益還元法」が主流となっており、個々の不動産の収益性を合理的に評価することが重要であると前回書きましたが、一概に利回りの高い不動産の収益の安定性や資産価値が高いかというと、そうではないケースが多々あるのが不動産投資の難しいところです。
 利回りの高低に限らず、収益性が安定した不動産は運用期間中の不動産価格も安定していますが、収益性に不安定な要素がある不動産は運用期間の賃料水準だけでなく売却価格も割り引いて評価する必要があります。

 今回は、個々の不動産の収益性を分析していく際にどのような点に着目していけば良いのか、不動産の種類やエリアによって異なる特性と、また逆に共通点をご紹介していきたいと思います。

■共通点

 どの不動産にも共通に言えることは、地域の特性や賃借人のニーズに合致した空間を持ち、適正な賃料を提供できているかということです。
 言い換えるならば、エリアごとの賃借人のライフスタイルや嗜好性、またはエリア自体の特徴やトレンドには一定の傾向があることから、その特徴を把握し、賃借人やテナントの生産性に合った賃料を設定することにより計画的な運用が可能になるわけです。

■不動産種類別の特性

1)単身者向け賃貸物件(1Rマンション他)の特徴
 プライムエリアでは、デザイン性の高い内装や間取りが賃借人のライフスタイルに合っているため、既に条件が整っている物件や、購入後に手を加えることが可能な物件の付加価値が高く、それ以外の地域では、学校や会社や商業地へのアクセスが良い物件の賃料が安定しています。
 また、夜間の生活の利便性が高いエリア(夜間人口の多いエリア)の需要が全般的に高いこともポイントの一つです。一般的には夜遅くまで営業している飲食や物販やその他生活サービスの充実が挙げられます。また例外的に歓楽街の夜の世界で働く単身の方々は、50〜80m2のマンションで多少賃料が高かったり上がったりしても、その方々の生産性からすると障壁にならないことから、それにフォーカスした物件を運用したり、ペット可にすることにより更に賃料を上げることに成功したりしています。
 また、住居用途のスペックでも、立地や建物の管理規約によっては既に事務所や店舗として利用していたり、将来的に賃貸可能な物件が東京の渋谷エリアを中心に多く存在しています。住居に比べ単価賃料が高いことから、このような兼用物件も投資対象として魅力があります。

2)DINKSや核家族向け賃貸物件(ファミリーマンション)
 一般的にファミリータイプの物件は、単身者向けのタイプと比べると賃貸期間が長い(ファミリーで5〜7年、単身で3〜5年が目安)ことから固定的な運用が出来る反面、空室期間は単身者向けより余裕を見る必要があります。それは、休日しか夫婦そろって物件探し出来なかったり、単身者に比べて物件を決める条件が多いことが理由ですが、具体的には以下のような例があります。

 ・近くにスーパーマーケットが2つ以上あること
 ・セキュリティの完備、室内の設備(追い炊きや浴室乾燥の完備)、分譲タイプであること
 ・建物内のごみステーションや駐輪場など共有部分の充実
 ・隣人やマンションの住民の素性、遮音性

 短期間で大量に供給されたエリアでは、治安や生活環境などのインフラ整備が十分に行き届かなかったりしたことから犯罪が多発するケースがありますが、このような個別性が不動産の価値に大きく影響することもあります。

 以上のようにファミリータイプの物件は考慮するポイントが多い反面、多くの条件を満たした立地も限られていることから需要と供給のバランスは安定しており、また実需向けの売却もしやすいという特徴があります。

