■不動産投資における落とし穴とは?
今回は、通常見落としてしまいかねない不動産投資リスクというテーマで、いくつかケースを挙げていきたいと思います。
1.売買編
1)修繕積立金の未達による一時負担金の発生
修繕積立金とは、長期修繕計画の中で必要な修繕工事の総コストを算出し、それを管理費と同様に月単位あたりで計画的に積立できる費用です。修繕積立金の算出については、所有者によって編成された管理組合の指示により、建物管理会社や一級建築士事務所等が作成する長期修繕計画書に基づいて算出され、管理組合が承認する形で決定されます。
しかしながら、個々の物件によっては、将来の長期修繕工事の時期に積立不足になってしまう物件や、修繕計画や維持管理状況がずさんなために一時負担金が突発的に発生しかねない物件が現実的には存在しています。
そのような物件の収益性を合理的に評価するためには、長期修繕計画の過去の実績を調べて、現時点から将来における計画の安定性を精査することが必要です。そして、一時負担金が発生する可能性がある場合には、想定コストを支出項目に含めた上で運用利回りを算出する必要があります。
その結果、一時負担金や修繕積立金の増額が必要な場合でも期待利回りを維持可能な運用計画が立てられます。
2)新築物件の落とし穴
新築物件は、長期のローンが適用されやすいことからサラリーマンの方々を中心に人気があります。そのうたい文句は、建物の劣化状況の評価が不要なこと、減価償却費による損益通算の効果が大きいこと(新築のため建物の割合が高い)、管理または修繕コストが少ないこと、中古物件に比べて最新スペックのため高い賃料が取れることなどが見受けられます。
このように、表向きは上記の理由から多くの取引が行われている新築物件ですが、具体的に購入するにあたり見落としてはならない点が二つあります。
第一に、新築物件の賃料には、「新築物件に住みたい」という賃借人のニーズが新築プレミアムとして上乗せされていることから、当初入居した賃借人が退去して新規募集を行った場合、新築プレミアムが剥がれ落ちた賃料、即ち周辺の中古物件の相場賃料に引っ張られてしまう傾向が強いことです。また、入居前に想定賃料として販売している物件では特に注意が必要です。
第二に、当初設定された管理費や修繕積立金が将来的に増加したことにより、当初期待していた利回りを獲得できないケースがあります。似たような事例として、バブル時に販売されていた収益不動産の中で利回りを良く見せるために意図的にコストを抑えられていたケースがあります。そこまで悪質ではないとしても、新築物件の建物管理コストと期間が経過した物件の建物管理コストは内容も費用も異なることから、長期的な視点で経常的に発生する費用の増加を見込む必要があります。
よって、賃料の下落リスクと管理コストの上昇リスクを合理的に予測した場合の期待利回りが満足できるレベルかどうか査定し、物件価格に付加されている新築プレミアムを数値化することが必要です。
3)現空の物件を選ぶメリットについて
現空物件は、物件自体の生産性が0の状態であることから、収益物件としてネガティブな見方をされることが少なくありません。そのような物件は、空室リスクが目立って見えることから、入居中の物件と比べると安定性という観点から劣るように思われますが、見方を変えると物件の選定を行う上でのメリットも幾つかあります。
一番のポイントは専有部分の間取りや設備を実際にチェックすることが出来る点です。入居中の物件はどうしても設備の使用状況や使い勝手など実態を把握しづらいので過去の記録や経験から予測せざるを得ませんが、購入前に資産のクオリティをチェックできるので売主との交渉が行いやすく、リフォームした上で専有部分のクオリティを高めたり、必要な修繕箇所の把握を事前に行うことが出来ます。
以上のことから、入居中の物件と比較した場合に、空室の物件であっても空室理由がタイミングによるものであったり、ネガティブな理由であったとしても費用対効果をより具体的に評価できる場合には、投資対象として検討する価値が十分にあるといえます。
2.賃貸管理編
1)法人名義で借りた物件のリスク