3)区分所有権の店舗
 近年脚光を浴びているのが、区分所有権の店舗です。
 店舗の種類には、大別するとコンビニやドラッグストアなどの物販、美容院やエステやマッサージなどの専門サービス、そして飲食関係が挙げられますが、これらの物件に投資する妙味は、同種や関連の深い他店舗との相乗効果によりそのエリアの価値が高まり、収益性の向上につながりやすい点です。
 一般的にこのような物件はテナントの需要予測や賃料水準が分かりにくいようですが、賃料水準については、誘致できるテナントの売上予測(生産性)から支払える賃料の相場が決まりますし、需要の高いエリアや広さについてはそれぞれの基準がありますので、誘致したいテナントのターゲットの分析を行い、幅広いニーズを満たす物件を選ぶことが重要になります。
 また住居物件と異なる点は、退去宣告予告が住居の場合1〜2ヶ月なのに比べて6ヶ月と長いことにより十分なリーシング活動ができること、敷金・保証金が住居に比べて多く償却が可能な場合もあること、テナントへの賃借始終がスケルトン状態での引渡しになるため住居のように内装修繕費用が掛からない点などが特徴となっています。

 次回は、収益性を維持・向上するために重要な建物管理や賃貸管理の基本をテーマに進めていきたいと思います。

(片山直樹)

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)

合理的な不動産投資とは(1)

JUGEMテーマ:株・投資


 はじめまして。不動産の流動化事業を幅広く手がけている株式会社レーサムリサーチで、収益不動産組成・販売の現場で日々奮闘している片山と申します。

 不動産投資は、市況の底入れ感が見られることから投資しやすい環境と言えますが、個々の物件を見るとエリアや物件の個別性が高いことから、収益性や流動性を合理的に評価することが非常に困難です。
 しかしながら不動産についても株式投資の際の企業分析と同じように、個々の物件をつぶさに分析し、本来の価値を知り、維持・向上を図る手段が想定できるならば、長期間に安定的な運用が出来る面白い対象ではないかと思います。

 このたびは億近の読者の皆様へ、私が日々現場で活動している目線から感じていることをベースに、どんな投資基準の下で1戸のマンションから1棟のビルまで手がけているのか、どんなノウハウを、どうやって提供しているのか、感じていただければと思いこの文章を書いております。是非おつき合いいただければと思います。


■合理的な不動産投資とは(1)■

◆5年前と今の不動産価格とプライシングについて

 平成18年3月24日に国土交通省より発表された公示地価によると、三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)における住宅地及び商業地の地価は、都心部において上昇または横這いとなり、これまでのデフレ傾向からニュートラルまたはインフレ傾向に移りつつあります。
 地方圏についても、札幌市や福岡市の一部地点で上昇地点が見られるなど、中核都市においても回復傾向が散見されるようになりました。

 とは言え、東京圏の場合、渋谷区や港区など一部の地域で高い上昇率を示しているのに対し、利便性が相対的に劣る東京都郊外部や埼玉・千葉・神奈川県の中核都市以外については依然と下落している地点が多く、ここ5年間のトレンドを追うと二極化がより鮮明になっています。

 こうした背景には、不動産の流動性が著しく低下した状況と、低金利の経済状況の最中に不動産金融市場が整備されたことから、海外からの莫大な資金がJ−REITや私募ファンドを通じて都心部や一部の地方中核都市の不動産に投資され、国内機関投資家や個人投資家の資金流入を呼び込んでいることがあるのは周知の事実です。そこに、一般企業による商業地への投資需要やオフィス需要の高まりや、個人による都心部のマンションへの居住ニーズの高まりなど実需面での不動産需要が現在の不動産市況の下支えになっています。

 一方で、不動産のプライシングについては、

・対象不動産を再調達した場合の原価算出と減価修正に基づく「原価法」
・近隣の売買や賃貸借の類似事例に基づく「取引事例比較法」
・対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和に基づく「収益還元法」

を総合的に評価して決定されていますが、過去をひもとくと、

・高度成長以降バブル以前の地価逓増時代には「原価法」
・バブル時の急激な地価上昇時代には「取引事例比較法」

が主に用いられていました。
 現在では「収益還元法」により期待される純収益の算定により価格形成が行われています。
 つまり、個々の不動産の収益性を合理的に評価し、運用期間中の収益力を維持・向上することが不動産投資でとても重要になっているのです。

次回は「収益性の解析」をテーマに進めていきたいと思います。

(片山直樹)

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)

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