法人名義で賃貸契約を締結した物件は、個人に比べると身元が安心できる点や賃借期間が長いケースが多いことから、賃借人の属性として望ましいことが一般的に言えますが、法人名義であるが故の潜在的なリスクがあることも指摘されています。
例えば、ある法人が従業員の共同住居として使用したり、夜間勤務の従業員の宿泊所として使用される場合に、内装や設備の維持への自己責任が希薄な使用者によって退去時のリフォーム費用が増える可能性があります。
また、複数人の外国人の居住用として法人が借りる場合がありますが、生活文化の違いが使用状況に現れたり、周りの住民との間でのトラブルになる可能性もゼロではありません。逆に言えば、外国人向けに快適な環境が整った賃貸空間の供給も少ないことから、外国人をターゲットにした物件を提供することも一つの投資機会といえます。
いずれにしても、法人名義で契約を結ぶ場合は、用途と使用状況についてはコントロール可能な状況にし、条件に見合った賃料の設定を行う必要があります。
2)賃貸契約期間の長い物件のリスク
賃貸期間の長い物件は、賃借人のニーズが高い賃貸物件と評価できる一方で、賃借期間が長いからこその潜在的なリスクも考えられます。それは、貸す側にとって好ましくない生活スタイルや、設備等をぞんざいに扱ったがために、賃借人が退去した後に何から何まで全て新しく更新しなければならなくなってしまうリスクです。
特に、畳やクロスが煙草や湿気で傷んでしまったり、バス・トイレ・キッチンなどの使用状況がひどいために設備や配管自体に劣化が生じた場合の回復コストは収益性を大きく圧迫することになります。
このようなことから、賃借期間の長い物件の内部状況に関して何らかの機会を見つけて定期的にチェックできるようにすることや、不穏な兆候が見えた場合には早期に手を打つことが必要です。
例えば、年次点検や賃借人から設備の修理依頼が来たときに業者任せにせずに、自らが同行することや委託管理会社に具体的に指示しておくことが有効であると考えられます。
(片山直樹)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
今回は、通常見落としてしまいかねない不動産投資リスクというテーマで、いくつかケースを挙げていきたいと思います。
1.売買編
1)修繕積立金の未達による一時負担金の発生
修繕積立金とは、長期修繕計画の中で必要な修繕工事の総コストを算出し、それを管理費と同様に月単位あたりで計画的に積立できる費用です。修繕積立金の算出については、所有者によって編成された管理組合の指示により、建物管理会社や一級建築士事務所等が作成する長期修繕計画書に基づいて算出され、管理組合が承認する形で決定されます。
しかしながら、個々の物件によっては、将来の長期修繕工事の時期に積立不足になってしまう物件や、修繕計画や維持管理状況がずさんなために一時負担金が突発的に発生しかねない物件が現実的には存在しています。
そのような物件の収益性を合理的に評価するためには、長期修繕計画の過去の実績を調べて、現時点から将来における計画の安定性を精査することが必要です。そして、一時負担金が発生する可能性がある場合には、想定コストを支出項目に含めた上で運用利回りを算出する必要があります。
その結果、一時負担金や修繕積立金の増額が必要な場合でも期待利回りを維持可能な運用計画が立てられます。
2)新築物件の落とし穴
新築物件は、長期のローンが適用されやすいことからサラリーマンの方々を中心に人気があります。そのうたい文句は、建物の劣化状況の評価が不要なこと、減価償却費による損益通算の効果が大きいこと(新築のため建物の割合が高い)、管理または修繕コストが少ないこと、中古物件に比べて最新スペックのため高い賃料が取れることなどが見受けられます。
このように、表向きは上記の理由から多くの取引が行われている新築物件ですが、具体的に購入するにあたり見落としてはならない点が二つあります。
第一に、新築物件の賃料には、「新築物件に住みたい」という賃借人のニーズが新築プレミアムとして上乗せされていることから、当初入居した賃借人が退去して新規募集を行った場合、新築プレミアムが剥がれ落ちた賃料、即ち周辺の中古物件の相場賃料に引っ張られてしまう傾向が強いことです。また、入居前に想定賃料として販売している物件では特に注意が必要です。
第二に、当初設定された管理費や修繕積立金が将来的に増加したことにより、当初期待していた利回りを獲得できないケースがあります。似たような事例として、バブル時に販売されていた収益不動産の中で利回りを良く見せるために意図的にコストを抑えられていたケースがあります。そこまで悪質ではないとしても、新築物件の建物管理コストと期間が経過した物件の建物管理コストは内容も費用も異なることから、長期的な視点で経常的に発生する費用の増加を見込む必要があります。
よって、賃料の下落リスクと管理コストの上昇リスクを合理的に予測した場合の期待利回りが満足できるレベルかどうか査定し、物件価格に付加されている新築プレミアムを数値化することが必要です。
3)現空の物件を選ぶメリットについて
現空物件は、物件自体の生産性が0の状態であることから、収益物件としてネガティブな見方をされることが少なくありません。そのような物件は、空室リスクが目立って見えることから、入居中の物件と比べると安定性という観点から劣るように思われますが、見方を変えると物件の選定を行う上でのメリットも幾つかあります。
一番のポイントは専有部分の間取りや設備を実際にチェックすることが出来る点です。入居中の物件はどうしても設備の使用状況や使い勝手など実態を把握しづらいので過去の記録や経験から予測せざるを得ませんが、購入前に資産のクオリティをチェックできるので売主との交渉が行いやすく、リフォームした上で専有部分のクオリティを高めたり、必要な修繕箇所の把握を事前に行うことが出来ます。
以上のことから、入居中の物件と比較した場合に、空室の物件であっても空室理由がタイミングによるものであったり、ネガティブな理由であったとしても費用対効果をより具体的に評価できる場合には、投資対象として検討する価値が十分にあるといえます。
2.賃貸管理編
1)法人名義で借りた物件のリスク
法人名義で賃貸契約を締結した物件は、個人に比べると身元が安心できる点や賃借期間が長いケースが多いことから、賃借人の属性として望ましいことが一般的に言えますが、法人名義であるが故の潜在的なリスクがあることも指摘されています。
例えば、ある法人が従業員の共同住居として使用したり、夜間勤務の従業員の宿泊所として使用される場合に、内装や設備の維持への自己責任が希薄な使用者によって退去時のリフォーム費用が増える可能性があります。
また、複数人の外国人の居住用として法人が借りる場合がありますが、生活文化の違いが使用状況に現れたり、周りの住民との間でのトラブルになる可能性もゼロではありません。逆に言えば、外国人向けに快適な環境が整った賃貸空間の供給も少ないことから、外国人をターゲットにした物件を提供することも一つの投資機会といえます。
いずれにしても、法人名義で契約を結ぶ場合は、用途と使用状況についてはコントロール可能な状況にし、条件に見合った賃料の設定を行う必要があります。
2)賃貸契約期間の長い物件のリスク
賃貸期間の長い物件は、賃借人のニーズが高い賃貸物件と評価できる一方で、賃借期間が長いからこその潜在的なリスクも考えられます。それは、貸す側にとって好ましくない生活スタイルや、設備等をぞんざいに扱ったがために、賃借人が退去した後に何から何まで全て新しく更新しなければならなくなってしまうリスクです。
特に、畳やクロスが煙草や湿気で傷んでしまったり、バス・トイレ・キッチンなどの使用状況がひどいために設備や配管自体に劣化が生じた場合の回復コストは収益性を大きく圧迫することになります。
このようなことから、賃借期間の長い物件の内部状況に関して何らかの機会を見つけて定期的にチェックできるようにすることや、不穏な兆候が見えた場合には早期に手を打つことが必要です。
例えば、年次点検や賃借人から設備の修理依頼が来たときに業者任せにせずに、自らが同行することや委託管理会社に具体的に指示しておくことが有効であると考えられます。
(片山直樹)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)